助け船


前回の話



『お邪魔しまーす!』

週末。金曜日。
野津と僕はささぼーのご祖母様の家に明日の関東Aの最終調整に集まった。

『あらいっしゃい。優太のお友達ね。お名前はなんていうの。』

ささぼーのおばあちゃんが優しく出迎えてくれる。

『ワタナベです』
『野津ス』


『ワタナベくんと野津くんね。
よかったらこれにお名前とお電話番号を書いて下さる?優太はお友達をよく連れてくるから私覚えきれなくて。』




おばあちゃんからA4のキャンパスノートを手渡される。


受け取ったノートをパラっとめくった僕らは戦慄した。




開かれたページにびっっっしりと人の名前、電話番号、最寄駅、たまに趣味や部活なども書かれている。



パラパラと他のページもめくって確認したが、そこには150人以上の名前と電話番号が記されていた。













各々が持ち寄ったデッキを1時間ほどスパーさせた後野津が口を開いた。


『1週間は短すぎんだよなー。』


殿堂改定後間もない公式大会という練習期間の短さを嘆いていた。


『野津は2週間あったら準決までは堅かったよな?w』


ささぼーが茶化し気味に言うと


『準決ってレベルじゃない!
2週間もあったら出場してない!可哀想!他の参加者が。』


『・・・あっそう』






・・・








ささぼーと野津の使用第一候補は最終調整前日の深夜、4時間にわたる長電話の末に生み出したボルバルステロイドだ。



新弾のブロークンホーンと口寄せの化身がどちゃくそに強い。



僕は家で作ってきた新環境下の除去コントロールを持ってきている。
2人のステロイドに対する勝率は3割に満たない程度だったのでとりあえず明日の使用はボツとした。


『コントロールは受けのデッキだからね!メタが全く定まってない明日じゃ構築の指標がなさすぎるんだよ!』


ことカードゲームのことになるとささぼーは鋭い意見を飛ばしてくる。



『わたも明日はステロイドで行くか?多分これが現状のMAXだと思うぞ』



『・・そうしようかな。他のデッキを調整する時間はもうなさそうだ。』


今日の調整ではステロイド以上に勝率が出たリストはなかったので、とりあえず全員の明日の暫定使用デッキはステロイドで決まり調整会を切り上げた。

救いは明日がまだ関東のAだということだ。
幸いジェネレートリーグの関東予選はCまである。

明日を取りこぼしてもまだツーチャンスあるという若干の心の余裕はあった。




布団を敷いて明かりを消す。
結局25:00まで調整をしていた。明日は7:00起きだ。




布団に入り目をつぶると、
暗闇の中ささぼーがいつになくシリアスなトーンで話しかけてきた。



『なあ、わた・・最後に一個だけいいか?』



『・・なんだよ?』



『わたは明日1回戦で負けるぞ!!ww俺らは3回戦敗退だけど!ww』


『はあ!?』






・・・








僕は今回、2人のステロイドではなく以前からの環境で自分が愛用しており手に馴染んでいたハンデス型のボルバルブラックを使いたかった。

ささぼーの寝る前の謎のイジりが琴線に触れたからではない。





・・悔しかったのだ。


ささぼーは僕らのオピニオンリーダーだ。
当然僕もそれはリスペクトしている。

一緒に出た公認大会の優勝回数は僅かながら常に自分よりもささぼーに上をいかれてることにも気付いていた。


ささぼーの決めたデッキの完成度にはもちろん異論はないし

現状ステロイドを使うのがベストな選択である事実には納得している。



ただ、




ささぼーの決定に逆らいたい気持ちがどうしても少しは芽生える。

自分のデッキで勝ちたかった。

僕もささぼーに負けず劣らずの負けず嫌いだったのだ。











ボルバルブラックの強みはコーライルによるロック性能+ボルバルザークターンまでの延命力に加え、相手のたった1枚のボルバルザークをデッキから破壊することができる悪魔の札・ロストチャージャーを採用できる点。




