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40歳 これまでの人生の10曲

気付けば40歳となり、平均寿命から考えると人生の折り返し地点に差し掛かっています。現在、僕はコロナウイルスの2回目のワクチン接種によって、発熱・関節痛の症状が出ておりますが、どうにもこうにも眠気がやってこず、寝ることはできない状況(かといって、仕事ができるほど頭は働かない)です。

 そこで、このある種贅沢な時間のなかで、暇つぶしというか、自分の人生の総括というのか、とにかくこれまでの人生における10曲を、この機会に選んでみたいと思います。この手のもの(無人島に持っていくならどんなレコードを持っていくか、など)は何もすることがないときにぼんやり考えたりするものですが、実際にまとめてみるということはなかなかしないもので、自分の記録としてこの様な記事を書いておくのもまた一興かな、と思っています。

 父が車を運転するときにはカセットテープでビートルズとサイモンアンドガーファンクルをかける環境に育った僕は、小学3年生のときに、たまの「さよなら人類」に出会い、小学5年生でチャゲ&アスカに出会い、中学1年生でmy little loverに出会いました。その後はラジオを聴いたり音楽雑誌を読みながら色々な音楽に出会い、洋服を着るようにその時の自分に合う音楽を探し、今まで生きてきたように思います。セルジュ・ゲンズブールのファンが彼の家の壁に書いた言葉に「セルジュ、僕も君と一緒で、音楽を通してじゃないと世界が理解できないんだ」というものがあるそうですが、音楽に出会ってから僕もその通りに感じて生きてきた気がします。もしくは、ジョンキューザック主演の映画「ハイ・フィデリティ」におけるセリフ「音楽を聴くからダメなのか、ダメだから音楽を聴くのか」というのも未だに心に沁みます。

大学を卒業し、社会人となり、結婚し、子供が生まれる中で、音楽に全身を委ねる機会は減り、音楽の聴き方も相当に変化しました。僕は今では主にAMAZON MUSICで音楽を聴いていますが、このサブスクリプションによるデータでの音楽鑑賞というものに対し、「音楽をやたらめったらとただ消費し、味わうことをせず、結果、音楽を冒涜しているのではないか」という気分にたまになります。この問題は今後も考え続ける必要があり、また音楽の聴き方の変化が構造として何をもたらしたのかを、研究してみたいという気持ちもあります。

前置きが長くなりましたが、これまでの人生における10曲を思いついた順に書いていきます。考え始めると、「自分の人生を変えた曲」とか「新たなジャンルを聞くきっかけになった曲」とか「思い出の曲」とか、色々と前提による制限が必要になってしまいますので、とにかくその様な前提を無くして、パッと思いついた「自分にとって大切な曲」の名前をまず書き、その後、その曲にまつわる記憶や思い出を糊塗するような形で書いていきたいと思います。

1.The millennium/there is nothing more to say

人生のオールタイムフェイバリットに必ず入る曲。高校生のときに、NHK「中学生日記」で流れていて、聞いた瞬間に「これは自分にとって大切な曲だ」と分かりました。当時はインターネットはそこまで普及していなかったので、この曲が何なのかすぐに調べることができなかったのですが、GREAT3がアルバムでこの曲をカバーしていて、そこから調べて「the millennium」という60年代のバンドの曲だということが分かりました。この曲をきっかけに、60年代やソフトロックを聞いていくことになります。この曲は、2分半ととても短い曲ですが、マジックとしか言いようがないというか。当時高校生だった僕は若干引きこもり気味で、高校のクラスには友達がいない状況でした。一人でいることが必要と考えながら、誰か特別な人が突然現れることを、ただただ待っているような人間で、自転車に乗って川沿いをずっと一人で音楽を聴きながら走っている高校生でしたので、この曲の歌詞もまたとても自分の支えになりました(「もし聞いてくれるなら、僕は君の耳に歌おう。いくつかの歌詞が奇妙でも気にしないで欲しい」)

2.Todd rundgren/hello it’s me

改めて考えると、この曲もコミュニケーションの歌です。映画「virgin suicide」でも印象的な使われ方をしています。「きみには自由なんだって知っていてほしい それが僕にとって大切なこと 僕のためにきみが変わっていくのは どうしても嫌だから」という歌詞は、今でも自分のなかにある、なかなか慣習として慣れることのない、他者とのコミュニケーションのベースとして残っている部分だなあと思い出させます。まだ心が柔らかった10代や20代の始めにこの様な音楽に出会えたことを嬉しく思います。

3.Lamp/さち子

比較的新しい曲。「今後、1組のアーティストの曲しか聞けないとなったら誰を選ぶか」とか「無人島にCD1枚だけ持っていくなら」といった妄想に必ず入るのがLampです。Lampだけもういてくれればよい、とも思うわけです。「今夜も君にテレフォンコール」とか「1998」「Fantasy」とかとにかく好きな曲ばかりですが、この曲は本当に特別。音楽ってこの曲だけでいいんじゃないか、という暴論を思わず言ってしまうほどに。3拍子と6拍子の違いも分からないほどの音楽音痴なので、音楽的なことは全く分かりませんが、この曲に内在するノスタルジーというのは、誰しもの心象を写すことができるのではないかというように思います。そういう意味で、真にポピュラーな音楽。「もし君が魚でも見つけられると何度も呼んだ名前」というライン(歌詞)には永遠があって、死ぬまでこの曲をずっと聞き続けると、このラインにたどり着く度に確信します。

