見出し画像

打ち上げ花火

打ち上げ花火にいい思い出がない。

いえ、きっとひとつの悲しい思い出が楽しい思い出を全て消し去るくらいに、強すぎただけなのだと思う。

写真ならとても綺麗だと思うし、見るのは好き。色とりどりの万華鏡のようで、どこか儚い。

でもいざ見上げるのは、嫌。あの音も光も、夏の香りと合わさると泣きそうになる。夏の終わりの始まり、淋しさが込み上げて立ち尽くしてしまいそう。

私の部屋の窓から、ちょうど見える打ち上げ花火。望んでいないのに見せつけられるような、勝手に被害者になってしまうことに、自己嫌悪する。

どこに居ますか、どうしていますか、私はここに居ます、あの時と変わらずに。

悪夢が醒めない。真夏の夜は酷く淋しい。

あの人もあの子もあなたも、手が届かない。高い高い空の上から、背中を押したのは誰?



貴方の夢を見たい。

締め付けられるくらいの恐怖はいつも隣にいる。傍に居てほしいと言葉にすることもできない。私の声は届かない。

もう誰も、恨むことも怨むことも憎むこともしたくない。もう私は充分に憎んだ恨んだ怨んだ。だからもう終わりにしたのだ。

終わりのない迷路はもう歩き疲れた。淋しさを形にするピースも揃わない。貴方がいない。

好きな人の腕の中で眠りたい。心音と呼吸が聴こえてさえいればいい。心から安心出来る場所で深く眠りにつきたい。

まだ滲む血を隠して、傷ついた心のまま何処へ行くの? 何度も何度も傷を隠して、平気な顔で笑って、ねぇ、その痛みはその傷はもう独りでは治せないと分かっているはずなのに。

誰か。

誰か私と打ち上げ花火を見上げてくれませんか。 ただ隣で手を握っていてくれませんか。 そしてただ「きれいだね」と微笑んでいてくれませんか。

嗚呼、もうすぐ、夏が終わる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?