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#111 英語学習の三箇条:僕が教わった英語の先生(その1)

「英語学習について、書いてくださいよ」と何人かのフォロワーの方々に言っていただきました。とても嬉しいです。それでは手始めに、「僕に英語を教えてくださった先生たち」と題して、中学〜大学院までで出会った先生方の中で、「この先生がいなければ、今僕はここにいない」と思える先生を4人ご紹介します。
 先生方のうち一人はすでに故人ですが、4人とも有名な先生方でウェブ検索をすれば普通に名前も出てくるので、全員実名で紹介したいと思います。



一人目:中学3年間 井上良二先生(甲陽学院)

僕は中学受験を経て兵庫県にある私立中高一貫校の甲陽学院という学校で学びました。とにかく英語が早く勉強したくてしようがなく、期待に胸を膨らませて入った学校で最初に英語を教えてくださったのが、井上良二先生でした。ニックネームは「イノちゃん」でした。

先生はどちらかというと「実践英語」派で、「大学受験のためだけに英語を勉強するなんてくだらないだろう」という考え方の先生でした。ご自身も甲陽学院出身で、大阪大学の工学部に入学したものの面白くなく、大阪外国語大学(現在は大阪大学外国語学部として統合)に入り直したという異色のご経歴の持ち主でした。

井上先生の中学一年の最初の授業の内容を、今でもはっきりと覚えています。僕は後に教師となって教壇に立った時も、井上先生のその日のご指導をそのまま引き継いで伝えてきました。授業はこんな感じで始まりました〜

お前たちいいか〜英語ができるようになりたければ、次の3つを守れ。細かいことはさておき、この3つだ、ノートに書いておけよ……

僕の「生まれて初めての英語の授業で取ったノート」は、次の三行でした。外国語学習の真髄をついていると思います。

大きな声
正しい発音
繰り返す

外国語学習の三箇条 by 井上良二先生

間違いなく、この順番でした。井上先生はこの3つをおっしゃっただけで、それぞれの解説はあまりなさらなかったように思います。37年ぶりに僕が少し大人向けに、学術的な観点も交えながら補足解説してみようと思います。


「大きな声」

英語は自然言語です。自然言語とは、コンピュータのプログラミング言語のように「ルールを先に作って開発した」言語ではなく、自然発生的に使われ始め、数百年以上の間に自然形成されてきた言語という意味です。日本語も英語もドイツ語も、自然言語です。自然言語には大きな共通項があり、それは「音声言語」であるという点です。文字や印刷技術が生まれる前からあったわけなので、音声面から言語の特徴をつかんでいくのが習得への早道です。

後年、筑波大学でお世話になった音声学の大家、島岡丘(たかし)先生がワークショップをなさった時、参加者の多くが、英語の「Hi」をまともに言えないことを嘆いていらっしゃったのを覚えています。みんな口先で「ハイ」というだけで、お腹の底から「ハーイ!」となかなか言えないのです。

実際に海外に出て外国人とコミュニケーションを取る時は、小声で正しい英語を話しても、通じません。多少間違っていても、「お腹の底から大きな声で」発声することが肝心です。そしてこれは決して「気合論」ではなく、理由があります。
 大きい声を出すと、その振動が肋骨や頭蓋骨に伝わって、聴覚だけではなく運動神経を刺激し、定着率の上昇が期待できます。今流に言うならば、「マルチモーダル学習」です。実際にはいつも大声で会話するわけではありませんが、練習ではかなりの大きな声で練習するのが効果的です。僕は自分が教師として生徒を教えていた時には必ず、

英語は図書館では限られた勉強しかできません。自分の部屋で、大きな声を出して勉強してください。

と言っていました。ちなみに、僕は埼玉県にある自宅の一室を音楽用スタジオに改装しているのですが(夜にサックスを吹いても大丈夫!)、大切なプレゼンがある時は音楽室にこもって、舞台で話す時と同じボリュームで練習します。英語のスピーチと声楽は近いなあ、と思うことがあります。

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「正しい発音」

これは少しセンシティブなトピックかもしれません。特にヨーロッパでは、「多様な英語」を共通語として容認する考え方があり、言うならばイギリス英語やアメリカ英語を規範とした「正しい発音」を押し付けることは、一種の人権侵害とみなされます。大学でも、様々な国の出身者がそれぞれの訛りの英語を話しています。「あなたの英語は聞きづらい」は、言ってはいけない暗黙のルールです。

