阿栗

東京なんちゃら大学博士後期課程で香港文化を研究し、博士号を取得。自称ポップ・アンソロポ…

阿栗

東京なんちゃら大学博士後期課程で香港文化を研究し、博士号を取得。自称ポップ・アンソロポロジスト。他称香港B級文化史研究家。

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    香港の広東語ポップス「カントポップ」の最新の動向について不定期にまとめます。

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    続・一代一聲音〜時代の声、時代の詞〜:香港カントポップ概論

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【新歌推介】 戴祖儀 Joey Thye 《女子本色》:日本語と広東語で交互に歌われる香港産J-POP 【香港音楽】

8月リリースの曲だけど、今更発見したので紹介する。 戴祖儀(ジョーイ・タイ)という歌手の『女子本色』という曲。YouTubeでサムネを見て「ああ、また日本でMV撮影した系のカントポップね」と思って再生したら、ちょっとびっくりした。冒頭の歌詞がいきなり日本語だったからだ。 そこからはいったん広東語の歌詞に戻る。 そのあとはまた、一回日本語に戻って、最後はまた広東語に戻る。 日本語と広東語と交互に歌われる様子が新鮮で楽しい。 MVの説明欄によれば、この歌は、東京で撮影され

    • 【新歌推介】 moon tang 《房屋供應問題》:手狭になる部屋、窮屈になる関係 【香港音楽】

      香港の女性シンガーソングライター、moon tangの最新シングル『房屋供應問題』(住宅供給問題)。 moon tangは、英語の自作曲を歌うインディーズ歌手として活動をはじめ、とりわけ当時のボーイフレンドだった人気若手R&BシンガーのGareth T.と共演した2021年6月の『honest』などで注目を集めた。 2022年にはGarethの所属レーベルでもある香港ワーナーと契約し、英語曲『Lately』でメジャーデビュー。 広東語の楽曲は、今年5月発表の『戀人絮語』

      • 消せない街の記憶:書評 Louisa Lim 『Indelible City: Dispossession and Defiance in Hong Kong』

        いい本に出会えた気がするので、まだ精読の途中だけれども、紹介したい。 2022年に出版されたルイーザ・リムの『Indelible City: Dispossession and Defiance in Hong Kong』(消えない街:香港における奪取と反抗)という本だ。 タイトルや表紙を見て「なるほど香港デモの本がまた出たのね」と思ったあなた、ちょっと待ってほしい。私自身、本屋で見かけたときの第一印象はそうだった。 でも、この本は、単に2019年の逃亡犯条例改正反対運

        • 【新歌推介】 CHOR 《人之初》:カントポップ業界を裏方として支える実力者がアビー・ロードに集結して録音したサイケデリック・ロック 【香港音楽】

          作曲家、編曲家、演奏家などとして香港音楽シーンを裏で支えるかたわら、浮遊感溢れるハイセンスなソロ曲を発表しているCHOR(鍾楚翹)の新曲。 CHORは今年3月に人気歌手の張敬軒(ヒンス・チョン)と周國賢(エンディ・チョウ)のイギリス公演にもサポート・メンバーとして参加している。この新曲『人之初』は、その2つのライブの合間にあった1週間ほどの期間に、ロンドンのアビー・ロード・スタジオで録音されたものだという。 そのため、この曲の演奏には同じく周國賢のサポート・メンバーとして

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          【新歌推介】 Billy Choi 《Sorry呢度係香港》:「悪いな、ここは香港だ」 ラップで紡ぐこの街の絶望と希望 【香港音楽】

          香港のラッパーBilly Choiによる最新のラップ。 Billyは香港の中でも都心からはかなり離れ、中国大陸側の深圳にほど近い位置にある新興住宅地「天水圍」の出身。「天水圍」には貧困や非行など色々な社会問題を抱えたコミュニティというイメージもあり、香港映画の題材にもなっている。 2020年1月、彼は同郷のヒップホップグループ「光頭幫」(TomFatKi)と共に、この街を題材にした『天水圍Gang Gang』をリリースし、Youtubeの公式動画が数百万再生を記録するなど

