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笹舟に乗せて、青空に~エニシング・ゴーズ🚢の大千秋楽

 一日千秋の思いで待ちわびた「エニシング・ゴーズ🚢」の博多座公演。
コロナ禍により、わずか7日の東京公演ののち全公演が中止され、幻となってしまった。
 紅ゆずるさんはじめキャストの方々、スタッフさん方、この舞台に懸けてこられた皆さんの心中はいかばかりだっただろう。
 東京の明治座、名古屋の御園座、大阪の新歌舞伎座、そして博多座での公演を心待ちにしていた大勢のファンの嘆きや寂しさ。

 2021年10月5日午後、本来ならば博多座で大千秋楽を迎えるはずのころに、紅ゆずるさんのメッセージがSNSを通じて流れた。

 主演女優としての葛藤や辛さを抱えておられたであろう日々を経て、また新しい一歩を踏み出そうとしておられる。
 キャストさん方もSNSのメッセージを通じて、エニシング・ゴーズ🚢への気持ちに一つの区切りをつけようとなさっておられたようだ。

 
 本日も晴天なり。
 ゆずるさんも笑顔なり。
 また新しい扉が開くときなのだなあと思った。

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 いつまでも嘆いてばかりはいられないけれど、本当に、この素晴らしい舞台を観たい、ゆずるさんが生き生きと歌い、踊り、演じるリノに会いたいと願って、待ちわびた日々の想いは、そうやすやすと消えそうにない。
 心に残る気持ちをすこしずつ整えるために、いくつかのものをここに載せてみようと思った。笹舟に乗せるみたいにして。


 6月~チケット申し込みのドキドキ

 6月。ファンクラブでの初めてのチケット申し込み。くじ運の悪い自分のことだから……とがっかりするのが怖くて、一か月も結果を見られずにいたこと。
 思いがけない良席に、「……えっ!」と息を呑んだこと。

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  生まれて初めてのマチソワ観劇も計画していて、千秋楽含め、4公演のチケットを申し込んでいた。どのお席もすごくよくて、「見間違いじゃないよね」「夢みたいだなあ……」と何回も何回もチケット番号を確認したこと。
 舞台のダイジェスト動画を見ながら、「あのお席からだったら、こんなアングルで拝見できるかも」と胸を躍らせたこと。
 「もしかしたら、ゆずるさんと一瞬目が合うかもしれない……どうしよう」などと、要らぬ心配をしたこと。

8月~いよいよ上演開始!

 そして8月。
「このカレンダーを次にめくる頃には、エニシング・ゴーズ🚢の博多座公演のマイ初日なんだ……!」と胸が躍った。


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 10日遅れの初日の幕が上がり、いよいよ公演がスタート。
 劇評も、観劇なさった方たちの反応も絶賛の嵐。
 ゆずるさんはじめ、キャストの皆さんの手ごたえも十分のようで、SNSには生き生きとした様子が次々と公開された。
 この公演が大阪や名古屋などでも日を重ね、ますます磨き上げられていって、博多座で大千秋楽を迎える。その数日のうち、4公演も間近で拝見できるなんて、夢みたいだ……。

 明治座で観劇なさった方たちの熱い熱いツイートやブログを見ては、ネタバレになるのも惜しいような、でも、どんなふうなのか知りたいジレンマでやきもきしたこと。
 紅リノちゃんと廣瀬イヴリン氏の恋の進展する場面の話を聞き、「わあ、妬けちゃうなあ(笑)」などと、思ったこと。
 早くこの目で観たい。一日も早くゆずるさんの魅力的なリノちゃんに会いたい。

 

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 「ビンビンポッポ💕」
 「梅の花ちゃん」……etc.
 舞台の見どころであろう魅力的なキーワードがたくさんタイムラインにあふれ、スクロールするのももどかしいくらいツイートがいっぱいあって、ワクワク、ドキドキ、そわそわした日々。
 「3日も博多座に行くんだよね、何着ていこうかなあ」と思いながら、海や空の色にちなんだブルーの洋服やアクセサリーを見に行ったこと。
 思えば、一番楽しくて心が浮き立つ時期だった。

