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パフォーマンスいわれ11「サディスティクサーカス4<花魁切腹>」

2008年のサディスティクサーカス。この年初めて制作側からショーの内容に関して提案を受けた。「花魁切腹なんてどうだろう」。そしてパフォーマンス相手も組み合わされた。ギタープレイヤーJINMO氏と華道家上野雄次氏である。

実は2007年にヴァニラ画廊の付属店としてオープンしたショットバー「ヴァニラマニラ」のスタッフとなり、サディスカ運営側と共同体となっていた。なのでいろんな要望をお互いに言いやすい存在となっていたのだ。これは私にとって幸せなことであった。私のやりたいパフォーマンスと、制作側が望むパフォーマンスの意見交換ができ、より協力体制が密になる、ということ。

ギターリストのJINMO氏は前年のサディスカで、爆音、迫力のあるギターパフォーマンスを披露していた。華道家の上野雄次氏は当時舞台監督をしていた呂師氏の紹介であった。私はもちろん初対面である。3人の組み合わせで「花魁切腹」なんて、さぁ、どうしよう、、。とりあえず私は、自分がどうパフォーマンスをするか考える。この頃私は映画「曽根崎心中」にはまっていた。

1978年公開(ATG)監督増村保造のこの映画。原作は近松門左衛門。

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公開当時に観ているが、サントラ盤を手に入れたり、何度も観直していた。女郎「お初」の梶芽衣子。惚れた男の為に命を懸ける姿。力のある演技に引き込まれる。相手の醤油屋の手代「徳兵衛」は心根の優しい、というか弱い男を演じるは宇崎竜童。ちょんまげのズラが意外に似合い、線の細い体型が人格をよく表し、容姿が魅力的であった。そして劇中曲も宇崎の曲。これがまたいい。雰囲気満点。私はこの「曽根崎心中」の雰囲気を心に想って演じることにした。

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映画「曽根崎心中」は向き合った樹にお互いの体を縛り付けて心中という構図で、それは絵的に美しいものであるが、私はこの肝の座ったお初に、切腹させたいと思った。華道とギターがどう関わるかまだ未知数だが、とりあえず映画の中の好きなセリフを元に構成案を提出した。

ナレーション「夢の夢こそ哀れなれ。どうせ夫婦(めおと)となれぬ我が身。愛おしい男の手にかかって心中しよう。二人一緒に見事に死んで、恋の手本になることじゃ。これが女子(おなご)の最後の意地じゃ」

演者2人には制作側から私の意図が伝わり、それぞれが考えてくれ、華道家上野氏は大きな柳の樹をドラム缶に活けるという。ギターJINMO氏はテーマ曲を古賀政男の「影を慕いて」にしたという。JNMO氏の演奏と風貌から想像もできない提案であったが、当日に逢い、その真意を聞くと、この曲は昔から好きであったという。人は見かけによらないのである。そして私の問題点は髪だ。衣装はなんとでもなるが、花魁の結い髪は外せない。レンタルカツラを探すも、とても高価で簪なども含め1日7万円以上であった。さすがにそこまでの予算はなく、自毛でそれっぽく結うことにした。そこで、当時フロアショーでお世話になっていた事務所の方に連絡し、臨時の髪結い師(美容師)を紹介してもらった。ステージでそれっぽく見えるテクニックが必要だから。簪はショーっぽい感じで自作した。

今回の会場は、東京鶯谷「キネマ倶楽部」。昔はグランドキャバレー「スター東京」で、石原裕次郎や数々のスターがそのステージに立った会場である。今までの会場とは違い、雰囲気が華やかで豪華であった。

制作側は一つの懸念があったという。上野氏もJINMO氏も過激なパフォーマンスが評判であったから。ショーと言えども最低限のルールはある。会場の器物を破損しないこと。ドラム缶に活けるということは大量の水が入っている。ステージにはスピーカーやら高価な機材が置かれている。さぁ、大丈夫か…。

「花魁切腹」

華道家上野雄次、活ける(15分)。バック演奏JINMO氏。       活け終わり、上野氏舞台去る。                               プロジェクター字幕                            「夢の夢こそ哀れなれ。どうせめをととなれぬ我が身。いとしい男の手にかかって心中しよう。二人一緒に見事に死んで、恋の手本になることじゃ。これがおなごの最後の意地じゃ」                         JINMO、テーマ曲演奏。                             早乙女登場。嘆きの舞。                             天と大地を結ぶ空間に浮かび(逆さ吊り)、あの世へ向かう決意をする。         覚悟の腹切り。ため、長く、じっくりと。 絶命              絶命後もしばらく音残り、音終わりと共に暗転。

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私は前半戦の二人がよく見れなかった。登場した時、ステージは水浸しであった。その瞬間に私は「あ、着物がダメになるな。レンタルでなくてよかった」現実的な反応をしてしまったが、その後はすぐにパフォーマンスに入り込み、むしろ濡れたステージが気持ちよく、哀しくも凛々しい花魁切腹ができた。

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のちにわかったのは、上野氏の花生けに刺激されたJINMO氏は、水の入ったドラム缶を倒そうとしていたという。体当たりで何回も押していた。制作は、スピーカー近くにあったドラム缶が本当に倒れないか、気が気ではなかったという。

私はこの回のパフォーマンスが忘れられない。実に豪華であった。本当は花魁のカツラを用意したかったが、自毛で結ったということも私の夢であったから(完全な形ではないが)、全てに満足感があった。意見交換ができ、これからさらにこのサディスカが楽しみになるだろう。


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