だから私は、家族と性愛

堅気の人と結婚して子どもを産んで書くことなんてやめちゃって毎日毎日さほど変わりばえのしない私に似たサルみたいな子どもをかわいいかわいいと愛でながらバカみたいにSNSに写真を投稿して、今日も世界一の幸せをありがとう、とか言ってみんなに嫌われたいと思っているが叶わない。

みんなが同棲とか結婚とか言っているのを隅のほうで聞いていて「みんないいなぁ、私も結婚したいなぁ」と呟くと「嘘ばっかり」と言われるけれど、半分嘘で、半分ホント。「みんないいなぁ、私も結婚を幸せと思える価値観を持っていたらよかったなぁ」と言うべきだったのかもしれない。

みんないいなぁ、私も結婚を幸せだと思える価値観を持っていたらよかったなぁ。

とは言え、私は結婚というものにずっと憧れてきた。なぜなら、結婚は「普通」だからだ。誰からも祝福される、わかりやすい幸せ。結婚したと言ったら、みんな無条件に「おめでとう」と言ってくれる。おまけに結婚には、情愛と生活とお金とセックスの全部が詰まっている。それを最愛の、1人の異性と共有する。最愛の人と何もかもを共有する。

好きな人と向こう数十年の何もかもを約束して生きていくなんて、美しくて尊い制度だと思う。眩しくも羨ましくもある。だからみんな結婚を目指して、結婚を実現していくのだ。

だけど同時に、結婚が美しいのは難儀だからだ、とも思う。

たとえば、どんなにお互いのことを好きでもお金がなくて結婚できないかもしれない。生活するにはよくてもセックスの相性が悪いかもしれないし、お金には一生困らない相手でも、生活を共にすることが苦痛かもしれない。

結婚の条件をすべて満たす人が現れるなんて奇跡のようなものだから、もしかしたらみんなどこかで少しずつ、妥協というか努力をしているのかもしれない。どんなことにも少しずつの妥協というか努力は必要で、結婚もそうなのだと思うけれど、両立させなきゃいけないことがあまりに多すぎる。

私だけがそう思っているなら別にいい。
結婚して大きな問題もなく幸せになれる人はそのまま幸せでいてくれたらいい。

でも、それがどうにもうまくいかなくなって、だけど頑張って元通りの型にハマらなきゃと思って無理して誰にも言えなくて苦しんでいる人があまりに多すぎやしないか。そして、結婚の型にハマれない人を、結婚した後に型にハマれなくなって苦しむ人を、みんなどうしてこぞって袋叩きにするのか。

結婚制度は家族のありかたとして、絶対的な存在なのか。
それに当てはまらない人は、離婚するしかないのか、あるいは家族を持てないのか。

そんな問題意識が私を、いろんな人や家族に引き合わせた。

セックスレスが原因で何度か不倫もしたが、最終的に話し合ってお互いに恋人をつくることにした夫婦、家庭に恋愛を持ち込みたくなくて契約結婚をした夫婦、シングルマザー1人をすでに囲いながら私を20万円で買おうとしたやもおのおじさん、「寂しいんでしょ? 俺を月15万円で買ってくれたら恋人になってあげる」と言ってきたヒモ体質の男、交際0日プロポーズをしてきてくれた男の人は過去に3人、深夜に呼びつけてきて「彼女には弱いところを見せられない」と言いながら「手を繋いで寝てくれるだけでいい、不安なんだ」とせがんできた入籍前夜の男の子、友達や仕事仲間も巻き込んで子育てをしている家庭、家がなかった私を1カ月間にも渡って住まわせてくれた、私が家族と慕う男の子、「奥さんと久しくセックスしていない。このままでは男が終わってしまう気がして発狂しそうだからヤらせろ」というとんでもない論理を掲げて血眼で迫ってきた男、「何年も抱かれていないから私はもう女として見られていないのかもしれない」と伏し目がちにこぼす奥さん、バツサンでそれぞれの妻と子どもをつくり、どの家庭とも円満にやっている男の人、「お前は血縁以外で繋がっている俺の家族だ」と言った、私が世界で一番好きだった人。