 そんな心弾む日もつかの間、コロナ情勢の悪化、罹患されたキャストさんやスタッフさんがおられての明治座公演休止のお知らせに愕然とした。
 罹患された方が早く回復され、何とかまた再開されてほしい。
 そう願いながら、宗像大社にお参りした。

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 9月~不安と願いの日々

 9月。御園座に続いて大阪の新歌舞伎座公演も中止が決定。コロナ情勢は予断を許さず、メールチェックするたびに「中止のお知らせでは」と薄氷を踏む思いだった。博多座だけはと望みをつないで、チケットを取りなおす方も多いようだった。
 しかし、皆の願いも虚しく、ついに全公演が中止となってしまった。
 博多座公演中止が発表された日、文字通り力が抜けてしまい、茫然としてパソコン画面を見つめた。涙腺のかたいはずの私なのに、知らず知らず目元が涙でぬれていた。
 せめて手に取るだけでも……と思い、一枚だけ発券して写真を撮った。
 心待ちにしていたマイ初日の、最前列のチケット。ちょうどあと2週間というところで、カウントダウンは終わってしまった。待ちわびた10月1日が来ても、幕があがることはない。
 信じられない思いと、虚しさと、何にぶつけていいか分からない混乱した気持ちでいっぱいだった。

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 どうしていいか分からない気持ちのまま、数日後、「王家の紋章」の観劇日が来た。こちらも楽しみにしていた公演なのに、博多座に行くのが辛かった。博多座の巨大モニターには、「王家の紋章」と宝塚月組公演「川霧の橋」のポスターが投影され、ファンの方たちが笑顔で写真を撮っておられる。
 「本当なら、エニシング・ゴーズのお写真も、ああやって……」と思うと、目頭が熱くなる。
 早めに着いたので、入場開始と同時にまだ人もまばらな客席に入り、幻になった四枚のチケットのお席をそっと見てまわった。夢の最前列席には、オーケストラボックスが設営されていて近寄れない。やっぱりご縁がなかったのだと思い知らされたようで、切なかった。
 「王家の紋章」は素敵な舞台だったけれど、ひろびろとしたステージを見ていると、予告動画で見たように、豪華客船S・S・アメリカ号のセットがここにドーンと設営されて、ゆずるさんのリノちゃんが所狭しと、元気いっぱいに歌い踊っていたんだろうなあ……とため息が出た。
 博多座のロビーには、次回公演として「川霧の橋」や「夫婦漫才」のポスターが貼られ、ふんだんにチラシが備えてあった。「エニシング・ゴーズ」の名残はまるでない。公演中止だから仕方ないと思いつつも、「消えてしまった」「なかったことになった」ような気がして、胸がぎゅうっと締め付けられるようだった。

カウントダウンの代わりに

 春先からこの方、「あと何か月、あと何十日」と、紅リノちゃんの「エニシング・ゴーズ🚢」ご一行様の博多入りをカウントダウンしてきた。そうやって過ごすのがあたりまえになりすぎていて、自分の中の時計やカレンダーをどう戻したらいいのやら、と戸惑う感じだった。
 博多座の帰り、ぼんやりと駅ビルのお店を眺めて歩いていたら、お花屋さんの店先の、可愛らしくて生き生きした観葉植物が目に入った。
 一日、また一日、大事に育てたら、きっとすくすく育っていくだろう。
 一日一日が過ぎるのが、また楽しみになるだろう。そう思って、家に迎えることにした。
 

