見出し画像

パフォーマンスいわれ13 サディスティックサーカス6<葛の葉>

2011年。この年のサディスカは演りたい演目があった。前回、前々回は制作側からの相談で、コラボレーション作品を作り、それはそれで楽しかったのだが、私の過去の作品の中で完成させたいものがいくつかあった。過去の作品はストリップ劇場で作ったものだが、ストリップ劇場での制約の中で作ったものなので、もう少し完成度をあげたかったのだ。

そしてまず選んだのは「葛の葉」。これは歌舞伎では「芦屋道満大内鏡(あしやどうまんおおうちかがみ)」の四段目「子別れ」という芝居で有名であるし、サーカスでは「木下サーカス」の足芸「障子回し」で十八番となっている。

画像1

物語の主人公は狐。その狐が人間に化け、恋をし、人間の子を産む。その子供はのちの陰陽師安倍晴明。こんなファンタジー、私は大好きである。私は歌舞伎で観て、この哀愁がある物語と切腹を組み合わせて作ってみたのだ。

もう少し物語を説明すると、白狐狩りをしていた殿様たちから追い詰められた狐を助けたのが安倍保名。恩を感じ白狐は保名が心配していた許嫁「葛の葉姫」に化け、保名を安心させ、所帯を持ってしまう。やがて男児晴明を授かるが、ある日、本当の葛の葉姫の両親が訪ねてくるという。これはもう全てがバレてしまう。白狐は元の姿に戻り、晴明を泣く泣く置いていき、障子に一首書き残して去っていく。

「恋しくば 訪ね来てみよ 和泉なる                         信田の森の うらみ 葛の葉」

この物語の見せ場は、この文字書きである。歌舞伎でもサーカスでも、このシーンは外せない。人間でないため、左手で書いたり、口で筆をくわえたりと技が仕込まれている。ストリップ劇場では、ただ障子紙を垂らし普通に書いていたが、このサディスカでは舞監が障子戸を用意してくれた。したがって普通には書けない。裏文字である。私は1週間特訓したが、綺麗に書けたとは言い難い。

そして衣装。これは早変わりが必要。狐から人、人から狐、と変わっていくので、冒頭は二部式着物風に作り、さっと着物を脱げるようにしたり、襦袢は白で「義経千本桜」の四段目「狐忠信」風に流動感が出るようにフサを作ってみた。

さすがにこのイベントで赤ん坊のエキストラを頼むわけにもいかないので、人形の影だし、とする。昔からあるような赤ちゃん人形なので、雰囲気の影でしか見せられない。この辺りは仕方ないことだ。

パフォーマンスで使う曲は、初めてこの演目を作った頃から気に入っている曲があり、変えられない。出だしは奏琴での演奏で「荒城の月」。アレンジがもの悲しく、間奏ではアップテンポと変わっていくので、演技しやすい。そして後半、子別れでは「五木の子守唄」。チェロアレンジを知人にお願いした。切腹は、愛する夫と子供を残し、昇天していく狐。悲しみを込めてグルック作曲「メロディ」を選ぶ。単なる悲しみだけでなく、昇華していく魂に捧げるためでもある。そして今回、サディスカでは中間を「床入り」としたので、地唄「黒髪」を入れた。

この演目は小道具も大切だ。見せられない小道具は先ほど書いた「赤ちゃん人形」であるが、まず「狐面」。これは過去、ストリップ劇場でデビューした「オサダゼミナール」時から使用している面である。確か浅草で売っていたもの。キリッとした細面が好きである。そして文字書きの「筆」。太めのものを用意したが、舞監からノーマルなフォルムでは面白くないから、布等を巻きつけてみたら、と意見が出、ちょっと細工した。腹切りの刀は、婚礼時に持参した、という意味合いも込め、朱鞘の短刀とした。「私は決して貴方達のことは忘れません。人間でいた時間は幸せでした。私は狐に戻らず、このまま命の終わりとします。ありがとうございました」という思いの短刀である。

画像2

「葛の葉」                               シーン1                              ナレーション①
「陰陽師安倍晴明の母、実は白狐の化身だったのです。白狐は晴明の父である保名に助けられ、その恩返しに保名を助け、そして惚れてしまった。白狐は保名の許嫁の葛の葉姫に化け、保名と暮らした。しかし真実が判りそうになった時葛の葉は白狐に戻り、泣く泣く子を置いて去っていったのでありました。」
障子裏板付。
ナレーション終了後、バックライトオン。
影だし。
狐面。影からやがて姿を見せる。
狐踊り。
一曲目終了一分前、人間(葛の葉姫)に変身。衣、早替わり。面取り。

シーン2

葛の葉姫に化け、人として保名との床入り。艶っぽく脱ぎ、愛撫を受ける様。
ナレーション②
「貴方、何処へ行くのです?
私の母に逢いに?
それはなりませぬ…。」

シーン3

嘆き、白狐に戻る。襦袢着替え。
障子裏。バックライトオン。
影で子供の人形見せる。
狐ながら母の感情。悲しみ。
悲しみの歌、障子裏から裏文字で書く。
「恋しくば たずね来てみよ 和泉なる
信田の森の うらみ 葛の葉」
書き終わり、筆くわえ、表へ出る。
障子前ポーズ。

シーン4

白狐、別れの腹切り

             暗転

(2011サディスティックサーカス 改定五稿)

画像3

(写真2点 T.Bakuya)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?