見出し画像

ネット授業を始める際に考えること

学校の授業をネットに載せる際に考慮するべきことを考察します。以前から自分の授業をネット上で運営したいとつらつら考えていたことの覚え書きです。

「密室・密閉・密接」を避けるCOVID-19対策を考えた教育環境作りのため、ネット授業のニーズが急速に高まっている。

インターネットを使用した授業の提供にはビデオ配信と対話形式(文部科学省の提唱するアクティブラーニングを実現するもの)があるのだが、ここでは従来の対話型の教室内授業を踏襲する対話型の「ネット授業」を考える。

1. ネット授業の形式
従来の教室で行われていた授業形式では情報伝達の経路が双方向の「教員<->学習者」(講義と質疑応答)「学習者<->学習者」(討論や発表)がなされていた。ネット上に「教室」を移すとなると、これらをインターネット上で実現する必要がある。
「教員<->学習者」の授業内コミュニケーションは常時に学習者からの質問や提案などの発言を受け付け、教員がリアルタイムでフィードバックするものである。テレビやラジオにおいて行われている、古くは視聴者の電話やファックス、最近ではEメールやツイートを番組に取り込んで行う放送の形がある。これを授業で行えばよい。SNS (Social Network Systems)の投稿を常に横に見ながら教員がカメラに向かって授業を行い、SNSで質問がくるたびにSNSの文面を参加者に公開し口頭で回答すればよいのである。(授業の進行に必要のないものは無視して公開しなければ良い)。学習者からの回答に参考文献のリンクやPDFを貼り付けることも可能である。オンデマンドで教員の姿と声を配信し、教員を含むクラス全体でSNSのグループに参加すればよい。教員は映像と音声で発信し、学習者はtexting(文字メッセージ)で発信することになる。このような場合のtextingでどれくらい深い議論が出来るのかは不明だが、SNSを使用すれば一方向にならないクラス全体の討議は可能である。
(筆者の意見としては、声を使って討議したいのでtextingを主に使用するSNSよりWeb会議のアプリが欲しい。)

2. 学習者間のコミュニケーション
授業内で学習者が一対一もしくは一対数名で情報を交換する場合を考えてみる。語学で行うペアワークや少人数のグループワーク等がこれに当たる。前述のクラス討議との違いは、教員はこのペアやグループ内の会話を傍聴・参加することが許可されるが、学習者は他のペアやグループの討議を見ることが許可されないところである。
個別のペアやグループで作業するということがSNSベースでは難しい。SNSで一教室を一グループに割り当てて授業を進めているため、(インターネット越しの)グループ討議の発言はクラス全体に流れてしまう。クラス全体にグループ内の話を配信すると討議を小さなグループに分けた意義がなくなり、また全てグループの会話が同じタイムラインに現れてしまうためタイムラインが混乱するので、討議が成り立たない。
このことはSNSで「教室」というグループの中により小さなグループを作成することで容易に解決できそうだが、この「小さなグループを作る」ことが実際は難しい。参加者(「教室内」内の学習者達)にグループの作成を任せず、作業の相手を教員が決めて割り当てていく必要があるからである。SNSではグループの作成は参加者同士で行うので、誰とペアやグループになるのかは学習者自身が決めることになる。話したこともない他人とペアを組むことには抵抗があるだろう。抵抗がほとんどない場合でも学習者が自ら相手を選ぶ方法とると、人気者にはペア申し込みが殺到し社交性が乏しい者は誰にも申し込みをしない、ということも起こりうる。
これを解決するために教員が整理して一人一人にペアやグループ構成員のIDを送付し割り振りを授業内で行うと時間がかかってしまう。授業の前に組んでおいた割り当て表に従ってクリックひとつでペアやグループが作成されれば、予定外の参加者や欠席者がいても割り当てに時間をとられずに次の作業に入ることができる。このあたりの作業はSNSでは難しい。web会議アプリにはそれが出来そうである。

{追記 3/29/2020}
3/28の訂正で「web会議アプリでもペアやグループが作成できない」と書いてしまいましたが、zoomのマニュアルをよく読むとBreaking Roomと言う機能が紹介されており、これを使うと会議参加者を会議主催者は小さなグルーブに分割できるようです。まだ、この機能を試していないのでどこまで使えるか分かりませんが、間違った情報を流しておりました。お詫びします。

3. Web会議アプリの導入
ペアやグループ作成以外にクラス内のコミュニケーションにSNSが適切ではないもう一つの理由は、クラス内のSNSの連絡先が全員に公開されることである。SNS上の会話では、SNS内のアカウントが相手に知られているからこそ通信が出来ているのである。SNSのアカウントとは学習者が日常で使用している連絡先であり個人情報である。同じ教室にいる学習者同士でも個人情報である連絡先を知られたくない相手がいる場合はよくある。個人の連絡先が公開されることでストーカーやネットいじめにもつながる可能性があり、SNSで授業内の会話をすることには危険であるとも言える。
そこで授業専用のIDとハンドルネームを使ってweb会議アプリで運用することが望ましい。web会議アプリならば、参加者はURLをクリックするだけで会話に入ることができる。SNSのIDを使わない討議をならばそこから個人のIDが公開されることもない。教員としては全く参加者が誰なのかも分からない状態で授業するわけには行かないので、学習者は最初に教員に何らかのIDを送るなどの手順は必要である。願わくは学校側からweb会議アプリを正式採用して学籍番号などをIDとして学習者を一括登録してもらいたいものだ。学校のシステムと連動していれば、授業履修者によって会議室(この場合はネット上の「教室」)を自動的に振り分けることも、課題の提出の管理も楽になる。

