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雨を待つ 愛を待つ


雨を待つ、幼い頃のわたしのように。


マニキュアを爪に塗る。 なんのために? なんのためだろう。 見て欲しいのか、褒めて欲しいのか。 誰に? 誰だろう。 あなただろうか、それともまだ見ぬ誰かだろうか。 答えの出ない自問自答。 軽率に期待する。 その期待が叶えられたことはない。

夢のように綺麗であれたなら、この心は満たされたのだろうか? 夢は夢だとあなたが笑う。 それでもあなたが出てくる夢が、わたしはとても好きなのだ。 あなたの微笑む横顔を見ていられるなら、わたしはずっと眠っていたい。 朝も昼も夜も、ずっと、ずっと。


叶わぬ恋を繰り返す。

まるで味のない飴玉を転がすように、何度も何度も溶けることを願い続けて。 あなたの横顔もあなたの香りも、あなたの背中も手も、もう二度と思い出したくないはずなのに。 猫が鳴く。 猫のように愛くるしく、気ままに甘えることができたなら、わたしはあなたに愛でてもらえたのだろうか。 終わった恋を、戻らない愛を、嘆くことはないのだろうか。 朝のこない部屋で。


愛とはなんですか、恋とはどれですか。

何度も何度も繰り返して、辟易する心。 元来の淋しがりや、泣き虫。 あなたの心に住んでいたかった。 夢のように現のように、あなたと共にいたかった。 雨も雪も暴風も。 わたしの心を揺らし続けて、いつも何処かへ行ってしまう。 わたしのことを置いたまま、わたしのことを遺したまま。 

ああ、愛とは。 心中するくらいがちょうどいいのかもしれない。



雨を待つ、懐かしい日々を。


友人が言う。 私は犬の方が好きだ、と。 わたしは答える。 わたしは動物ならだれでも好きだよ、と。 そう言い合って、笑い合う。 好きなものを尊重し合える関係は、心に平穏をもたらしてくれる。 関係に、名前をつける意味はあるのだろうか? 恋人を恋人と紹介するのは、独占欲か。 それともただ認識しやすい名前を与えているだけなのだろうか。 愛人という言葉の方が、妻や奥さんという言葉よりも、愛されている気がするのは何故なのだろう。 答えられない。


言葉と声を武器にしている。

素早く、慎重に言葉を選んで、相手の声と波長を合わせて。 そうやって少しずつ心を解いていく。 〝わたしはあなたの敵ではないよ〟と伝えていく。 何もかも話さなくていい。 話したいことだけ聞かせて欲しい。 あなたのペースで、あなたの言葉で。 それがどんなに卑しくても、それがどんなに汚くても、わたしの心は砕けない。


「大変な仕事ね」

労うように微笑んでくれる。 察するように理解するように。 それだけでどれほど救われるか。 頭を撫でる柔らかな手も、わたしを迎えてくれる温かい眼差しも。 どんな言葉でも言い表せない。 わたしは不意に泣きそうになる。 優しい言葉に、慈しむような瞳に。 だからわたしは朗らかに微笑み返す。

褒められることに慣れていない。 わたしが褒められていいのだろうか、と嫌な思考ばかり繰り返す。 味のない飴玉を転がすように、ひたすらに甘さを求めているくせに。 だからいつも精一杯の喜びと照れを込めて返す。 

〝ありがとうございます〟。


歪な形をしているに違いない。 

わたしの言葉が誰かを傷付けてしまうくらいなら、わたしの声が誰かを拒絶してしまうなら。 それくらいなら言葉も声も無い方がいい。 味のない飴玉を噛み砕いてしまえ。 そしたらわたしはなんの未練も遺さない。 ただひとりでひっそりと、水中に沈んでいく。 そんな悲しい終わり方を、何度夢に見たことだろう。 自分勝手な、理想の終わり。 


顔も手も脚も耳も体型も身長も、なにひとつ重要じゃない。 それを有する〝あなた〟が好きなのだ。 だからあなたの心を覗いてみたい。 言葉の端に滲む、ひと欠片の感情がなんなのか、知りたいのだ。 花のように可愛らしいのか、刃のように鋭いのか、最終章のように淋しいのか。 わたしはそれが知りたいのだ。 


桃色のお花のような女性も、黄色いお花のような心も、青い澄んだ海のような男性も、わたしと同じ世界で生きる心も。 すべてすべて。


ただ、わたしの好きなもの。






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