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ガマズミ


「お待たせ」

『本当だよ!いっつも遅いんだから』

「来る途中でたこ焼き買ってきたんだ。一緒に食べよう」

いつもの店の、見慣れたレジ袋を持った彼がそう言った。

『たこ焼き!でも熱いの苦手なの知ってるでしょ…どうせ1人で全部食べるんだから!』

私は少し拗ねて見せる。

「ソースが多いところと少ないところがあるの残念だよなー」
『わかるわー!鰹節とかねー』

うんうんと頷きながら相槌を返す。

「お前、いつも文句言うんだよなー」
『そっちこそ!』

彼も私も笑顔だ。

「ここのは美味しいな」
『昔から人気だもん!おじさん元気かな?』
「おじさんがさー、これも持ってけって多くくれたんだよね。で、こっちは家用!」

袋の中にはもう1パック、たこ焼きが入っていた。

『相変わらず優しいね。あ!最後のたこ焼き!』

そうしているうちに、いつの間にか最後のたこ焼きを口に放り込む彼に私は抗議の声を上げた。

「なぁ」
『ねえ』

2人同時に声が重なる。

「『聞こえないか』」

私達はお互い寂しげに笑っている。

「…俺は、今日もここにいるよ」
『私はこの日はいつもここにいるよ』
「来年もまたくるよ。ずっと来るから」
『どうして』

○○家之墓、そう書かれた石を撫でて彼はその場を後にする。

『ねえ、どうして…』

呼び掛けに彼は振り向かない。

『どうして私の好物なのに!たこ焼き持ってくのお?!私の分はぁ?!』

後ろ姿に叫ぶと、聞こえるはずなんてないのに足を止めて彼が振り向いた。

「……。なんか、いや…」

そう言って歩き出した彼はもう振り向かない。

『あーぁ。今年こそはって思ったんだけどなあ』

残念で、悲しい気持ち。
けれど、確かな手応えを感じて微笑む。
近くに生えていたガマズミの葉が風に揺れた。

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