誰かの代わりにされた話

彼氏彼女の作り方アドベントカレンダー2016/12/12 http://www.adventar.org/calendars/1362

学生時代からの友人に中西という男がいた。もう20年以上の付き合いになる。そのセフレがユカという女だ。中西はおれよりも4つ上で、ユカは中西の7つ下だった。

初めて中西からユカを紹介されたときは、またこいつは似たような女を探してきたな、と思った。中西はおれと同じように特定の彼女をもつことができない男だった。知り合ってすぐに中西は下衆にちがいないと思ったし、実際そうであったから敬語など使ったこともない。中西もそれを良しとしてくれた。

中西の好みはわかりやすく、どの時の女もすべて同じ系統の顔だった。声も似た感じになるのが面白い。中西の好みは最近の女優でいうと多部未華子だった。思い返せばユカも多部未華子の親戚だと言われれば信じそうなくらい、中西史上知る限り最高に多部未華子だった。

中西とユカは派遣先で知り合ったそうだ。当時中西には絶大に信頼をよせたパートナーがいたはずだが、どういうわけかそっちとは終了していたらしい。そんなおりに現れたのがユカなんだそうだ。

中西とは飲み仲間でもあったのでよく飲んだ。中西が、会社でフロアが同じ人、とユカを連れてきて紹介したとき、すぐにこの二人はもうセックスしてると気付いた。そういうのがすぐわかるのが中西という男なのだ。おれと中西はとにかくよく飲んでいたので、ユカも自然とそこに加わるようになった。ユカとメアドも交換する程度には打ち解けていた。

仕事が忙しい日々がしばらくつづいて、おちついたので飲みにいこうと中西をさそった。だが返事がない。ユカにメールすると、中西さんは来られないんじゃないですかね、と言う。よくわからなかったので、詳しく聞かせてよとユカをさそった。

待ち合わせるとユカの表情は暗かった。中西とユカはセットだったから、ユカを見るのは久しぶりだった。前回会った時よりもずいぶん痩せてみえた。

飲み始めて、ぶっちゃけ君らって付き合ってるんでしょ、と切り出すとユカは渇いた声で笑って語りだした。中西さんとは付き合ったことはない。中西さんは彼女さんと終わってなんかいない。一時距離を置いていたけどまたよりを戻した。距離を置いた時も別れるとかはしていない。最近は彼女さんと同棲を始めた。と言った。あちゃー中西やっちゃってるな。じゃあ君たちはどういう関係なの?とさらに聞くと、ユカは、小さく、わたしは彼女さんの代替品ですよ、と言った。

派遣の職場で中西を見た時から惹かれていたこと、声をかけてもらって嬉しかったこと、彼女がいると知ったけど気持ちを諦められないこと、中西が彼女と離れているあいだに体を許したこと、それだけの関係でもいいと思っていたけど、彼女が中西のところに戻ってよけいに中西を諦められなくなったこと。

ユカは若かったがこじらせていた。浮気でいいと始めた関係が、浮気じゃいやだという気持ちに変わってしまっていた。しかしおれはそれが方便だとすぐに気付いた。ユカは中西がいいのではない。ユカのさびしさを埋めてくれる相手なら誰でもいいのだ。さびしさをうめてくれた中西が今は恋しいだけ。

中西はとにかく、こと女性のさびしさをうめるに関しては天才的で、過去にもそういった形で体だけしか繋がらない相手をたくさん作っては捨てていた。ユカがさびしさにたえられない女であることは、3人で飲んだりメールしたりするうちにわかっていた。中西がかまってくれないのが寂しいなら、しばらくは俺と飲んでればいいよ、と言った。

中西がなぜユカと会わなくなったのかを中西に聞く気はなかった。同時に、この日ユカと会っていたことも中西には言うつもりはなかった。ユカからは伝わったかもしれないが、中西はそれをあとからどうこういう男ではない。誰と誰がなにしたとかをネタにするようなことを中西はしなかった。仮におれがユカと寝て、中西がそれを知っても何も言ってこないだろう。中西とはある種の友情を感じていたし、なんというか中西はそういう男なのだ。

おれはユカと週に1、2回は会うようになった。ユカはカラオケが好きで、飲む前はだいたいカラオケに行った。歌って飲んで終電で帰る。それが3ヶ月くらいつづいた。

そして、その時はきてしまった。ユカの様子がおかしい。中西と何かあったことは明白だった。カラオケに行っても何も歌わなかった。飲み始めても1時間くらい何も話さなかった。しんぼうたまらんくなって、何があったか聞いた。

もう連絡しないでほしい、と言われた。職場で話しかけてもそっけない。目を合わせてくれない。もうおわりだ、とユカは言った。ユカはつらそうな顔をしていたが、ユカの中西依存にはうんざりしていたので、君は中西の何が好きだったの、と聞いてしまった。しかし具体的な言葉がでてこない。でも好きです、中西さんじゃないと、とぶつぶつ繰り返す。

中西は本当に依存させるのがうまかった。誰かに依存したい女を見つけるのがうまかった。ユカも中西の網にかかった犠牲者に見えた。そんなことをぼんやり考えていると、ユカはとんでもないことを話し出した。なんと先日、中西の家に突撃したというのだ。そして同棲していた本命の彼女とバトったらしい。

なんで中西さんを捨てたのに戻ってきたのか、中西さんを返して、そんなことを言ったらしい。やばい。そして中西の彼女から言われたことも教えてくれた。おまえはわたしの代わりにすぎない。中西さんがわたしのことを隠して他の女と寝るなんてことはないし、おまえはわたしの存在を知っていたはずだ。わかっていて抱かれたくせに何様だ。わたしが戻ってきた以上おまえは中西さんには不要だ、と。やばすぎる。

お互いがお互いのことをDISりまくって話が終わらず、仕事から帰ってきた中西がなんとかユカを帰らせたのだそうだ。そしてもう連絡しないでほしいとユカにメールをした、という展開らしかった。帰ったら浮気相手がいて彼女と口論していたという状況など考えたくもない。中西はさぞ胃を痛めただろう。

かける言葉が見つからず、終電が近づいた。ユカが自暴自棄になる前に、あえて万券を握らせてタクシーに放り込んだ。あの時ならば、うまく会話を運べばユカとセックスできただろう。しかしお断りだ。もう少しライトな感じで別れていたら違ったかもしれないが、それでユカが中西を諦められるわけがないし、ユカを彼女にする魅力もセフレにする魅力も感じなかった。

それから何度かユカから誘いがあったがすべて断った。ユカを孤独にすることには特に罪悪感はなかった。俺さんもわたしを捨てるんですね、とかメールで言われたけど無視した。ユカの依存先になるのはごめんだった。楽しく飲む相手がいればおれはそれでいいのだ。

当時の日記には「誰かの代わりを自覚して、それを受け入れられず、当事者からもその事実を突きつけられたユカよ、どうか安らかに」などと書かれていた。無責任だが、自分のためにはそれでよかったんだと今は思う。

今年の夏に、何年かぶりに中西と飲んだ。彼女とは結婚せずに同棲を続けているが、終わりを感じ始めているという。ユカとはどうなったの、と聞くと、メールだけは続けているらしい。連絡してこないでと言っても聞かないからなし崩しにしているそうだ。とりあえず生きてるのかと少しほっとした。中西に、ユカちゃんはあんたのことがずいぶん好きみたいだけど、あんたはどうなの?と聞くと、中西はクズい顔をして、今他を探している、と言ってのけた。

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