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笹岡秀旭と弁当少年団


笹岡秀旭が所在なさげに立ち尽くしている。

PRODUCE 101 JAPAN SEASON 2 第3話での出来事である。

60人をチーム分けして6人のグループが10個。順位第1位である木村柾哉くんのチームのみが最初から6人全員を選ぶことができ、残りのチームはくじ引きで選ばれた1人が残り4人までを指名することができる。最終的に10組50人までは無事にチームに収まり、残る10人は「逆指名」と呼ばれるシステムで自分の入りたいチームに立候補をする。

なんて過酷なんだ、と思った。これをエンタメと呼ぶにはあまりにも乱暴すぎる。何より残された10人の気持ちを慮ると、彼ら本人はもちろんのこと、応援しているファンや家族もさぞ辛い思いをするだろうと胸が締め付けられる思いだった。

逆指名システムが発表された時、皆が若者らしく歓声を上げる中で、私の推しである笹岡秀旭は司会の方向と残った10人を代わる代わる見て不安げな顔をしている。既に選ばれた側にいたにも関わらず。

この顔は以前にも見たことがあった。

第2話の放送で、Fクラスのメンバーは課題曲「LET ME FLY」でステージ上に上がることが許されないと発表された時である。笹岡は自身がCクラスであるにも関わらず、当事者のように苦しみに満ちた視線を彷徨わせていた。その表情のあまりの切実さに、単独でカメラで抜かれたほどだった。

自分が生き残るには少しでも上位のグループに立候補した方がいい。国プからの注目度はもちろんのこと、スキルの高いメンバーの中で練習をすることは何よりのベネフィットになるはずである。
だから皆何度も何度もトライする。1人しか選ばれないのだから、何度トライしても選ばれず残る子が必ずいる。

残った10人のうちの1人、村松健太くんのようにその状況を逆手にとって笑いに変える胆力がある子もいるだろう。己の実力と周りの評価を知り、発奮する子もいるはずだ。それでも、10代後半から20代の、ようやく自分というものが確立され周りとの親密さを得て人生をつくりあげていく発展途中の子ばかりだ。同じ世代の中、自らがこれと思う人を次々と選ぶ立場の子がいる一方で、誰にも選ばれず、選んだ人々に拒絶されるという経験が人生にどれだけの陰を落とすのだろうと思うとこのコーナーの残酷さにやりきれない思いでいた。笹岡もひょっとすると、そんな気持ちでいたのかもしれないと思った。

9巡目のチーム

1巡目、2巡目あたりまでは番組も時間を割いてメンバー選びを放送していた。その後はもうダイジェストだ。それから先述の逆指名。番組的には盛り上がるポイントだったのかこれも前半は丁寧に追っていたが、最後の方の組はこれまた早送りである。

だから私は自分の推しがどういう経緯で誰から選ばれたのか、残りのメンバーが誰なのかが最初はほとんどわからなかった。次に笹岡が出てきたのは、曲を決める玉入れゲームで優勝したシーンである。ここで笹岡が9番目のチームに属し、そのメンバーの選択権があったのが安江律久くんであったことを知る。

玉入れに勝って喜んでいる6人を見て思ったことは「なんだか皆ずいぶん人の良さそうなチームだなあ」ということである。安江くん、井筒裕太くん、内田正紀くん、篠ヶ谷歩夢くん、三佐々川天輝くん。安江くんが「I NEED U」のプラカードを手に取る前に逡巡するふりをして場を沸かせていた時も、笹岡が安江くんとジェスチャーで会話し、後方の4人はさも楽しげに見守っている。

BTSの「I NEED U」は全員一致で自分たちのカラーを活かせる曲だと思ったと言う。自分たちが現在持つ力量を正しく捉え、自己主張による諍いというものに無縁な6人に思えた。のちに未公開シーンとして曲選びの様子を知ることができたのだが、お目当ての曲を引き当てる権利を1番に得ることができて皆太陽のようにニッコニコとカメラに収まっている。まるでこのチームでデビューが決まって嬉しいです、とでも言わんばかりの眩しい笑顔で。

僕たちは余り物だから

大方の予想通り、年長者のリーダー内田くん、センター安江くんも特に揉めることなくすんなり決まっていく。選ばれた方はその役目を任されたことに感謝し、メンバー同士で称え合う。メンバーの年齢は井筒くんの17歳から内田くんの23歳までだが、一貫して穏やかで実に平和な様子である。平和に決まりすぎたせいか、いささか分量には欠けてしまったが、それも1班らしさだろうか。他のグループのリーダーセンターの選抜光景を経て、あっという間に「I NEED U」1班2班がステージ上に上がっている。