僕の一番好きなカード


野津の一番好きなカード



ただし逆に言えば相手のロストチャージャー1枚でこちらのボルバルザークが抜かれるとデッキが半壊してしまう。

詰めをほぼボルバルザークに頼り切っている分、他のクリーチャーたちのパワーラインが低い。

ステロイドのゴンタやブロークンホーン、口寄せの化身といったような個々でも優秀なパワーラインを持ったクリーチャーがなく線が細いデッキだ。




こんなリストをイメージしてた。


ボルバルブラックを組むのに必要そうなパーツは一通り家から持ってきてはいた。



が、結局いいリストにたどりつけずじまいだ。


煮え切らない気持ちのまま当日の朝を迎えた。









大会当日





錦糸町から浦和までは中央線、京浜東北線を経由して約40分。



会場は百貨店の上層階にあるイベントスペースだ。


集合時間に1時間ほどの余裕をもって到着はしたが、
近くまで行くと既に受付に長蛇の列が完成しつつあるのがわかる。

列は小学生以下のみ参加可能な「レギュラークラス」と中学生以上が対象の「オープンクラス」に分かれている。



参加定員ははオープンが512人、レギュラーが128人。オープンはレギュラーの4倍だ。



僕らが参加するのはオープンクラスなのでオープンの列に参加ハガキを持って並ばなくてはならないのだが、あいにく列は階の隅にある非常階段まで伸びているほどの惨劇だ。


しかもかなり下の方の階まで人波が続いていそうだったので一旦人数が減るまで並ぶのは諦めて何人かはいるであろう列に並んでいる知り合いをバラけて探すことにした。




僕はとりあえず列の最後尾を見に行こうと階段を下っていくと、


『おう!!わたやないか!今日何使いよるつもりなんや?』

良く通る元気な声で話しかけてきたのは星野という関西在住のプレイヤーだった。


色黒の長身で歳は僕よりも4つか5つ上だった気がする。
前年に大阪のスプリングチャレンジバトルにて優勝を果たした強豪でもある。



『星野久しぶり!ボルバルステロイドを使おうと思ってるよ。』


今年のジェネレートリーグは例年の大型大会で採用されている8人一組に分かれての予選ラウンド方式ではなく、最初から最後まで512人による一つのBO1のトーナメントだ。


仮に決勝までいくとしても対戦回数は全部で9回戦。

使用デッキを教えたとしても殆ど直対することはないし、
そもそも知れた仲である星野に手の内をさらけだすことには何の抵抗もなかった僕は素直に答えた。



『なんやステロイドかいな。ブラック使うちゅうんならとっておきを教えたろうとおもたんやけどなぁ。。』

『えっ!とっておきって!?』

ぼくが食い気味に聞くと

『しゃあない。特別に教えたる!これや!』



バチン!と一枚星野がストレージ内からカードを取り出して見せた。




なるほど・・・!

手だしでのマナコストは3と軽いしマナに置いておいても母なる大地で好きな時に出し入れできる。

ボルバルの追加ターンで使いたいSAのドラゴンも墓地に寝ていたらついでに回収できるというわけだ。



除去コン相手もロストチャージャーの2回目を食らう前にボルバルかコイツのどちらかをマナに置けていれば大地でいつでも復活可能。

ボルバルブラックの欠点を1枚で完全にカバーできている・・!





『・・・あーコイツか。まあ間違いなく1は入るよな!』


『なーかなかよく見つけたやろ?
・・ってなんやもう知っとったんかい!!』

『うん。あ、列が一気に動き出したな。俺も後ろに並ぶわ!』

『お、おう!またあとでな!』





心の芯から負けず嫌いな僕はその足でチョーカーを持っている知り合いを手当たり次第にあたりなんとか1枚確保。

そのまま一直線にトイレの個室へと駆け込んだ。
もちろん用を足したかったわけではない。




(星野、天才かよ・・!大幅に助かったぜ・・!)





to be continued…


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