みんな明らかに「普通」ではなかった。「普通」ではなかったけれど、みんな寂しくて悩んで葛藤して一生懸命に生きていた。やり場のない憤りの矛先が私に向けられたり、突破口として私に白羽の矢が立ったりするようなこともあったけど、それはものすごく嫌だったけど、だけど私はそれでも彼らの葛藤を何とかしてあげたいとは思った。彼らの、家族と性愛にまつわる苦しみを楽にしてあげたいと思った。

なぜなら私もずっと、家族と性愛について葛藤してきたからだ。
ふとした瞬間に、うっかりすると、家族とか結婚とかそういうものにまつわる「常識」とか「正義」とか「普通」に投げかけたい疑問がときどき爆発を起こす。

結婚したら男とか女って終わるの? 今まで地続きの男で女だったのに男とか女って急に終わったりするの? 子どもが生まれるとか勃たなくなるとか閉経するとかそういうこと? そんな即物的なことで決まっちゃうの? いくつまで恋していいの? いくつになったら恋しちゃダメとかあるの? 好きな人の遺伝子をもらって、1人で育てることの何がダメなの? 子どもに父は必ずしもいなければいけないの?どうして男同士女同士が結婚できないの? 結婚は恋愛と地続きになくてはいけないの? 同性のお友達同士で結婚しちゃいけないの? つまりお友達同士は家族になれないということですか? 結婚してセックスレスになったらそれは愛がないってことなの? じゃあセックスしたら好きってことなの? 性欲ってなに、どこからどこまでが愛でどこからどこまでが性欲なの? それはパキっと? それとも淡いグラデーションなのですか、セックスって挿入のことなの? 裸で抱き合って心を通わせられたら、それはセックスにならないの? 結婚してセックスレスになったらそれは愛がないってことなの? じゃあセックスしたら好きってことなの? セックスって100%の愛でできてるの? セックス=愛なのでしょうか

ずっとこういうことを書いてきたし、もっと書いていきたいと思っていた。
だけど、筆が一向に進まなかった。

家族と性愛にまつわるセンセーショナルなことを書いてきたせいで、仕事がとんだし、プライベートでも割を食い、取引先の人にまで「佐々木さんって頼めばヤらせてくれそうですよね」と言われた。もっと書いたら、もっとそういう嫌なことが起きそうで書きたくなかった。

だって私は「普通」になりたいんだから。
こんなことを書いたら、ますます「普通」から遠のいてしまう。

そうやって書きたいことを書き出せないまま過ごしていた今年のはじめ、とある家族を取材した。息が詰まりそうになるほど、絵に描いたように幸せな家族だった。

羨ましいような寂しいような複雑な気持ちを抱えて帰った翌日の朝、旦那さんからメールが来ていた。

「昨日はありがとうございました。勝手ながら佐々木さんのTwitterを拝見しました」

何か気に障ったのかと思い、一気に目が覚める。

「佐々木さんのプロフィールの中に“新しい家族”という言葉を見つけ、僕ら夫婦が何かご協力できるのではないかと思い、ご連絡しました」

一瞬、憤りのような感情を覚えた。あんなに絵に描いたような幸せな家族が「新しい家族」なわけがないじゃないか、と思った。どす黒い嫉妬がせりあがるのを喉元で押さえながら、その先を読み進めて、私は息を飲んだ。

「実は、私たち夫婦は結婚して3カ月経ってから、ずっとセックスレスなんです」

その先には、ある日突然、奥さんとセックスすることができなくなったこと、奥さんを心の底から愛しているのにセックスできないことが辛かったこと、奥さんも辛かったこと、そして夫婦で話し合って、奥さんに恋人を作ったことなどが書かれていて、同じような悩みで困っている人の救いになりたいから、取材対象を探しているときはぜひとも協力させてほしいとの申し出があった。

突然のカミングアウトに驚き、一瞬でも妬みのような感情を抱いた自分を深く恥じ、お申し出を嬉しく思う一方で、どこかで聞いたような話だなと思った。

私はこう、返信した。

そうだったんですね。絵に描いたように幸せそうなご家族の裏側にそんな葛藤があったと知らなかったので驚きましたが、まさに私の探求している“新しい家族”の1つの形ですね。ご連絡に感謝いたします。

