見出し画像

朗読劇「ポラリス」感想。

「ポラリス」は人生初の朗読劇であり、武蔵野市民文化会館にて4月27日・28日に開催された。主演?は飛田展男であり、私は初日15時の回を見た。せっかくはるばると東海道新幹線で名古屋から東京まで向かったのでレポートを書く。


会場になった武蔵野市民文化会館。三鷹駅すぐ近くです。

総評

人生初の朗読劇であった。率直に言うと、「アイドルマスターミリオンライブ!」の大神環役の稲川英里さん目当てではるばると名古屋~新幹線に乗車し往復で交通費が2万円くらいかかったのだがそれを忘れる位素晴らしい、2時間の体験となった。

演技に付いて総評的な感想

①飛田さん演じるクリストはマリーを愛す医者だったのだが、その愛が自身の生命に対する持論(「テセウスの船」問題に例えられている)と相まって物語後半にて暴走してマリーの脳を別の体へ移植することでシナリオは急展開を迎える。クリスト演じる飛田さんの演技が物語前半ではXで紹介されたような優しいものであったのに対し、後半でマリー脳を移植させた怪物を誕生させた辺りから「優しい」とは別物の何かになっていくのが今回の朗読劇の見どころだろう。

「テセウスの船」とは、ある物体においてそれを構成するパーツが全て置き換えられたときに過去のそれと現在のそれは「同じそれ」だと言えるのか否かということを指す問題とのことだそうだ。

②推しでも担当(個人的にこの2つのワードは嫌いだ)でもないが、本朗読劇に参加する切欠となったメイヴィ演じる稲川英里さんであるがA席ではあったもののこんなに間近に見れたのは初めてであり、彼女の演技を十分に堪能っできました。稲川さんを初めて生で見たのはミリオンライブ!Act4であるが、39人いる上に1日目はLV7,2日目はアリーナとはいえ最前列でもステージより距離があるので間近というわけには行かない。

彼女の演技に付いて総評的に感想を書くと、声優であるから声が通っているのは当たり前として、話すテンポの緩急がメイヴィの置かれているシチュエーションを意識してメリハリがついていたのが個人的に良い。ラストギリギリまでは、クリストを愛する人(恋人→婚約者)という立ち位置を崩さないのだが、劇終盤にクリストにマリー復活の美しい体の素体にされるために命を奪われるシーンで、“愛”そっちのけで叫ぶ! なりふり構わず叫ぶ! その2面性の表現が稲川氏がプロの役者であることを実感した。

話している時の表情の変化もメイヴィが楽しそうなときは楽しそうで、不愉快な時(特にアルゴと話しているとき)は顔に不愉快と書いてあるの表情豊かさも普段の声優業では見られないだろう。

③それ以外の他の演者も、各々上手く全員がプロだった。あえて数名挙げるならば、上田さん演じるアルゴがクリストの豹変と共に親友という立ち位置から一転させるところやならはしさん(1日目)演じるマーサのマリーへの一貫した愛のこもった演技はベテランらしい完成度の高い物だ。

④そして尾身さん演じる...(劇中では怪物と呼ばれる)が復活当初は怪物そのものの棒読みだったのが、ユーノとの交流を経て終盤には段々と感情のこもっていく喋り方となるのは“心が産まれる過程”を劇中で表現して大きな見どころであったと後から振り返って思う。

これは私以外も言及しているのだが、朗読劇前と朗読劇後ではキキタガリ公式Xの人物紹介の意味合いが大きく変わる。

詳細を考えていく

場面ごとの解釈

①白いウエディングドレスの女(本編中で怪物が生き続けた姿)が動き回り、鳥のせせらぎが流れている中で座り込んでいるのは何がしたかったんだと思ったが、本編が終わるとあぁこういうことだったんだなぁと納得した。それ以上の解釈は語彙力不足&1回しか見ておらず出来なかった。Xを見る限り複数回見た人も多くいるそうだが、複数回鑑賞する人の気持ちはよく分かる。

②怪物はマリーの死に悲しんだクリストのエゴ?によって生み出され、クリスト当人やマーサからは“怪物”呼ばわりされていたが、ユーノとアダムスとの出会いにより少しづつ心を開いていった。クリストやマーサといるときは、先述した通りの怪物そのものの棒読みだったのがユーノやアダムスと出会う中で脱棒読みし、ユーノが死んだときは完全に感情の宿った1人の人間となっていたのは尾身さんが上手く演じれいていて良かった。

メイヴィは哀れだ...


