幼児教育の費用は政府と保護者、どちらが負担すべきなのか?

1. はじめに

こんにちは、Comparative and International Education Society(CIES)での学会発表のためにメキシコシティへ向かう道中で、なんとか締め切りに間に合わせるために涙目でこの原稿を書いています。CIESは、国際教育協力だけでなく、先進国を対象とした比較教育の方々も集まる大規模な学会で、アカデミアだけでなく国際機関やINGOの方々も集まるので、この分野でのネットワーキングや情報収集には欠かせない大会です。将来国際教育協力に従事するんだという熱い思いを胸に抱いている若い人達もきっと将来一度は参加することになると思います。

話を本題に戻しますと、以前、幼児教育無償化から考えるーアメリカの研究結果は日本にとって妥当なのか?、という記事を執筆して比較教育学の観点から米国の就学前教育の議論を観察しましたが、今回は私のもう一つの専門分野である教育経済学の観点からこの議論を観察したいと思います。

2. 幼児教育の価値をどうやって表すのか

幼児教育は効果的だ、という議論は日本にも伝わり過ぎている程ですが、「効果的」という単語が指すものが実はマチマチだったりします。例えば、前回の教員免許制度は不必要か?ー日本に雑に伝わった教育経済学の議論を再考するの中で、いくつか回帰分析の結果を提示しました。一般的な回帰分析の結果は、どれぐらいのインパクトがあったのかを提示することは出来ますが、それがコストと比較してどうなのかという点までは示しません。このため、AとBを比較したときに、Aの方が標準化係数が大きいのでインパクトが大きいということは言える可能性がありますが、ひょっとするとAを実施するのには1億円、Bを実施するのには100万円しかかかっていない場合だってあるわけです。

そこで重要になってくるのがコストに対してどれぐらいの効果があったのかという分析になります。これには大きく分けると、Cost-Benefit Analysis(費用便益分析)、Cost-Utility Analysis(費用効用分析)、Cost-Effectiveness Analysis(費用対効果分析)の三種類がありますが、詳細を説明しだすとだいぶ長くなります。そこで、今回の記事では費用に対して金銭的に示すことが出来る効果がどれぐらいあったのかを示す、費用便益分析に絞って話を進めて行こうと思います。

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