「国体スポーツ」としての剣道

 タイトルにあるテーマについて、せっかくだし8月中に何か書いてみようかなと思いながら過ごしていたら9月に入っていました。

 きっかけは、7月頃に某テレビ番組で取り上げられた「国体剣道の八百長疑惑」に関してTwitterのTLに反応が流れていたのを見たことでした。

詳しい内容は本件を取り上げたネット記事を参照されるとわかりやすいかと思いますが、端的に説明すると「国体剣道って開催県の優勝が異様に多いけど八百長なのか調査しよう」って話です。(僕は直接番組を見ていないため、Twitterやネット記事を放送後に閲覧しました。)

 事実、過去の記録等を検索すると、全部で四部門(男女別に少年の部と成年の部があります)あるうち、開催県の優勝がほとんどを占めている状態で、年によっては全部門制覇していることもあります。

 某番組では全日本剣道連盟に取材し、「八百長があるんですか?」との質問に対し連盟の理事が「八百長はない」と答えています。


 その理由として、理事は主に以下の3つの理由を述べています。
 

 ① 剣道は勝敗の判定が難しい競技である。

 ② 開催県は他県よりも早く選手強化を始め実力をつけて臨んでいる。

 ③ 開催県は「目に見えない力」をフルに発揮する。

 これらについて、一つずつ僕なりの解説と見解を述べたいと思います。(個人的な経験と見聞きした話に基づく&剣道未経験者にも分かりやすいようなるべく専門的な用語は省きます。)

 ① 判定の難しさ について、これは剣道の全ての試合について回る問題でしょう。

 まず、剣道の「一本」になる条件とは、「気迫を込めて正しい姿勢で、竹刀の決められた箇所で、決められた部位を(面とか小手とか)、刃の向きに合うように打って、打った後も油断しない姿勢と気持ちを保つ」となります。

 ・・・ぶっちゃけ、めちゃくちゃ長いしわかりづらいですね。

 そんな難解な条件を審判は試合の中の一瞬で判断し判定を下します。

 これに関して「誤審」が起きやすいのも剣道の特徴ですが、今回はその話題は置いておきます。

 最初に述べた通り、剣道の全ての試合について回る問題のため、国体の勝敗に関連して挙げる必要性はあまりないのではと考えましたが、恐らく理事は「審判の主観が入り込む余地」について言及したかったのではと思っています。

 どういうことかと言うと、剣道の試合って審判の主観が結構入るんです。他のスポーツ経験者からするとあり得ねーと思われるかもしれませんが。

 例えば、礼節のちゃんとしている選手と未熟な選手が対戦した場合、審判の判定に影響することがあります。旗が重い/軽いなんて言ったりもしますが礼節重視の競技のため黙認される傾向があります。

 また、強豪の選手の方に審判の注意が向くこともあります。開催県の試合となれば周囲の応援もあり地元審判では嫌でも開催県選手の動きに目が向くでしょう。

 理事が判定の難しさを挙げた背景にはこうした剣道審判の特性があると思われますが、それがわかっているなら、開き直るのでなく公平公正の理念に照らして是正すべき課題だろうと個人的には思っています。(礼節についても試合中に指導するようになっているので、判定に反映すべきでないと考えています)

 ② 選手強化について、これは多少はあると見て間違いないと思います。

 少年の部(高校生)は中学生の段階から県内選考と強化を行っている開催県も多く、国体強化のための遠征も充実していると聞いています。これにより開催県選手が実力をつけているのは間違いないです。

 ただ、高校剣道は例年九州勢が圧倒的な強さを誇っています。普段実力で劣る開催県の場合、開催県がそれら九州勢に競り勝つほどの力をつけているなら、その年の開催県が全国規模大会でそれなりの結果を残しているはずですが、決してそうではありません。
まぁこれは国体強化選手が各校にばらけているからとかピークを国体に合わせているからと説明できるかもとは思います。

 成年の部も同様に強化しているはずですが、こちらは国体のために県外に籍を置く「ジプシー選手」の問題が長年存在しており、「地元の選手が努力して力をつけている」とは簡単に言い難い状況があります。

 選手の強化それ単独で、普段の実力差を覆していると言いきれないのではないか。というのが個人的な見解です。

 ちなみに、今年度開催地の茨城県は、関東圏の強豪県として有名で、男子では水戸葵陵高校、女子では守谷高校と全国トップクラスの学校があり、成年男子も今年の都道府県対抗優勝大会で準優勝するなど上位入賞が期待できる実力があり、これについては異論ありません。 


 ③ 開催県の「見えない力」について、これはちょっと理事の発言の意図がわからないのですが、好意的に解釈すれば、「開催県のプライドや強化してきた体力・技術・自信が抜群の集中力を生む」といったところでしょうか。(精神力とかそういう言葉はあまり使いたくない・・・)


 そうであればまぁわからなくもない話ですが、そもそも言葉足らずで本意は不明ですし、その後の「茨城県がいずれかの種別で必ず優勝する」発言も合わせると、連盟の役員がそういう態度でいられる剣道界の在り方について、普通の、常識的な、まともな人々から疑問を持たれてもしょうがないのではと思ってしまいますね。(理事はハハハと笑っていらっしゃったようですが)

 おわりに


 僕自身は国体出場の経験のない雑魚ですが、知り合いに元国体選手がいたりしてその努力を見てきた身なので、国体に出場される選手や選手を応援する方々を貶めるつもりは一切ありません。

ただ、国体剣道の運営に携わった人や直に観戦した人とも話したんですが、「国体はスポーツ振興じゃなくて地域振興」と言われたことがあり、番組で取り上げられた内容を加味すると、うーんこれは笑えないなと。(僕の地元開催の時もまぁまぁ酷かったです)

 もし、全日本剣道連盟が番組を見た人達の反応を認識しているのであれば、武道としての人間形成だとか、五輪は勝利至上主義だから参加しないのだとか、御大層な事を言う前に、国体スポーツとしての剣道の公平公正さについて、今一度考えていただき、ひいては令和最初の国民体育大会が一層盛り上がることを期待しています。

おしまい
 

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