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恋を唄い 愛に泣いて 言葉を紡ぐ


次に恋愛をするなら、言葉をくれる人がいい。


前の恋が終わったとき、ぼんやりと思った。わたしはどんな時でも言葉が欲しいのだろう。誰に対しても、何に対しても。言葉を受け取ること、言葉をあげること。それがなければ生きていけない、それがなければ息ができない。文字だけでもいい、声だけでもいい。それは、我儘なのだろうか。解らない。


これを読むあなたは、なにを重視するのだろう。

言葉? 身体? 距離? 価値観? 好み? 性癖? 

幾つも幾つも重ね合わせて、ひとつの恋になるのかもしれない。恋は可愛い、愛は美しい。きっとそんな表面だけに憧れ続けて、砕けてしまった人もいるのではないだろうか。あなたの恋愛が、愛という毒を飲み込ませて、無理矢理に愛を解らせるような。そんな恋愛ではないことを、わたしは願う。


過去の恋愛を語るようなことは、できない。

暗い部屋の中で密やかに交わされた約束を、言葉にすることができないように。陽の光の中でも夜の帳の中でも、決して言葉にしたくない、できない。あの時間を共有することも、同調されることも、なにひとつ許せない。心の奥、深い場所で密やかに眠らせておきたいのだ。交わした愛も、叶わぬ愛も。なにひとつ。

人の恋愛を聞くのが好きだ。特に惚気のようなお話は、こちらまで幸せになれる。嬉しくなる。恋愛の相談事の方が、悲しいかな、よく聞いているけれど。それでも悩むほどの恋を抱えて、傷ついて、抱えきれなくなるほどの愛を持つ人は、哀しいほどに脆く美しく思う。狂うほどに、病むほどに愛した人も。泣き喚いて、叫ぶほどに愛を捨てられぬ人も。わたしにはとても、強く美しく映る。捨てられぬ理性と先走る本能の狭間で、苦しみながら愛を選び、愛を捨てる。そんな人が、わたしはどうしようもなく愛しいのだろう。



時代が変わり、恋愛も変わっていく。

そんな中でも一途に誰かを愛していたい。本当はもっともっと軽率に愛を求めたり、もっともっと簡単に愛を囁いたり。そんなことができたら、良かったのかもしれない。またきっと違う世界を体験できたのだろう。でも出来ない。どうしても。

一途は毒だ、自分自身を蝕む毒。その人しか愛せない、他の人はいらない、誰ひとり。それ故に愛が崩れた瞬間は死に似ている。愛が昇華されない、昇華できない。浄化されず成仏できぬ愛が死にかわる瞬間の痛みは、いつまでも忘れられない。何もかもが嘘に変わるような、密やかに交わされた約束を反故にされてしまったような。きっとそんなことはないのに。なにひとつ信じられない、信じたくなくなる。


手を繋いで、笑いあって、身体を重ねて。

それだけで生きていけたなら良かった。理想と言われても仕方がない、甘い甘い夢。多くの言葉を贈りあって、多くの景色を共有して、それだけで幸せだろう。他に何を望むというの。欲の受皿は段々と大きくなり、欲するものは湯水のように溢れ出す。欲求、要求、渇望。なにひとつ満たされなくなる時、全てが崩れ去る。なんて愚かで可愛い人間(ひと)。

シンデレラの靴はなぜ脱げたの。ラプンツェルの髪が短かったら。白雪姫が林檎を食べなかったら。そんなifを想像しては、ひとり嗤う。バッドエンドは望んでいないのに、美しい物語は最終章で結ばれる。それでいいはずなのに。心のどこかに生まれる恐怖と不安は段々と大きくなっていく。じわじわと染み込む毒に冒されて、愛に殺されてしまいそうになる。


言葉を頂戴。

他愛ない日常の中で。繰り返す文字の中で。声だけの夜の中で。言葉を欲する。愛してくれ、求めてくれ、一緒にいてくれ。殺されるなら、あなたの言葉がいいと。ただただ欲して。身体を重ねて微笑みあって微睡んで、幸せになれますように。たった一言で掬われる心がある。


硝子越しの恋、結ばれぬ愛、繋がれた心も。

なにもかも〝それだけ〟なら良かった。泣いて喚いて嘆いても忘れられぬ愛が本当の愛ならば、出逢わなければ良かったと、思わぬように。思わせぬように。


夜がくる、朝になり、黄昏て、再びの夜も。

あなたが愛する人と共にありますように。その細い糸が切れませんように。

この愛が永遠でありますように、と。







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