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来た、見た、勝っ…てはいないけど

スポーツ観戦を趣味とするならば、「あの試合俺見に行ってたんだぜ!!」と末代まで自慢したくなる一戦が誰しも一度はあると思う。Veni, vidi, vici、来た見た勝ったっていうアレ。札幌サポならば2016年のアウェイ千葉戦などが即座に挙げられるだろう。私は古いファンなので「1997年の厚別の川崎戦」が即答になりますが。

そんな「来た見た勝った」試合リストに新たに今回1つ加わりました。もっともこちらは結果的に「勝って」はいないのですが、それでも。

3月20日~24日までの間開催されていた世界フィギュア選手権。そちらの21~23日までを観戦していました。
日程が出た時、この時期だったらJリーグは国際Aマッチ週間で休みのはず。代表戦はだいたい関係ないからね~心置きなく行っちゃうよ~って今考えるとただのフラグだったわ。女子FS見ながらむっちゃん代表戦デビューどうなったか追ったわよもう。

話戻す。でまあその3日間で男子はSPとFSの両方、女子FS、それとペアFS、アイスダンス。全部見ようとしたら10時はじまり9時終わりとかいう体力勝負の観戦でしたが、大体見ました。2015年に真駒内であった全日本選手権に行ったときに「女子36人+男子24人?合計60人滑るのを見る?フィギュア観戦って荒行?」と自覚していたので、それほど大変でもなかったです。なにせ本州、リンクの中の暖かさが北海道のそれとは全然違いますので。最終的には半袖になりましたよ私。暖かすぎだよたまアリ。

大会そのものはもちろん楽しみだったけど、羽生クラスタとしてはやはり久々の試合となることをとても心待ちにしていて、4ヶ月ぶりに試合見られる~でもこれでシーズン終わりなんだもんな早いわ寂しいわ~と、試合を見る前までは思ってましたが、今の率直な感想としては「全然腹いっぱいですむしろ正しく休みましょう」となりました。そのぐらい凄かった、と簡単に言うとそうなんだけど。

ちょうど大会の直前にコンサカーリングチームの方々と同席することがあって、彼等もまたこれから世界選手権に向かうところで、そんな世界を相手に戦う人達のお話を直接伺ったんですが、世界のトップのショット成功率は95%、そのぐらいないと戦えないです という話を聞いて、「95%で戦える?100回投げて5回しか失敗できない世界??何それ???」と世界で戦うことの数字的な恐ろしさを感じていたばっかりで。

男子のSPが終わって首位に立ったネイサンに12点差をつけられた羽生くん。
金曜日はサブリンク(同じアリーナの中に別立てでリンクを作ってある。たまアリ大きい…)で出場選手の公式練習があって、サッカーでいったら前日に会場で練習するようなやつ、それも見に行ってきたんだけど(因みに有料)各人に与えられた40分間の過ごし方の鬼気迫る感に圧倒されたよね…。

演技冒頭に入れる予定の4回転ループ(以下4Lo)の練習をするんだけど、それがまあ決まらない。しかも4Loといえば昨年ロシアで怪我をするきっかけになったジャンプでもあるから、跳ぶたびに決まる決まらないの以前に些か寿命が縮む。転ばれるたびに血の気が引く。立ち上がってホッとする。で、そこからまた跳ぶ。パンク。違う意味で血の気が再び引く。そこからまた跳ぶ以下ループ(洒落ではない)。場内アナウンスで「残り時間1分です」とコールをされて、普通なら流して終わる局面で最後にもう一度跳ぶ。ギリギリの時間まで使って終わり。

そこでカーリングの「95%の成功率」を思い出さずにいられなかった。
どこの競技でも世界のトップで戦う人達は、素人の私達が思い及ばない数値の世界で戦っている。その数値を少しでも戦える、勝てるように引き上げるために、何度も、何度も、試行錯誤を繰り返しながら挑んで転んで立ち上がり続ける。「出来るようになるまでやる」、妥協なく、徹底して、一切の無駄もなく。

…そんな姿を見てしまったら、「明日の試合はどうなるだろう」などという他人事の予想はもはやなく「明日の試合はどうにかなってほしい」。サッカーだったら「俺等の力で絶対勝たせるぞ」とか間違いなく言い出す局面だ。

試合当日の練習を通して少しづつ上がっていった成功確率、そこから試合の4分間は、一瞬のようにも永遠のようにも感じる不思議な時間になった。「勝つために準備していたこと」が、ひとつのジャンプが決まるごとに実って花開いていく。それと共に場内の歓声もどんどん大きくなる。あの場にいた大半の人達が自らの興奮の渦に飲み込まれていくようにうねる空気。そこからの爆発。あの感覚を表現出来る言葉を未だに持てていない。

そのまま勝っていたらドラマだったけれど、後に滑ったネイサンが更に素晴らしかった。ワールドレコードが二度生まれた夜。羽生に勝ってほしいという気持ち以上に、「すごい対決を見ることができた」という充足感が圧勝。

ネイサンだってイエール大学で勉強しながら競技生活を両立させている。この日も自分の滑る直前に投げ入れの片付けに時間を取られて、並の選手なら精神集中するのも難しい状況だったはずだけど、彼はこれで崩れないだろうなあと思うほど練習から安定していて、実際その通りになった。
極めて高いレベルで戦っている選手達の姿を連続で見て、贔屓が勝てなかったことに主眼を置く無粋さは私には生憎ない。双方称える一択。すごいものを見せてくれて本当にありがとう、としか言えない。

個人競技は基本的に己との戦い。普段見ているサッカーのような団体競技とは感覚が違う点が多々あるとわかっていても、あの、「ほんのわずかな時間であっても、勝つための準備のために捨てていい時間などない」とばかりに集中して調整を続ける羽生の姿は絶対に今後の応援人生に役立つ気がしてならないのだ。
諦めるのは後でいい。今生きている時間を、今取り組める時間を、徹底してやりきれ。
それがすぐに世界に繋がっているわけではないけど、少なくとも「世界」にいる人達はそうしている。

…本当は女子FSも素晴らしい演技続きですごくよかったのに、男子の印象が強すぎて記憶が既に諸々怪しいのが非常に口惜しい。脳用の外付けHDDの開発が待たれる。あと書く気力。


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