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大衆居酒屋は新規顧客を獲得するためにインスタ運用をすべきか?

目的のない施策は、誰も幸せにならない。

とにかく「知ってもらうこと」は重要だ。隙間時間にインスタを覗いていると、美味しそうな飲食店情報をまとめているグルメアカウントやデートに打って付けのオシャレなカフェ情報をまとめてるアカウントを多く目にする。

同時に、店舗ビジネスを展開している企業側も店内の雰囲気や具体的な料理写真をフィードに投稿したり、リールでスタッフさん達が和気藹々と店内紹介をしていたりする。

これだけユーザーも店舗(企業)もインスタをはじめとしたSNSにて日々多くの情報を発信している。ただし、発信している目的や目標は具体的に何か?と聞くと、9割型答えられないのが現実だ。


私は普段マーケティングコンサルタントとして様々な企業様から集客やブランディングや売上を上げる為のご相談を頂く。その中でよくあることが「流行りだからうちも●●の施策をやりたいけど何からしたらいいか?」というご相談だ。流行りの施策をやることが決して誤りなのではない。ただ、どんな施策でも目的や目標を決めない限り、ほとんどが「やりっぱなし」の施策で終わり結局何も結果が出なかった、施策を実施したがただ予算を消費して終わってしまった、というケースはザラにある。

なので、今回はインスタ施策を一例に挙げ、大衆居酒屋が新規顧客を獲得するという目的において、そもそも店舗が公式アカウントを運用することは最適なのか?を一緒に考えて頂きたい。
現在店舗ビジネス(特に飲食店)を展開している企業様並びに関係者の方がいらっしゃったら是非施策を検討する考え方を参考にしてもらえたら嬉しい。

前提条件

まず最初に今回例にする「大衆居酒屋」の前提条件を考えてみる。条件を見てみると恐らく似たような店舗が周りにいくつか思い浮かぶのではなかろうか?

【大衆居酒屋】
・店名 :大衆居酒屋 魚王(うおおう)
・業態 :外食チェーン(都内3店舗)
・エリア:都内ビジネスエリア、駅から徒歩8分
・席数 :店内50席
・客単価:2,000~3,000円
・売り :朝イチで鮮度が高い魚を市場から直送している
・売れ筋:刺し盛り

※上記の店舗情報は全て架空です。

ビジネスエリアにある居酒屋であれば、聞いた感じ近くにありそうな気がする。そんな良くも悪くも特徴がない大衆居酒屋の周りには、競合店舗が多くあり新規顧客の集客に苦戦している。なので、多くの飲食店が実施している「店舗の公式インスタ」を開始するかを悩んでいるというお題だ。

このお題を考える上で大事なことを先に3つ挙げてみる。

  1. 「大衆居酒屋 魚王」に行く背景情報を整理する

  2. 「大衆居酒屋」の立ち位置を整理する

  3. 「店舗公式インスタ」の役割を整理する

これら3つの整理を行うことで、大衆居酒屋が「店舗公式インスタ」を実施すべきか否かが見えてくるはずだ。


1. 「大衆居酒屋 魚王」に行く背景情報を整理する

どんなビジネスにも「顧客」がいる様に、まずは一般的に大衆居酒屋に行く顧客の目的やシーンを考えることからはじめる。ざっと荒削りだが大衆居酒屋に行く背景情報を想定しまとめてみた。

・顧客層 :20~50代男女が中心
・利用場面:飲み会、打ち上げ、他
・提供物 :美味しい料理、手頃な価格のお酒、ガヤガヤした空間
・目的  :手頃な値段でお酒や料理を楽しみたい
      仲良しな友達や同じ会社の同僚とざっくばらんに話したい
      打ち上げの2次会、3次会で多少騒いでも怒られない 他

一度は大衆居酒屋に行った経験がある方であれば想像しやすいと思うが、大衆居酒屋に行く背景・シーンは大体上記のような感じではなかろうか。

またここで1つ問題提起をしたいのが、過去上記のような大衆居酒屋に行く前に事前にインスタで調べたり見たりした経験がある方はどれくらいいるか?ということだ。

・ ・ ・

人は誰しも何かを購入したり行くお店を決める前に必ずいくつかの段階を踏んで決める。これをざっくり4段階に分かれるので、ここでは「4つの顧客フェーズ」と名づける。

例えば、とある飲食店を当てはめて考えると、ある人がまずお店の存在を「何かしら」で認知し、その飲食店に興味を持ち、他の類似する飲食店と比較検討したのちに、最終的にその飲食店に行くと決める流れが一般的である。