「ひい!ふう!みい!弁当!どうも僕たち、弁当少年団でーす!」

リーダー内田くんの声かけでチームでの挨拶が行われる。6人の声もタイミングも合っており気持ちの良い挨拶である。センター安江くんが名付けたこの「弁当少年団」というネーミングが、放送が終わった後も長く国プの中で愛されるとは本人たちも予想していたであろうか。ここでその命名者である安江くんが言うのである。

「僕たちは9巡目に選ばれた人たち、いわば余り物なんですけど」と。

ここからは練習風景を切り取ったビハインドムービーである。そこでこのnoteの冒頭の、終盤まで誰からも選ばれず、なすすべもなく佇む笹岡の様子が映し出される。その時の心情をインタビューで答える笹岡はなんとも所在なげな表情である。「個人的には正直、4、5番目くらいまでには呼ばれるんじゃないかと思っていました」。その後の内田くん、井筒くんも、同じように笑顔でいながらも、その日感じた辛さや焦りを吐露している。

ああ、と崩れ落ちそうな気分になった。後ろから何かで殴られたような衝撃だった。誰だって、自分の推しがこんな風に寂しく微笑む姿は見たくないのである。推しにはいつも笑顔でいて欲しいし、勝つか負けるかならば勝つ側に属して欲しいのが本心である。

ただし、これは私が歳を重ねたせいかもしれないが、この指名システムの残酷さを見た後では、大手を振って選ぶ側、勝つ側に属しているのが素晴らしいことなのかと問われると、答えに窮してしまう。笹岡がもし早めに選ばれる、または早い段階での選択者となっていたら、もしかしたら笹岡への眼差しは少し異なったものになっていたのかもしれない。

この3人の後にコメントをした安江くんの言葉は、同じ「選ばれなかった者の心情」にしては随分と様子が異なっていた。

「悔しい気持ちもあったんですけど、それ以上に選ばなかった人たちの顔をずっと覚えています。絶対その人たちに勝ちたいなって思っていて」

聞きようによっては恨みがましく聞こえてしまうところだが、安江くんのキャラクターも相まって、あくまでも淡々と事実を捉え現実に向き合っているようなポジティブさを感じるコメントである。そしてこの安江くんの芯の強さが、その後のメンバー選びに大きく寄与したことは想像に固くない。安江くんは自分に選択権が移った時に、戦略的に「勝つための」メンバー選びをしたことになる。

弁当少年団のメンバーの中で唯一、選ばれなかったことをいち早く自覚し、意識的にあの場で消化し切ったのが安江くんだ。そしてその強さが、他者の傷を自分の痛みとして引き受けてしまう素養を持つ笹岡を、そして同じ選ばれなかった者たちの集まりである弁当少年団を力強く導く道標となったのだと思う。

心の中に射す光

INUの相手チームの2班はダンスのスキルもリーダーシップも兼ね備えた福田翔也くんを中心とし、メインラッパーは中野海帆くん、ボーカルには許豊凡くん、仲村冬馬くんと実力者揃いである。1班はラップ、ダンスのレッスン中にはことごとく自分たちと相手チームの力量を指摘され、チームの未来に暗い影を落としていた。

しかしながら、ここで彼らの前向きさひたむきさ、仲間への思いやりが個々人でクローズアップされる。私が印象的だったのは井筒くんである。若干17歳、未経験ながらラップを志望し、初めのレッスンではその技術の未熟さを三佐々川くんと共にラップ講師のKEN THE 390さんに指摘される(このケンザ先生のレクチャーも穏やかでまたいい)。その時井筒くんはコクコクコクコクと秒でうなずいて真っ直ぐケンザ先生の目を見ている。わずか数秒のシーンだが、井筒くんの素直さ真面目さが伝わるシーンだ。

練習風景で隣のチームは福田くんを筆頭に早くも振り入れが完了しダンスのタイミングを合わせるという練習に入っている。弁当少年団たちはカウントすらとれずに練習が思うように進まない。数少ないダンスの経験者である井筒くんは、その状況を自分が引っ張らなければいけないのだと責任を感じている。そこで笹岡が井筒くんに「いいんだ、いいんだ」と声をかける。第2話に引き続き、今回も笹岡メンタルクリニックは健在である。

笹岡のみならず、リーダー内田くんも「俺がリーダーっていう役目を背負っているから、単純にダンスを引っ張って、ダンスを教えるってことだけ考えて」と井筒くんの気持ちの負担を和らげる。翌日から井筒くんは人が変わったようにダンスのカウントを取っている。わずか17歳でのこの変貌ぶり、胆力に心底驚き、感動した。