実は私も以前、セックスレスが続いたため、お互いに恋人をつくって円満に暮らしているご夫婦に取材をしたことがあります。よろしければぜひ、こちらも読んでみてください。

すると、ものの数分でこんな返事が返ってきた。

今とても震えています。びっくりしています。あの記事を書かれたのは、佐々木さんだったんですね。実は僕たちはあの記事を読んで、恋人を作ろうという結論にたどり着けたんです。あの記事を妻が見つけて、取材対象者の方に2人で会いに行って、恋人をつくることにして、今は家族仲良く暮らせています。

家庭が崩壊しそうな一番つらい時期に、あの記事に出会えていなかったら、僕たちは離婚していました。あの記事を書いてくださって、本当にありがとうございます。今度は僕らが佐々木さんや同じような悩みに苦しんでいるご夫婦に恩返しをする番です。僕たちが必要になったときはいつでも言ってください。できることなら何でも協力させてもらいます。

震えてびっくりして泣いてしまったのは、こちらのほうだった。書いてきてよかったと思ったし、書かなければいけないと思った。誰も書きたがらないけど、私もできれば書きたくないかもしれないけど、書かなければいけないと思った。

書いていくことを決めたものの、公私ともにリスクがあるテーマだからと、固めのクライアントの顔出し記事は予め断ったら、収入が調子のよいときの半分以下に落ち込んだ。万が一仕事が一気になくなってもしばらく食いつなげるようにライター以外の仕事も始めた。プライベートで危ないことが多すぎるので、よほど信頼のおける人と以外、男の人と2人で飲みにいかなくなった。家族と性愛を書いていくための環境を整えた。

それでも迷う。迷うたびに、あの旦那さんのメールの内容が頭の中でリフレインする。

家庭が崩壊しそうな一番つらい時期に、あの記事に出会えていなかったら、僕たちは離婚していました。あの記事を書いてくださって、本当にありがとうございます。

結婚して幸せになれる人はそれでいい。どんどん幸せになってほしい。
でも、結婚に必要な要素が1つ欠けたからといって、ちょっと型からハミ出た人たちがいたからといって、それ以外の2人の全て何もかもがめちゃくちゃになってしまうのは悲しいじゃないか。

「普通」じゃなくても、お互いにとって1番良い方法をとって仲良くやっていけたほうがいいに決まっている。
たくさんの価値観や家族の形を届けて、ピッタリくるものを選び取ってもらえたらいい。
私は「普通」にハマれずに苦しんでいる人たちを、おこがましくも救いたい。

私は「普通」になりたい。
既存の制度に何の疑問も違和感も抱かず、手放しで幸せになりたい。

だから書くのをためらっている。今もためらっている。
だけど、書いていくのだと思う。

それでも、だけど、だから、どうしても、私のテーマは「家族と性愛」。

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コメント2件

この記事を読んで、涙が出そうになりました。悶々と1人で考えていたことに近いことを、こんなに素直な表現で世に問いかけているものに初めて出会いました。
私は普通の家族というのが本当に幸せな生き方であるのかずっと疑問に思ってきました。結婚して子供を産めば周りからも幸せだと思われる、あるいは幸せになれると信じている人が結婚という枠にとらわれているだけで、本当に一緒に居たい人と結婚した人は少数派なんじゃないかと思っています。
佐々木さんはいろんな人と出会いながら自分の思いにちゃんと向き合っていてすごいです。これからも記事楽しみにしています。
読むだけで励まされるってあります。読むだけで救われるってあります。結構、かなり頑張って「普通」してます。その割に「普通」がコンプレックスです。「いいよね」っていう人の何倍も悩んだりぶつかったりして、いまの「普通」があるのに、って心のどこかで思う。
幸せですが、なんの代償もないわけじゃないんです。それは「普通」な人、「普通」じゃない人、どんな人の幸せとも同じなんです…簡単に手に入ると言われると、そうだね運が良かった、って言って申し訳ない顔する、けど、運がいいだけでこんなになるわけないじゃん、なんだか辛くなります。。。
ありがとうございます。今日も頑張ります。
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