途上国における教育のための援助額はX円?

先週の畠山の記事では、冒頭で途上国の教育予算に占めるドナー国からの支援割合が「意外と低い」ことが紹介されていました。確かに、先日東京大学で開催したセミナーでも、畠山のプレゼンの中で「ネパールの教育予算に占める援助割合はどれくらいか」という質問を投げかけたところ、多くの参加者が50%程度だと答えていましたので、実際の数値を見ると「意外と低い」と感じる読者の方も多いかもしれません。(実際に何%かは、畠山の記事をご覧ください!)

他方、実際に教育予算を活用して、Quality Learning for Allを実現する上では、割合も大事ですが絶対額も非常に重要です。というのも、例えば仮に人口規模・構成や経済規模が似通ったA国とB国で、教育予算に占める外部援助の割合がいずれも10%だったとしても、A国の教育予算は合計10億円、B国は合計100億円だとすると、外部援助の額は前者が1億円、後者が10億円となり、使える金額には9億円もの差が発生することになります。(もちろん、実際にはこんなに単純な話ではありませんが・・・)

そこで今回の記事では、ドナー側の視点から、どの程度の金額が教育セクターに投入されているのか、OECDの統計を使って概観してみたいと思います。(なお、以下でご紹介するデータは、あくまで大きな流れをつかむためのもので、詳細な分析ではありませんのでご了承ください!)

1.開発援助額のトレンド

下図は、過去約20年間の開発援助総額(上の青ライン)と、そのうち教育分野に投入された金額(下のオレンジライン)の推移を示したものです。これを見ると、1995年に約400億ドルであった援助額は、2017年には約1270億ドルと大きく増加しており、リーマンショック前後の時期を除いて、概ね継続して増加傾向が見られます。これに対し、教育分野への支援は横ばいに見えなくもないですが、実際には同じ期間に約20億ドルから90億ドルへと拡大しており、増加率だけ考えれば(初期値が小さすぎるという要因はさておき)教育分野も頑張っているといえなくもありません。実際、援助総額と同じグラフにしてしまうとパッとしませんが、もう一つ下の図で示したように、教育分野への支援のみ取り出してみると、増加している様が見て取れます。蛇足ですが、このように同じデータでも見せ方によって与える印象が大きく異なります。データを使った様々な論稿を読むとき、また自ら情報発信をする際、筆者が主張したい内容によってエビデンスの見せ方が偏ったものになっていないか(同じデータでも全く違った解釈が可能ということはないか)、注意する必要がありそうですね。

2.セクター別のトレンド

先週の畠山の記事では、セクター別の課題が指摘されていましたが、上図で見たような教育分野全体への援助は、各セクターにどのように配分されているのでしょうか。下図のとおり、金額ベースで見てみると、高等教育に対する援助額が非常に多くなっています。さらにその下の図は、教育分野の援助総額に占める各セクターの割合ですが、2000年前半から中等教育が若干増えているのを除いて、あまり構成比が変わっていないようです。ここで、先週の畠山の記事を読まれた方は気になっているかと思いますが、果たして就学前教育にはどの程度の金額が投入されているかというと・・・オレンジ(初等)と中等(水色)の間にある灰色、ですらなく、その上にうっすらと見える薄いオレンジが該当します。これを見ると、就学前教育は重要性が指摘されているにもかかわらず、金額としても割合としても低位に甘んじていることがわかります。(残念ながら、今度は就学前教育だけ取り出して時系列のグラフを作成しても、上昇傾向は見られません・・・)

3.国別比較

ではここで、いくつかの国を取り出してトレンドを比較してみましょう。下図は、教育分野におけるG7各国の援助額を示したものですが、際立って上昇傾向を見せている国(灰色)があります。これはドイツです。また、金額はドイツから離れているものの、ここ数年で増額している国(紺色)が、意外にも?アメリカで、同規模で停滞し続けているのがフランスです。日本はどこかというと・・・水色で、2009年頃から黄緑色のイギリスと熾烈な4-5位争いをしていることがわかります・・・・・・。

絶対額は上図のようなトレンドですが、実は国によって重視しているセクターが大きく異なります。下図は、2017年の教育分野への支援について、セクター別の割合を示したものですが、例えば非常に大きな金額を措置しているドイツは、半数以上が高等教育に向けられています。また、アメリカとフランスの援助額は同程度でしたが、フランスがドイツと同じく(それ以上に)高等教育に肩入れしているのに対し、アメリカは意外にも?初等教育に重点を置いています。日本は、高等教育が多くなっていますが、教育施設・設備や研修などの比率もそれなりに大きくなっています。また、ドングリの背比べではありますが、このグラフだけを見ると就学前教育の割合が若干多いのはカナダのようです。

なお、日本のサブセクター別の割合の推移を見てみると、全体的に高等教育が優位であはりますが、ここ数年はじわじわとその割合が小さくなり、かわって上述のとおり教育施設・設備や研修など教育セクター全体に関わる支援が増えてきていることが分かります。果たして、この傾向がこのまま続くのか、2010年代前半に見られたような高等教育の逆襲!?が再び見られるのか、興味深いところです。(なぜ2013年に大きな変化が起きているか、という点についてはまた改めて。。。)

4.最後に

以上、今回はいくつかのデータを使って、教育分野における援助の大まかなトレンドを簡単に見てみました。この限られたデータだけでも興味深いですが、他にも支援対象の国・地域がどのように変化してきているか、またこれらの要素が掛け合わさるとどのような実態が浮かびあがるのか(例えば、ドナー国×支援対象国×セクター)、さらに他分野(特に、「人的資本」の両輪の一つとしてよく指摘される保健分野)と比べると教育分野における支援にはどのような特徴があるのか、などなど検証し得る余地がたくさんあります(もし今回の記事のウケが良いようでしたら、次回以降、これらを少し深めてみようと思います)。そしてより重要なのは、単に金額の動向を眺めるだけでなく、それらがどのような社会・経済・政治・文化的な背景で形づくられているのか、これらによって実際にどのような成果や課題が生まれているのか、といった点を併せて検証し、課題を解決しつつ成果をより拡大していくことです。そのための具体的な視点の例は、先週の畠山の記事に書かれていますので、まだの方は是非ご一読ください。サルタックとしても、今回示したような大きな流れを念頭に置きつつも、現場レベルでの知見を大切にしながら(場合によっては大きな流れも変えながら)有意義な活動を展開していきますので、引き続きご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします!

荒木啓史

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