このようなシーンが随所で見られることが1班のビハインドの特徴的な光景である。強烈なスキルやリーダーシップを持つ者はいないものの、少しでも他者より秀でている部分があれば、惜しみなく伝え、言葉で励まし、支え合っていく。技術の足りないものは素直にアドバイスを受け入れ、練習に練習を積み重ねていく。

私の推し笹岡は常にフォローに回る側で、自身の苦悩は冒頭の選ばれなかった心情の吐露以外は一切描かれていない。恐らく、自分に足りないものは一貫して自分の練習量でカバーし続けたのであろうと思う。KENZO先生のダンスレッスンでは、メンバー間で振りのばらつきを指摘される中、ダンス経験者の井筒くん篠ヶ谷くんと同レベルで振り入れが完了している様子が見て取れた。実力の不足している部分はある程度の水準まで仕上げてからメンバーの気持ちのフォローに周るというのが笹岡のチームへの貢献の仕方なのだろう。

ダンス、歌とどの部門においても大きく外しがない笹岡はチームにとって常に中庸の立場だ。そんな笹岡も恐らく不安に苛まれる日は続いたはずだ。何と言ってもこの時点で笹岡に知らされている自身の順位は39位なのである。次の順位発表式では41位以下は脱落だ。不安に思わないはずがない。周りをフォローし続ける笹岡のメンタルは一体誰がケアしたのだろうかと思うが、チームのメンバーに誰1人として安泰な順位を持つものはいない中、リーダー内田くん、センター安江くんの年長者がチームを支え鼓舞する姿、井筒くん三佐々川くん篠ヶ谷くんが自分の殻を破り日々生まれ変わる姿を見ることそのものが、笹岡の大きな心の支えになったのではないだろうか。

そんな中、チームに一筋の光が差し込む。
笹岡が最も大切にしている歌である。

青山テルマ先生のレッスンで、1班はテルマ先生から歌を絶賛される。歌の上手さに定評のある内田くん、笹岡を筆頭に、レッスンとは思えないほど美しいハーモニーが続くのである。歌への努力についてはあまりクローズアップされていなかったが、その後2班と比較すると歌のパート割が随分と異なっていることから、1フレーズ、1フレーズを大切に、適切にパートを割り振ったことが予想される。何より6人の声の相性がいい。チームメンバーの選択権のあった安江くんが、恐らく戦略的に取りに行った笹岡、篠ヶ谷くん、内田くん、井筒くんと、逆指名で入った三佐々川くん。それぞれが元々持つ柔らかさ明るさ優しさ、それでいて憂いや切なさを含んだ声質がマッチしたのである。

笹岡「勝てるビジョンがなんとなく見えてきた気がしました。一つでも勝っている部分があるっていうのが、心に光というか希望をくれていると思うので、自分たちの色を出せるように頑張れば勝てるんじゃないかと思っています」

安江「めっちゃ良い舞台やなと思っています。ドラマを作る準備は始まったって思っています」

いよいよ舞台が幕を開ける中、笹岡と安江くんのモノローグが、2人の持つ困難や課題に対する捉え方の違いを際立たせる。穏やかさと激しさ。この両輪で、弁当少年団はチームとして完成に近づき、文字通り伝説のステージの幕開けとなるのである。

伝説のステージへ 

パフォーマンスが始まる前、1班はスクラムを組んでいる。一般的なスクラムとは異なり、全員が互いの手をしっかりと繋いでいる。この一瞬の光景だけで、どれほどの努力とチームワークでこの舞台に臨んでいるかが窺い知れ、彼らのこの一曲に込める気持ちが伝わってくる。

歌い出しは内田くんである。「Fall」の響きが深く切ない。続く三佐々川くんの思い出を懐かしみ呟くような「Everything」笹岡の「離れてく」もクリアで美しい。そこに井筒くんのラップが飛び込む。17歳らしからぬ堂々とした視線、力強いラップ。冒頭で一瞬手を伸ばし腰を浮かせるのだが、その動きの鋭さと相まって刹那的な雰囲気に満ち満ちている。そして安江くんの「君見るたび辛くて」と続く。この時の振りが安江くんの歌詞への独自の解釈が反映されていると話題になった。その後篠ヶ谷くんの虚ろな目と退廃的な「Everthing」が続き、井筒くんの力強く切り裂くような「いなくなれhuh!」、全員での「I hate you!」の畳みかけでボルテージは最高潮に達する。

