『鶴』
旗の色ですら明瞭に感じてしまうこの網膜とやらに呆れ、思い浮かべるはやはり便器。色のなさに憧れつつも辿り着いたのは霧の中。得体の知れない魅力はすぐに冷め、徐々に指図する人の声も大きくなってきた。土鍋を触るにはまだ熱く、しかし時間を潰すほどの余裕はない。いっそ蓋を叩き割ってしまえばと思うも、猿真似の序章にすぎない。曖昧な誘いに惹かれ、進んだ先は崖であった。しかしそこから見上げる太陽は美しく、このまま焼かれてもよいとさえ思えた。燃えて、海に包まれる。
鶴の都で会った名も知らない友のことを思う。薄眉毛と狂気の笑顔。右往左往した行き道のことも忘れ、ただ熱湯に身を浸すことしか頭にない。
雨宿りにうつつを抜かした日々、そこから先はあまりにも短かった。
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