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10月~お別れ。

 消すに消せなくてそのままだったスマホのカレンダーが、「予定が近づきました」「博多座・観劇・エニシング・ゴーズ」などと知らせてくる。アラームが鳴るたびに切ない思いがするけれど、消してしまうと「なかったことになる」ような気がする。
 そして、「チケットの払い戻し期間のおしらせ」もやってきた。引き取りをしていなかったチケットは、パソコンの操作一つで「払い戻し完了」となった。あれだけ嬉しい気持ちで迎えたチケットが、一瞬にしてお別れ。本当にあっけなかった。
 たった一枚手元に迎えた最前列のチケットも、名残惜しい気持ちでコンビニのカウンターへ。アルバイトさんがささっと手続きを済ませ、これもあっけなくお別れ。

 帰宅してから、「エニシング・ゴーズ」のプログラムをゆっくりと開いた。取り寄せたときに読んで以来だった。あのときは、一抹の不安を抱えながらも、まだ博多で観られる望みをもって見ていたのに。
 チーキーちゃんのお写真のつぶらな瞳を見たとき、ぐっと胸が詰まった。
 実家の母に「エニシング・ゴーズには、ワンちゃんが舞台に出るんだって。可愛いワンちゃんだよ」と電話で話して、母に「子供みたいに喜んでるねえ」と苦笑されたこと。幻になるとは知る由もなく、手放しで舞台をただ楽しみにしていたその時の自分が何とも言えず虚しかった。

10月5日~大千秋楽の青空。

 奇しくも法事の日取りが変更になり、マチソワ観劇のはずだった4日から実家へ行くことになった。慌ただしかったが、気持ちが紛れて良かった。
 真夏のような日差し、空がとても青かった。
 

 そして、とうとう10月5日。大千秋楽だったはずの日が来た。

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 母を実家に送り届けた帰りに、ちょうどゆずるさんのメッセージやインスタグラムが流れた。
 どれほどの重圧や葛藤と闘ってこられたのだろう。ゆずるさんも人の子、まだ100%大丈夫!というわけではないだろうけれど……。
 でも、「エニシング・ゴーズ」を通して得た、すべての思い出や出会いを宝物になさっているんだなあと思えた。
 夢がかなう。
 幸せを感じる。
 その形はひとつだけじゃないんだな、と思った。
 「本日は青天」
 ゆずるさんの笑顔は明るくて、可愛らしくて、眩しかった。

幸あれ! 乾杯!

 エニシング・ゴーズのカンパニーの皆さん方、そして、ファンの皆さん方も、大千秋楽だったはずの夜、それぞれに想いをツイート等なさり、それぞれに気持ちの区切りをつけようとなさっているようだった。
 

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 この目で舞台を観る願いは叶わず、虚しさや寂しさもまだまだ消え切ってはいないけれど、エニシング・ゴーズ🚢に、ひとまず乾杯。
 ワクワクドキドキする気持ちをありがとう、という気持ちで乾杯。
 そして何より、ゆずるさんや、カンパニーの皆さんに幸あれ!の乾杯。
 それから、もしもかなうならば、またいつか、この素敵なご一行様の明るい再出港🌊🚢が実現しますように、の願いを込めて、乾杯!

博多座さん、ありがとうございます

 日付が変わるちょっと前、博多座さんのツイートが……

 博多座の巨大モニターいっぱいにひろがる紅リノちゃんの笑顔。
 素敵なご一行様のお姿。
 せめて一目だけでも、の願いだけは叶って、本当に嬉しかった。
 

笹舟に乗せて。

 私も、日付が変わる前にこのnoteを仕上げて、気持ちを整理するつもりだったけれど、ロング缶のアンバーエールを一気に空けたのが祟って、ぱたっと寝てしまった。明け方に目が覚めて、日が昇る前にと思ったが、書いているとあれもこれも思い出されて、結局はこんな時間になってしまった。
 感傷的に過ぎるところ、愚痴っぽいところのオンパレードだけれど、笹舟に乗せて、ちょっと手放せたように思う。
 泣いても笑っても、「おちょやん」のヒロイン千代ちゃんが言うように、
「今ある人生、それが全て」。一日一日を重ねていくしかないんだなと改めて思った。

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 笹舟にいろんな気持ちを乗せて、青い空に放って、
 これでようやくひと区切りです。

 

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