Design in Tech Report 2019所感

今年もSXSWでDesign in Tech Reportが発表された。

原文はこちら

全体的な感想

・創造性による民主化が、いよいよ本当に誰でも、誰かのために作れる、時代に突入する一歩手前まで来ている。その中で、経済合理性だけでは見えない、誰かの存在を意識してシステムを、体験を設計することが、作り手側に求められる

・その途上で、デザイナーは、いよいよ、社会との対峙を求められる。その目前に存在するのは、経済合理性で動いている企業の中の組織という壁。片やBig dataでデータを定量的に「見れる」一方、定性的なインサイトを「感じられる」デザイナーという二つの文化の衝突をどのようにマリアージュしていくか。一つのヒントは、"Big data and Thick data"と言われて来た、外部からのフィードバックシステムの中に、感じ、デザインし、検証するという人間性の翻訳というシステムをビルトインすることなんだろうと思う。

メモ

・Inequality→Equality→Equity→Justice。

創造性の民主化はされたものの、「ツールや実践するためのサポートの機会は均等に与えられていない」。そういう課題提起から始まり、テクノロジーツールのさらなる進化と、その先にある社会の正義を実現するためのデザインという問いかけ。基本的には、去年予告していた社会全体を包含していくためのデザインというInclusive designを明確に言語化している。ついに、Justiceという思想レベル(真善美)の言葉がデザインの人から出てきているのが今の時代をよく表している。

・先端デザイン領域としてのComputational designとInclusive design

デザイナーの役割の拡張として、Classic Design,Design Thinking, Computational Designという分類をしてきているが、特にハイライトしているのはComputational designとInclusive designというテーマ。すごく平たくいうと、アルゴリズムによってきめ細かい表現ができるようになったアート領域と、今まで「忘れられていた」人に向けたテクノロジーによる価値創造というソーシャル領域があげられている。

・創造性の民主化を実現するツール

その前提には、さらなる社会実装する上でのクリエイティブツールの民主化。その先には、マテリアルそのものをデザインするシステムやツールセットが出てくるだろうと。

Figma:協働型によるデザイン、プロトタイプツール

Framer: 動的なインタラクティブプロトタイピングツール

Whimsical:ワイヤフレームのプロトタイプツール

Sketch.systems: 複雑なインタラクションをプロトタイプ・検証できるツール

Adobe XD:UXに加えて、Voice UIなどもプロトタイプ可能

Treejack: UIテストのプラットフォーム
https://www.optimalworkshop.com/treejack_b

Tensorflow: ご存知Google提供のディープラーニングのライブラリ

その他、Vue.js/Siri shortcutなどのライブラリ。

・組織におけるデザインの融合

デザイン、ビジネスの融合の難しさが語られている。組織の中で、孤立するデザイナーの現状と、「デザイナーが、うまく俳優を支援する側に回るときに」成功すると。うん、すごく実感する。

InVisionが定義したデザインの成熟度の5段階。元データはこちら。非常に興味深い。

第一段階:プロデューサー:CI/VIなどのビジュアルを統合してスクリーンで実装する 

第二段階:コネクター:企業の場を知識創造の場にするファシリテーター

第三段階:建築家:複雑な生態系(おそらく、機械語と人間語をうまく混ぜ合わせた)を作り、育てる環境を作る

第四段階:科学者:Big data やThick data(深いインサイト)を使って、世の中に新たなモデルの仮説を作る

第五段階:ビジョナリー:いろんなツールを使って会社のビジョンを作っていく

BIOTOPEは、第三段階が3割、第四段階が4割、第五段階が3割くらいの仕事のバランスなイメージ。


・誰も取り残さない社会を作るためのデザイン、Inclusive design

一人一人に徹底的にカスタマイズされたテクノロジーがAIを基盤に成立することで、今まで「忘れられていた人たち」への機会の提供を行うというビジョンが出されている。これは、日本でも多様性を包含するAI戦略という方針が出されているものとほぼ同期した内容。

特に、単なる"Empower"ではなく、"Invest, Pay,,,"など一歩踏み込んだ社会的に回る仕組みを作ることと、身の回りに眠るかもしれないアンバランスに意識を向けよ、というのは、象徴的なメッセージかなと思った。こういう心理的なものを扱うメッセージは今までのDesign in Techレポートではなかったように思う。違和感や、感情を扱う必要性がある時代だし、それは最近描いた「直感と論理をつなぐ思考ーVISION DRIVEN」の主題でもある。

・矛盾の相克

これらを実装する上で、現場でおそらく悩むであろういくつかの矛盾。

Defense と Offenseのバランス

Hand CraftとSpeed Craftのバランス

UsefulとCoolのバランス。

これらの一見矛盾したものに思えるものをうまくブレークスルーできたら良いものが作れるということなんだろうね。

しかし、こういう社会のバランスは矛盾を乗り越えるような思考って、欧米人よりも日本人が絶対に得意な性質のものだと思う。東洋思想をベースにこのような社会実装のための方法論をちゃんと確立・発信できたら世界にもインパクトがあるものになるのではないかと思った。

いつもながら、美味しかったです。今年もTakramが日本語訳してくれるのかな?楽しみ。


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