ただし、重要なことは「飲食店」と上記は一括りにしたが顧客目的によっては4つの顧客フェーズの中で何を重視するかが変わってくるということである。詳細は次で説明しよう。

2. 「大衆居酒屋」の立ち位置を整理する

次は大衆居酒屋の立ち位置を整理してみよう。

「居酒屋」といっても利用シーンによって幾つかに分類することが可能だ。今回は3つの居酒屋に分けて考えてみる。

1) 完全個室居酒屋(主に仕事の会食などで活用)
2) オシャレ居酒屋(主にデートや女子会などで活用)
3) 大衆居酒屋(主に飲み会や打ち上げなどで活用)

これらは一言で「居酒屋」と表現することは可能だが、目的や用途が全くことなる。これらを顧客目的の4象限で整理することが出来る。そもそも顧客目的の4象限から説明する。

まず縦軸が商品購入や店舗選択において「感覚的に決めるか」もしくは「しっかり検討するか」に分かれる。また横軸は「機能を重視するか」もしくは「気分感情が大事か」の違いになる。

この4つの顧客目的に先ほどの3つの居酒屋を当てはめていくとどうなるだろうか?

まず仕事などの会食で活用する「完全個室居酒屋」は、なんとなくで選ぶことは少なく事前にどのような店内雰囲気で料理提供がされるのかなど慎重に検討することが多いはずだ。また、料理提供のパフォーマンスなどのオシャレさやワクワク感は求めず、ある程度上質な料理提供があれば満たされるはずだ。なので上記の顧客目的の4象限の中だと左上の【検討重視×機能重視】に当てはまる。(※完全個室居酒屋をデートなどで活用することもあるが、定義が複雑になることから、ここでは仕事上で活用する場とする)

次にデートや女子会などで活用する「オシャレ居酒屋」だ。せっかくのデートや女子会だからこそ、お店選びは慎重になることが多いはず。また、料理の質はもちろんのこと、大人の落ち着いた雰囲気や高級感を感じられその空間にいることに意味を持たせることが必要だ。なので上記の顧客目的の4象限の中だと左上の【検討重視×感情重視】に当てはまる。

最後は飲み会や打ち上げなどで活用する「大衆居酒屋」だ。大衆居酒屋はとにかく比較的安価に料理やお酒を楽しめ多少騒がしくしても許されることが大事だ。なので、しっかり比較検討するよりかはその日や一緒にいる人の感覚で選びやすい。またオシャレさなどの雰囲気はあって損はないが、それよりも飲みながら話すことが目的なので手頃な価格で料理とお酒が楽しめたら満たされることが多い。なので上記の顧客目的の4象限の中だと左上の【感覚重視×機能重視】に当てはまる。

これら3つをまとめるとこのようになる。

上記では説明しなかったが、【感覚重視×感情重視】のエリアは居酒屋よりも小洒落たバーやバルなどが近しいと思う。

これらのように「居酒屋」と一括りにしても目的や用途によって分類することが可能で、それぞれのニーズに合わせた施策を実行することが重要である。

3. 「店舗公式インスタ」の役割を整理する

さて、やっと今回の本題であるインスタの話に入れそうだ。改めてお伝えするが、これまでの顧客の背景情報の整理や顧客目的の整理をしないで、インスタやらチラシやら施策の話をし出すと恐らく途中で誤った方法に帰着する。

また「Instagram施策」と言っても様々あり、フィードやリールやストーリーズなどの投稿内容の違いもあれば、スタッフアカウントと店舗アカウントで運用目的や目標が異なってくる。

今回は出来る限りシンプルにする為に、店舗が運用する「InstagramのSNS公式アカウント」を前提に話を進めていく。

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まず最初に店舗が運用する「SNS公式アカウント」の得意なことや苦手なこと、注意すべきことを一覧でまとめてみた。

これは飲食店に限らず、アパレルや美容室やエステサロンなど店舗ビジネスを展開している企業がSNS公式アカウントを運用する場合はほぼ当てはまる。

SNS公式アカウントの役割を一言で表すと「隙間時間になんとなくSNSを見ているユーザーとゆるく繋がり、定期的に接触し続けることで少しずつ商品・サービスに興味を持ってもらったり購入意向を高めることが出来る」ということだ。

一方で、良くある間違いとしてはとにかく予算を掛けずにフォロワー(≠ファン)を増やそうとしたり、短期的に商品購買や来店促進を求めたり、外部の予約サイトなど別サイトへの遷移を求めたりすることだ。

