★指導主事について考える

 教育関係者以外には馴染みが薄いかもしれないが、各都道府県、区市町村の教育委員会には指導課、指導室という組織があり、そこに指導主事と呼ばれる役人が働いている。指導主事は元は教員。教員の中から任命、または、選考によって選ばれる。

 指導主事という名のごとく、学校を「指導」するのが主な役割。初任者研修を始めとする年次研修、管理職研修を仕切っている。各学校が行う指定研究や校内研究を指導する場合もある。

 私が教員になった、平成の初め頃の東京都では、目黒に東京都立教育研究所があり、その中にあった各研究室には、各教科領域別に大学教員並の専門知識を備えた指導主事がいた。初任の盲学校教師の頃は、時間をやりくりして目黒で研修を受講し薫陶を受けたことを覚えている。その頃の指導主事は指導主事試験と呼ばれる厳しい選考を受けて選ばれていた。「スゴイ先生達」というのが教師に成り立ての私の印象であった。

 しかし、東京都は平成16年頃に目黒の都研を廃止した。そして、水道橋駅前にある都立工芸高校と同じ建物内にあった、専門学科の都立高校生が実習する施設を模様替えして、東京都教職員研修センターを設立した。「研究所」が「研修センター」に格下げになってしまったのである。行政上の身分も主幹教諭級に格下げられた。副校長、校長よりも下に位置づけられてしまったのである。それは、指導主事はもはや、(劣化した)学校管理職を指導できる立場ではなくなってしまったことを意味する。

その背景には、教師に「研究」は必要ない、行政職と同じ「研修」で充分であるとする、石原都知事(当時)のご意向が窺える。同時に、指導主事選考は廃止され、A選考という制度が始まった。A選考は教育リーダーを志す、33歳~42歳の教員に受験資格がある。選考合格者は、およそ4年程度、都や区市町村の指導主事を務め、副校長として3年程度学校に降りる。さらに役所で統括指導主事を経て、主任指導主事(役所の課長、部長)や区市町村の指導室長になったり、校長となったりして教育管理職の道を歩むことになる。

 しかし、現在、この「研究、指導力軽視」のA選考施策が指導主事、教育管理職の劣化を招いている。コンプライアンス重視の風潮で指導主事の業務は多忙化している。学究肌の教員は、当然のことながら、一木っ端役人と化した指導主事になる道を選ばない。児童生徒と接しながら、授業を極める道を歩むことになる。

 では、どんな教員がA選考を受験するのか。それは、児童生徒、保護者とうまくいかない、授業もそんなに好きではない、でも、世間から認められたい、人より高いポジションに行きたいと願う人々である。つまり、「教師としての力量はないけど、威張りたい」部類の教員である。当然ながら行政研修以外の、民間研究会は知らない。教育に関する書籍や雑誌も読んだことがない。ましてや、それらに原稿を書いたこともない。

 そして、学校や役所でトラブルを起こす。

 そんな指導主事が現場の教師を「指導」できるだろうか。ほとんどは、行政が作成した配布物や資料を読み上げているだけである。ちょっと突っ込んだ質問をされるとしどろもどろ。現在の指導主事職は、上意下達するだけの、代替可能な、誰でもできる仕事に成り下がってしまったのである。非常に残念でならない。

 指導主事の質を上げるにはどうすれば良いか。東京都の場合に限っていえば、給与体系を見直し、選考方法を抜本的に改革し、能力のある教員を指導主事にする仕組みを再構築するしかない。

※念のため、指導主事の中には指導力のある素晴らしい先生もいます。少しだけですが。

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本田健作家セミナーにて勉強中!

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AZEN

蟻を見つめていた頃

20年前に書いたエッセイ。一部加筆修正。 ★は2017年以降、新たに書き下ろしたエッセイ。
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