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文明開化の音が聴こえぬ

カンタン酢やつけて味噌のチューブなどは味が完成されていて、もはや工業製品だ。
先日純粋な米酢で胡瓜の和え物を作ったら、理科の実験で誤って飲んだ酢酸の味がした。
これが正しいはずだ。
つまり自分は、酢酸からカンタン酢が作られる過程を味わいたかったのだ。小さな台所から生まれるはずだった無数の可能性あるいは奇跡の取り合い。それを企業の研究者に、その特権を奪われた心地だ。今この瞬間も、地道で正確な調合と再現性のある数値、そして均質な実験室からさえも漏れ出る歓喜。彼らの苦しみさえ感じるかもしれない汗と涙の結晶により、完璧な調味料が誕生している訳だろうか。

百歩譲って、万能調味料が発明されるタイミングに生まれ、お店の味をご自宅でお手軽に再現する感動を味わう。これ、一市民として、大衆として消費者として、ぎりぎり許せるライン。
文明は進みましたが、私は取り残されておる。

更に最悪なことに、まもなく暑い夏が来る。
毎年毎年、今後自分はエアコンと一生を共にするのだという絶望感に苛まれる。
一生の相棒がエアコンとは、格好悪すぎる。
強そうな鳥類を肩に乗せて生きていきたかった。
どんなに精巧で美しい眼鏡をかけていようが変わらぬ現実。人類が宇宙人に言えない恥の一つ。

残酷なことに、エアコンは相棒ではなく私が一方的に依存している点。ここが余計に腹立たしい。

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