しかし、「多様な英語」は政治的な発想であり、実際のコミュニケーションの場では、意思疎通に支障があるような発音では、やはり困ってしまいます。最近お世話になったブルガリア出身の先生がいるのですが(関係者には誰かバレますね)、とにかく訛りがひどく、多くの日本人にとってあの先生の英語は英語に聞こえないでしょう。なにせ have を「ヒャブ」や「ヒャフ」と発音するのですから💦

国際的な研究やビジネスの場でちゃんと通じる英語を、と考えるならば、やはり「正しい発音」は大切です。何を「正しい」とするかは諸論ありますが、アメリカ英語が標準として教えられている国は、世界ではむしろ少数派だということは、覚えておくといいかもしれません。「アメリカ英語」の傾向が強い発音は、米国以外では時に嫌われることもあります。

「英語の語学留学に行くにはどこがオススメですか?」と聞かれた時の僕のアドバイスは、迷わずカナダ東部のオンタリオ州です。一番クセがなく、どの国っぽくもない、いわゆる international English を学べる気がします。同じカナダでも、西部(バンクーバーなど)へ行くと、アメリカ英語に近くなりますね。
 発音の違いは、TOEIC の音声教材を買えば🇺🇸🇬🇧🇨🇦🇦🇺と印がついていて分かるようになっています。上の政治的な観点から、4種類の英語が均等に混ざっています。聞き比べてみるのも楽しいと思います。

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「繰り返す」

英語を教えていて、多くの人が勘違いしているなと思うことが一つあります。それは、説明を受けて「なるほど、分かった!」と納得したところで、多くの人が勉強を次の項目に進めてしまうことです。

外国語は他の教科と違って、じっくり考えて表現が出てくるのでは使い物になりません。国によっても違いますが、例えばインド人などは、「会話で待てるのは2秒まで」と言います。インド人とのビジネス現場では、言いたいことは途切れずに言ってしまわないと相手に主導権を取られてしまいます。
 つまり、「なるほど、分かった!」は出発点に過ぎず、「なるほど、分かった!」ことを、何十回も繰り返して、「瞬間で出てくる」ようになるまで訓練するのが外国語学習です。つまり、「繰り返す」です。
 「ちゃんとノートを取って、先生の説明は理解したのに、なぜか英語が身につかない」という人は多いと思いますが、すでに分かりきっていることを、飽きずに何十回も何百回も練習する、それが肝要です。もちろん、「大きな声」と「正しい発音」で、です。

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「大きな声」と「繰り返す」は自分でできるとして、「正しい発音」は、「英語の勉強、やり直したいな」と思った時に、専門家に少しでも指導を受けることをお勧めします。口の中のどの部分でどう発音すればその音が出るかを指導できる必要があるので、音声学の知識のある専門家に教わるのが早道です。ネイティブ・スピーカーでもいいのですが、日本人がなぜその音をうまく出せないかという点を理解している人は稀なので、日本人専門家の方がうまくいく確率は高いと思います。

僕も「英語が得意」と思って筑波大学に入ったものの、英語音声学の本場ロンドン大学でも研究なさった藤原保明(やすあき)先生「なんですか、君の発音?」と音声学の授業の最初に一蹴されて、一から勉強し直した思い出があります。

「発音は悪くても、そこそこ通じればいい」はその通りだと思います。しかし、「相手の発音を聞いて、その人にどこまで複雑な話をしても大丈夫か判断する」と話すネイティブ・スピーカーは多いですし、自分の発音へのコンプレックスから、外国人に英語で話しかけることを躊躇してしまう人も多いのではないでしょうか?昨今の日本の英語教育では発音はあまり重視されませんが、僕は発音を磨くことは英語で話すことに対する心理的障壁を下げるいいステップになるのではないかと思っています。

今日はそんな、僕が英語を習った最初の先生、井上良二先生の話でした。実は今週末、外部で少し長めのプレゼンをすることになっています。「大きな声」「正しい発音」「繰り返す」を実践して、プレゼンを成功させようと思います。

今日もお読みくださって、ありがとうございました✨
(2024年3月6日)

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