4.THA BLUE HERB/and again

これも比較的新しい曲。「贈与」について考えているときにこの曲に出会い、それ以来ずっとこの曲に支えられています。BOSSの「もらいっぱなしじゃ終わらない」というリリックに励まされます。特に仕事において、「なぜ自分だけたくさんやらないといけないのだろう」とか「これをやって意味があるのか」「やってもやらなくても評価が変わらないなら、やらない方がいいのではないか」という逡巡に日々悩まされますが、そういうときにこの曲を聞くと「いやーそんなこと言ってらんないっしょ、まだBOSSだって45歳で若手って言ってるよ、もらいっぱなしじゃ終われないっしょ」と奮起するわけです。ノスタルジーではなく、今の自分を支えてくれる曲に出会えることは、年齢を重ねるごとに難しくなっていきます。

5.中村一義/主題歌

僕には成熟しきれない精神的な脆さや未熟さがまだ残ってしまっており、それに外殻をして守ることも未だにできずにいます。だから音楽を聴き続けているとも思います。一時期までの中村一義(3rd「ERA」まで)は、そういう、今でも自分のなかにいる小さな自分を「君はそのままで良いんだ」と肯定してくれる存在です。「犬と猫」「ここにいる」「永遠なるもの」「笑顔」「そこへ行け」「ジュビリー」「グレゴリオ」「ハレルヤ」・・・どれもこれも僕にとって大切な曲です。そのなかで「主題歌」は、いつ聞いても自分にとっての「主題歌」です。「青の時代を延々と行くのもまた一興だ」という歌詞は、お守りというのか、辛いときにふと口ずさんで、自分を落ち着かせてくれるわけです。

6.スーパーカー/lucky

「lucky」というものはいつになっても願ってしまうもので、起こりえないものだからこそ、「もしそうだったならばラッキー(だったのに)」という反転が、起こりえない幸福を願う自分に内在され続けます。それは10代のころは恋愛に、今では恐らく人生に対して願う「ラッキー」となり、そして歳を経ることにそのラッキーを信じる度合いは減っていきます(そんなことを書いていると、新エヴァンゲリオンっぽいテーマな気がしてきました)。この曲を聞くと、かつて自分が願っていたノスタルジックなラッキーと、今願うラッキーが綯交ぜになり、イメージの自分が浮かび上がります。それは今後の、後半戦の人生でも同じことが起きていくのではないかなと思うと、この曲は装置の様だと思わざるを得ません。
ツインボーカル、ささやくナカコーと声を張りながらも少し俯きがちなフルカワミキ。口ずさめるほどメロディックなギターフレーズ。青森を「青い森」と言い換えた、彼らの「どこでもなさ」というのは今でもまだ見つけられていない感じで、決してノスタルジックな音楽には落ち着きません。

7.The beach boys/ダメな僕

Beachboysはこの曲ではなくてもいい気がしているんですが、この曲になってしまいました。天才・ブライアンウィルソンの生き辛さに共鳴するというのか、うまくいかないときに少し逃げたくなる時、今でも聞くし、これからも聞くんだろうなあと、恥ずかしくも思います。これと、ブライアンウィルソンの「your imagination」でワンセットですかね。

8.Mari Mari/everyday under the blue blue sky

フィッシュマンズを聞く前に、マリマリを聞いていました。当時、ロッキンオンジャパンを買っていた僕は、インタビューや論評をもとにCDを買うことが多かったことを覚えています。マリマリを買った理由が何だったのか、正確には思い出せないのですが、PORTISHEADとかブリストルとかトリップポップみたいな言葉がそこには並んでいた気がします。とにかく、フィッシュマンズとは関係なしに買ったCDでした。

高校生の当時、行動の殆どが自転車で、自転車に乗りながら音楽を聴いて、自分と景色と音楽が溶けて混ざり合って一体になるような瞬間がとても好きでした。この曲は「自転車を走らせて考えてみよう 小さな私がしてあげられることを」という歌詞があって、この曲自体は恋愛についての曲ですが、僕自身は「自分は自分に対して何ができるのだろう」ということを考えながら、夕方に自転車に乗りながら聞いていた気がします。10代の孤独とか、10代の真摯さを思い出す大切な曲です。

9.Bill Evans/ Children's Play Song

イデアみたいなものがあるとすれば、この曲はその題名「Children's Play Song」のイデア。妙齢となり、子供たちが巣立った時にこれを聞いたら、かつての小さかった子供たちが遊ぶ姿がホログラムのように浮かんできて、泣いてしまいそうです。

10. Kenny rankin/haven’t we met

ソフトロックを聞く流れで出会ったケニーランキンは、SSWや60年代、70年代やブラジル音楽、JAZZとも僕を交差させてくれた存在です。軽快。メロディック。今となっては後期の方が好きかもしれませんが、ソフトロックからワンステップ大人の音楽を聴くきっかけとなったのはこの曲です。雨にまつわる曲としては、「laughter in the rain」も名曲ですね。


というわけで、とりあえず思うがままに書いてみました。小粒感があり、ほかにもっとたくさんの名曲がありますが、現時点での僕にとっての10曲を選んでみました。もっと大切な曲や素晴らしい曲がある気がしますが、それはまた次の機会にまとめてみたいと思います。個人的には、最近なぜか90年代のUKロックを聞き直しているので、それをやってみたいと思います。

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