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ここからがやっと本題だ。店舗が運営する「SNS公式アカウント」と先ほどの3つの居酒屋に来る顧客目的を照らしわせて考えてみる。

それぞれの居酒屋ジャンルに対して、顧客が求める背景情報と顧客ニーズを紐付け、インスタの店舗SNS公式アカウントで事前に顧客接触が必要か否かをまとめてみた。

結論としては、「オシャレ居酒屋」は店舗SNS公式アカウントを積極的に運用し顧客との接点を作り中長期的な目線で興味関心度や来店意向を高めることが必要である。なので、冒頭で挙げたグルメアカウントやデート情報をまとめたオシャレアカウントの投稿内容の多くは「オシャレ居酒屋」のジャンルの飲食店情報が多いはずだ。

ただし、完全個室居酒屋と大衆居酒屋はそれぞれ異なる。

まず会食などで活用する「完全個室居酒屋」のニーズが発生した際、インスタ等のSNSで店舗情報を検索するよりも、食べログやぐるなびなどの飲食店口コミサイトや検索エンジン等で情報収集することが多い。

また、飲み会や打ち上げで活用する「大衆居酒屋」においては、その場やその日の雰囲気に応じてお店を探すことから、わざわざSNSで店舗情報を検索することは稀でGoogle MAP等で現在地から近しい”居酒屋”を検索し空いていればすぐに向かうという流れではなかろうか。

なので、「完全個室居酒屋」や「大衆居酒屋」は、店舗自らインスタの公式アカウントで情報を発信しても、そこまで検索されずフォロワーも増えず投稿も見られないという至って当たり前の結果になる。

4. 「大衆居酒屋」がやるべき販促施策とは?

まず「大衆居酒屋は新規顧客を獲得するためにインスタ運用をすべきか?」という問いに対して、私の結論は「インスタ運用をやるべきではない」である。

店舗のSNS公式アカウントを立ち上げ、店内の内装や料理写真をアップしたりスタッフが和気藹々としている情報を発信しても、もちろん無駄ではないが顧客のニーズに対して店舗のアカウントを見にいく行動が伴わない為あまりオススメ出来ない。

では、具体的に何をやるか?と聞かれたら、最優先施策はGoogle MAPにおけるMEO対策(マップ検索エンジン最適化)である。「飲みたいな!」というニーズが顕在化した瞬間に人は「この辺りで良さそうな居酒屋はないかな?」と検索し、上位表示され比較的★レートが高く口コミもそこそこあれば、「じゃあ行ってみようか!」と店舗に向かう。

また今回の店舗例として挙げた「大衆居酒屋 魚王」はビジネスエリアにあり最寄駅から8分の位置にあることから、日頃からビジネスパーソンに向けたチラシ配布は認知獲得に繋がり、あわよくばその瞬間ニーズが顕在化していたら店舗への案内など繋がる可能性が高い。

もしまだ余力があるのであれば、食べログやぐるなびなどの口コミサイトにおける店舗紹介箇所において、他店舗に比べて圧倒的に質の高い料理や店内写真を掲載すると良いだろう。母数としてはそこまで多くはないと思うが、口コミサイトを参考にする顧客は多いことと、大衆居酒屋で写真のクオリティにこだわっている店舗が少ないことより、差別化に繋がるはずだ。

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今回は「大衆居酒屋」を例に挙げ、インスタ運用をはじめとした販促施策を実施する際の考え方をまとめてみた。お伝えしたいことは、なんとなくで施策実施するのではなく、事前に顧客の背景や目的を理解することに努めることや、実施する施策の得意・不得意を把握した上で、施策の実行の意思決定をして頂きたいことだ。

繰り返しになるが、「なんとなくで施策を実施し結果的に効果も出ず良く分からなかった」という店舗や企業がかなりの数がいる。これは店舗のオーナーもスタッフも顧客も全員幸せにならない状況なので、出来る限り回避して頂きたい。

私は普段マーケティングコンサルタントとして、現状把握や販促戦略立案や施策の選定まで設計をしているので、少しでも「マーケティングコンサルタント」に興味を持って頂けたら下記の記事も併せて覗いて見てほしい。


最近本に載りました(P144)📚

自己紹介はこちら👇

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笹本康貴(ささもとこうき)

1992年生まれ 千葉県出身
2016年 法政大学 卒業、新卒としてサイバーエージェントグループ会社に入社。新規営業として大手飲料・食品メーカーにウェブ広告媒体の販売並びに、小売店に対する店舗集客ソリューションの提供に従事。
2019年 マーケティング戦略策定を主軸に独立。
2021年 re株式会社を設立し、現在に至る。

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