......サビまででもうここまでの情報量である。この調子で進んでいたら歌詞の全てを追いかけてしまい、一万字でも足りなくなる。懸念していたラップは、冒頭の井筒くんに続き中間のメインラッパー三佐々川くんがまさに自らの殻を打ち破るべく舞台の前面に飛び出してきた瞬間に「自分に打ち勝ったのだな」と感じた。一途に人を想う少年のナイーブさと葛藤が伝わるラップである。その後の篠ヶ谷くんとの「また朝まで」のリフレインも印象深い。篠ヶ谷くんの沼の底のような視線がじっとりと絡みつく。

ダンスも非常に良く合っている。安江くんの言葉を借りるなら「圧倒的な練習量」を重ねたことが伝わってきた。中でも1番目を引いたのがやはり井筒くんのダンスだった。とにかく全ての動きがシャープでクリアである。とはいえ井筒くんのそのクリアなダンスも、その技術が悪目立ちをするようなことがない。伸びやかで綺麗なダンスはお手本としてもふさわしい。この技術があるからこそ、ダンス初心者のメンバーが井筒くんのリーダーシップに身を委ねたのだと思う。結果的に弁当少年団のダンスは個々の技術が突出して光ると言うよりは、チームとして見た時に調和が取れて美しいものとなっていた。

このステージの全編を通じて統一感を持たせているのが、メイン笹岡サブ内田くん篠ヶ谷くんのボーカルラインとサブラッパー安江くんの歌声の美しさである。

特にCメロでの内田くんのドラマティックな歌唱は、この美しい晴れやかな舞台と、今にも落ちそうな沼の淵に立つ自らの境遇との抗えない対比の苦しさにも重なって、観る側により深い印象をもたらした。続くラスサビの高音の畳み掛け、最後の笹岡の美しいフェイクが、視聴者の心に淡く残像を結び、そして儚く光り消えていくのである。

彼らが唯一の光と信じて追い求めた歌声が、文字通りこのステージを支える屋台骨となっている。声質の合うメンバーを戦略的に集めた安江くんの采配が、ここにきて答え合わせのようにカチッと音を立ててはまったようだった。

弁当少年団と「花樣年華」

1班のステージが終了し2班の「I NEED U」が披露される。1班とはまた違い、こちらは若さゆえのヒリつきや焦燥感、葛藤がより伝わるような力強いステージだった。どちらかというとより個人のスキルが伝わりやすい布陣になっていたと感じた。

そして運命の投票結果。181対187で、2班の勝ちである。弁当少年団は相手チームに僅か6票差で負けてしまったのである。チームメンバーの元の順位やクラスを考えると、これはかなりの大接戦である。勝てばチーム全員に3000票のベネフィットが入るこの勝負、順位的により切実に勝利を欲していたのはおそらく弁当少年団の方であっただろう。

控室で泣き濡れる彼らだが、やはりここでも安江くんはどこまでもポジティブである。さすが圧倒的ビジョン型センター安江。

「途中で諦めて放り投げてしまったり折れずにここまで頑張ってきたから追い詰めたと思うし、あと3日あったら勝てたかもしれないし、そういうまだまだ自分たちが伸びるっていう可能性を発見できたのが僕はめちゃめちゃ嬉しいです」

戦いに敗れ、3000票のベネフィットを逃した彼らであるが、観客の心には過去に放送した3話の中でも最大の印象を植えつけた。「弁当少年団」というチーム名のキャッチーさと共に、彼らが9巡目に選ばれた残り物のチームであること、僅か6票差で敗れ去ったということが、彼らの持つストーリーに大きな心理的効果をもたらしたように思う。放送終了後1週間を迎える今になっても、人々は何かに導かれるように彼らのパフォーマンス動画に集い、再生回数は伸び続け、コメント欄には日々そのステージを愛おしく懐かしむ声で溢れている。

BTSの「I NEED U」には「花樣年華」という壮大なコンセプトがあると言う。人生で最も素晴らしい瞬間、という意味であるらしい。

誰にでも人生で素晴らしい瞬間がある。そしてその一瞬がもう二度と戻れないものであることを、私たちは知っている。弁当少年団のパフォーマンスに、彼らの置かれた境遇に、人は皆自分の輝かしい瞬間を重ね合わせている。そして彼らのこのパフォーマンスだけは、儚く消え去ることなく永遠に残り続けて欲しいと願い、何度も何度も彼らに想いを馳せるのである。

「I NEED U」は笹岡の人生の輝かしい瞬間の一つである。そしてその瞬間を、この心優しき弁当少年団という仲間たちと共に迎えられたことを本当に誇らしく思う。少年から青年に変わる美しく儚いこの瞬間を、私たちに共有してくれたことに感謝する。

願わくば笹岡の人生に、弁当少年団たちの人生に、この先も輝かしい瞬間が何度も訪れますように。






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