          【新歌推介】 Billy Choi 《Sorry呢度係香港》:「悪いな、ここは香港だ」 ラップで紡ぐこの街の絶望と希望 【香港音楽】

          【新歌推介】 Nancy Kwai 《You took my breath away》:香港ワーナーがプッシュする新人のメロウで切ないバラード 【香港音楽】

          1ヶ月前の歌なので新曲というほどでもないのだけど、偶然YouTubeのおすすめで聴いてどハマりしてしまったので。 Nancy Kwaiという香港の歌手のバラード『You took my breath away』。 情感を誘う切ないメロディラインがとてもいい。アレンジもおしゃれ。 曲調からも容易に推測できそうな気がするけど、歌詞は別れを歌っている。 MVの撮影地は沖縄だろうか。ひとり旅の切ない雰囲気が歌詞を引き立てている。 フィルム調のノイジーな映像も曲調にあっていてとて

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          【新歌推介】 sica《天氣之女》:「ヂ、気のザ、。」謎日本語風タイトルの爽やかなJ系アイドルポップ 【香港音楽】

          (2023/08/05追記:MVがリリースされたので追加) いつものように香港カントポップの新曲をあさっていたら、読めそうで読めない、日本語っぽいけどそうではない、不思議なタイトルのジャケットに目が止まった。 「ヂ、気のザ、。」 濁点の使い方が日本語っぽいが、意味がわからない。 曲情報を見ると、正式なタイトルは「天氣之女」らしい。 なんちゃって日本語風にするために意味のない濁点をつけたり、ちょっとカタカナっぽいフォントにしたりしてるんだろう(ちなみに「の」は香港や他

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          【新歌推介】 鍾柔美《y2k還襯我麼?》:2006年生まれの歌手による00年代文化へのトリビュート 【香港音楽】

          「Y2K」つまり「Year 2000」と言って、2000年代初頭のファッションがZ世代の若者の間で流行っている、なんて話はあちこちで目にするわけだけれど、これは日本だけでなく世界的な流行で、香港も例外ではないらしい。 香港の歌手、鍾柔美(Yumi Chung)がリリースした新曲『y2k還襯我麼?』(Got Y2k?)は、タイトル自体にY2Kという言葉が含まれている。MVでも色々なY2K的ファッションが披露されているようだ。 2000年代初頭のファッションってこんなだったっ

          【新歌推介】 鍾柔美《y2k還襯我麼?》:2006年生まれの歌手による00年代文化へのトリビュート 【香港音楽】

          【新歌推介】 COLLAR 《idc》:香港発ガールズグループの成熟を感じる新曲 【香港音楽】

          2022年1月にデビューした香港の新人ガールズグループCOLLARの7枚目のシングル(広東語曲としては6枚目)。メンバーのSo Chingの脱退により7人体制となってからは、初めてのシングルとなる。 4th『OFF/ON』で切り開いた直球なガールクラッシュ路線をさらに進展させたような印象だが、2nd『Never-never Land』と同じ作詞家が起用されていたり、何かと”日本風”で話題になった3rd『Gotta Go!』と同様に、K-POP色のみならず、とりわけビジュアル

          【新歌推介】 COLLAR 《idc》:香港発ガールズグループの成熟を感じる新曲 【香港音楽】

          パロディソングで振り返る香港の2022年(前編) 【晴天林 SunnyLamまとめ】

          あっという間に2022年が終わった。なんて記事を書こうと思っていたら、むしろ2023年も12分の1が終わってしまった。 去年の年末から、なんとか2022年の香港を振り返る記事が書けないだろうかと思っていたが、香港にいたわけでもない(2019年を最後に行けていない)、最新のニュースを常に追いかけていたわけでもない(特にこの半年間は博論執筆と映画上映イベントの準備に追われていた)私にかけることが思いつかなかった。 でもなんとか1年を振り返らないとどうもピリッとしないし、放って

          パロディソングで振り返る香港の2022年(前編) 【晴天林 SunnyLamまとめ】

          パロディソングで振り返る香港の2022年(後編) 【晴天林 SunnyLamまとめ】

          前編からの続き 7月 最後の信仰2022年7月1日は、1997年7月1日に香港がイギリスから中国に返還されてから25周年の記念日で、各種の式典が行われた。この日には、習近平国家主席も香港を訪れ、李家超の行政長官就任式にも立ち会った。 市民たちに一層の愛国心の表明が求められる中、著名人たちの態度も注目された。 https://note.com/sasaleut/n/nee6978c4afe9 著名歌手の張学友は、大陸の国営テレビ中央電視台に返還記念の祝福メッセージ動画を