4. 必要機材
配信を行うに当たって必要な機材について考察してみる。ネット配信とは、教員の姿と声と板書もしくはスライド、教室内の学習者の声をカメラとマイク、教室外からSNSのtextingやボイスチャットを適時に参加者(教員と学習者)で共有することである。となると、配信用のインターネットのシステムがあれば、カメラ、マイク、インターネットにつながったPCもしくはスマホがあればよいことになる。教室を使用している場合は教員の姿を写すカメラや教室内の声を拾うマイクが別に必要だが、教室なしのネット授業ならばカメラとマイクはPCやスマホに付属するもので問題ないので、学習者も教員も個人がすでに持っている設備だけで参加できる。

5. 配信形態
インターネットで授業を配信するにあたって、オンデマンド配信(on-demand; 利用者が使用したい時にネット上に保存された動画にアクセスする形態)にするのかライブ配信(ネットを使ったリアルタイムの中継映像配信)するのか、も考慮すべきである。
オンデマンド配信は教員の説明が主である授業形式に適している。実際、すでに多数の予備校や塾の授業はオンデマンドで録画が配信されている。学習者の反応で説明や教授法を変化させることはできないが、教員1人に対して多数の学習者が時間や場所を選ばずに参加できるのは効率が良い。web会議アプリを使用せずとも録画映像をネットに上げるだけですむのは手軽である。
学習者と授業を作っていく形式を望む場合はライプ配信となる。オンデマンド配信用の収録をライブで配信しながら行っても良い。教員の資料提示や説明の配信を見ながら学習者は前述のSNSのチャットによる発言や会議アプリの話し合いによって授業に参加し一緒に授業を作っていく。もちろん学習者の発言も同時に配信される。

6. 評価
学校においては学習者の評価を出す必要がある。従来の評価方法は教室にいることを前提にしているため、教室にいない場合に今までの評価方法では評価が難しくなることがある。
代表的なものが出席である。「出席している」と評価するためには「教室もしくは指定された時間に指定された場所にいる」ことが条件であるが、オンラインで行っている授業ではそもそも全員が教室にいないのである。授業を配信しているサイトにログインすることを「参加」として記録すれば出席をとったことにはなる。しかしログインしただけでPCやスマホの前にいない場合は「参加」であろうか。内蔵カメラの前に常に学習者の顔があることを確認する必要はあるだろうか。
課題提出を評価する場合は、講義/授業に参加せずに作成された作品の扱いを考えるべきである。ライブ配信の場合に討論に参加した者としなかった者は評価に区別をつけるべきだろうか。
実際に授業を運営しながら決断していくべき事である。

7. カメラに何を写すのか
教員から発信する映像に教員の顔は必要だろうか。音声は指示や説明をするために必要であるが、顔を映像で流す必要はあるのだろうか。Face to faceのコンタクトのためにペアワークやグループワークで学習者の顔は必要だろうか。ホワイトボードの前で書き込みをしながら説明する場合(予備校などのネット授業)は教員の姿とホワイトボードが映像として配信されるが、ホワイトボードの映像だけでは不十分なのだろうか。
「なんでもかんでも映像を流せばよい」から「カメラで撮れるものは全て発信してしまえば良い」と思われるかもしれないが、映像配信は情報量が大きいためインターネットへの負荷が大きいのである。映像配信を少なくすれば、インターネットへの負荷を減らすことができる。これからインターネットを使用した遠隔作業が普及するつれてネットの世界的に使用量は高まる上に、学校での全ての授業を配信することになれば学校の使用するサーバーへの負荷も大きくなり続ける。高速回線でも音飛びやコマ落ち、アプリのフリーズが予想されるため、ネットワークリソースの節約を考慮することは大事である。不用な映像の配信を避けることは大切である。


まとめ
インターネットを使って遠隔授業を行うに当たって以下の七点について考察した。
1. ネット授業の形式 : 「教室」内のコミュニケーション
2. 学習者間のコミュニケーション: SNSの使用とその限界 
3. Web会議アプリの導入: web会議アプリを使う利点
4. 必要機材: ほとんど特別なものは必要ないということ
5. 配信形態: 録画かライブか
6. 評価: 成績のつけ方
7. カメラに何を写すのか: ネットワークリソースの確保

終わりに
ここで述べてきたことは「教室」のないシステムへ移行時の、一時的なものである。今までの授業の枠組みは教室で行うことを前提にできたものなので、教室から飛び出した授業には全く新しい発想が必要である。
覚え書きなので、参考文献へのリンクなど全くないものとなってしまったが、この緊急の折、ネット授業を開始する上の参考になればうれしい。不謹慎かもしれないが、今回の騒動は新しい教育方法を模索する良い機会だと思う。果敢に、クリエイティブに新しい授業の形を創造したいものである。

{訂正 3/28/2020} 「教室」内で複数のグループを作成することについて、「SNSでは不可能で、web会議アプリでは可能」と記述しましたが、筆者の試したweb会議アプリ(ZOOM無料配布版)でも会議室内の複数グループ作成はできませんでした。訂正します。しかし、この機能が使用できないとペアワークやグループワークが実施できません。なんとかしたいところです。

続編としてweb会議のアプリを使用した感想などを書いてみたいと思ってます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?