本作では主人公クリストを含めほぼ全ての登場人物が殺されたり、大事にしていた人物が殺されたりと何らかの形で不幸になっている。個人的に一番哀れな人物はメイヴィだろう。むろん作中での純粋な理不尽さでは怪物が上回るのだろうが、クリストを“純粋に打算なく”愛していて結婚にこぎつけたのに、当のクリストからは元妻マリー復活の研究材料の体としか見ていなかった。

それを知るのは、クリストに殺される時に「愛しているよ、君だけを、マリー!!!!」と飛田さん演じるクリスト(色欲オヤジたっぷりに)叫びながら刺された時である。その後、稲川さん演じるメイヴィはそれまで叫ばなかった「痛い!」「死にたくない!」とそれまで貴族の娘らしくない悲鳴を言うも時すでに遅し。殺されて、美しい“器”だけで残されることになる。しかも美しい器に取り換えられる器は、ユーノとの交流で心を得たことで自我が芽生え、クリストに用済みで殺されそうになる中で退場することになる。

最も怪物が殺されてマリーの脳がクリストの器に移植したらもっとおぞましいことになっていたからメイヴィにとってある意味これで良かったのかもしれない。

稲川さんのメイヴィの演技について

稲川英里さん目当てで来たので主に彼女の演技に触れる。メイヴィの立ち位置はクリストを愛していたのに、美しかったために肝心のクリストからはマリーの器として見られていなかった哀れな女。

クリストを恋人である人物の立ち位置上、クリストとのやり取りが多くそのやり取りは心底楽しそうであった。身振り手振りが良かったのも加点要素である。

しかし、メイヴィの思いとは裏腹にクリストとのやり取りは実は「マリー復活」という一点が行動原理で下心満載のやり取りであったのが分かる。「メイヴィ...美しい君の、体」とか「耐えられない」という台詞を例として挙げれば十分であるが、そこに飛田さんのいやらしいおっさん感の演技がスパイスの様に効いてくるのだ。

しかしそれにメイヴィは気づかない。「恋は盲目」という言葉以外に当てはまる表現が無く、純粋なメイヴィに「気づけや、メイヴィ」ともどかしくイライラしてしまった。本当に1回しか見れなかったのがもったいない。

一方、クリストがマリーの死によって追放となりその代わりにアルゴが主治医になった時のメイヴィは浮かない表情と声色になるのがはっきりと分かりました。ここからアルゴへの感情が直接的な台詞が無くても表現することができたのが、稲川さんをここまで見に来たかいがあると感じた。言葉だけでは説明できるものではなく音声と映像がないのが残念である。

どういう解釈でアルゴのシーンを演じたのか、稲川さんが語るのを待ちたいところである。私が解釈するに「自分のエゴ」が見えるのが嫌だったのだろうか。まあ、クリストも自分のエゴばっかりなのだがそこは「恋は盲目」なのだろう。「何か嫌」、メイヴィがアルゴを振るその一言がその答えなのだろう。ここもあっさり感があり、稲川さん良かったと思う。

ここまでの話を端的にまとめると稲川さんの演技はお金を取る「役者」としてのレベルだったということである。また、彼女(にかぎらずミリオン声優39人が出演するならば)が朗読劇に出演するならば見たいと思う。

メイヴィとはずれるがアルゴはイムに対してもそのような態度をとっていたのだろう。“愛している”等の台詞にも違和感を感じていた。それは上田耀司さんの演技の賜物だろう。表面的にはおしどり夫婦、裏ではDVされているのが想定できる。

まとめ

2時間のこの朗読(というには動いていた)劇のためだけに新幹線で名古屋と東京の往復をしたかいがあった。一抹の不安は杞憂に終わった。稲川さんのメイヴィのみみならず全ての演者の役にそれぞれ難しさがあったことを上手く調理しプロの役者としての力量を見せつけてくれた。

今まで、ライブ(アイマス・ソロライブ)には参戦していたが今後はこのような機会があれば費用と時間と相談して参加しようと思う。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?