          パロディソングで振り返る香港の2022年(後編) 【晴天林 SunnyLamまとめ】

          おいしい香港エッグタルトの歌:甘い香りと悲しい別れ 【林海峰 《蛋撻 Egg Tart》】

          (トップ画像出典:林海峰『蛋撻』ミュージックビデオより) 先日、香港のある歌手が『蛋撻』(エッグタルト)という曲をリリースした。 エッグタルトとは、小麦粉で作った生地の器にカスタードクリームを流し込んで焼き上げるお菓子で、香港の名物だ。一口頬張ればバターと卵黄のしあわせな香りが口いっぱいに広がり、サクサクの生地とトロトロのクリームの絶妙なハーモニーがたまらない。広東語では「蛋撻」(ダンターッ)と呼ばれている。 (”蛋”が卵の意味で”ターッ”は英語の”tart”の音訳)

          おいしい香港エッグタルトの歌:甘い香りと悲しい別れ 【林海峰 《蛋撻 Egg Tart》】

          香港にみる歌手と政治協力のジレンマ 【2022年上半期の香港カントポップ 番外編】

          前回、前々回の記事では、2022年上半期の香港のヒットソング、注目曲を取り上げてきたが、やはり気になるのは、昨今の香港の政治情勢との関わりだろう。 ここのところ、香港では「国家安全」を理由にメディアの統制が強められており、エンタメ業界も影響を受けている。そこで、今回の記事では、政府が主導する政治キャンペーンに歌手たちがどのように協力しているかを見ていこうと思う。 キャンペーンソングへの参加歌手一覧 2022年上半期には、北京冬季オリンピックの公式テーマソングの香港版『一

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          2022年上半期の香港カントポップ(2):注目の新曲と新人

          前回の記事では、2022年の上半期、とりわけ4〜6月の間に香港でよく聴かれていた歌をSpotifyの再生数データに基づいてまとめた。 今回の記事では、同じ4〜6月にリリースされた曲の中で、再生数データは前回取り上げた楽曲には及ばないけれども、個人的に気に入ったものをいくつか挙げる。 完全に主観に基づくものなので好みだ。というわけで「なんでアレが入ってない」というのもたくさんあるかもしれないが、それはどうか許してほしい。 (1)MIRRORの歌唱王が送る珠玉の失恋ソング

          2022年上半期の香港カントポップ(2):注目の新曲と新人

          2022年上半期の香港カントポップ(1):再生数データ編

          早いもので2022年も半分以上が過ぎたということで、この半年間の香港のカントポップ(広東語ポップス)シーンの動向を簡単にまとめておこうと思う。 2022年の1月〜3月については、4月に投稿した記事でまとめたので、詳しくはそちらをみてほしい。 この記事では、Spotifyが公開している週ごとのチャートを集計し、香港での再生数が多かった曲を分析した。1月〜3月の再生数ランキングトップ20は以下のようになっていた。 同じ要領で、4月〜6月の再生数ランキングを作ると以下のように

          2022年上半期の香港カントポップ(1):再生数データ編

          香港の女性アイドルグループCOLLARの楽曲がYOASOBIの『夜に駆ける』のパクリではないかと話題になった騒動まとめ

          2022年4月29日、COLLARという香港の女性アイドルグループが『Gotta Go!』という楽曲をリリースしたところ、香港のネット上で「YOASOBIの『夜に駆ける』のパクリではないか」とのコメントが相次ぎ、炎上した。 本記事では、このパクリ疑惑騒動について簡単に経緯などをまとめていく。 はじめに断っておくと、この記事では、本当に「パクリ」だったか否かを判定するつもりはない。そもそもこの曲がどれくらい『夜に駆ける』に似ているかを客観的に判断するほど音楽の知識はないし、

          香港の女性アイドルグループCOLLARの楽曲がYOASOBIの『夜に駆ける』のパクリではないかと話題になった騒動まとめ