恋愛茶屋 3月2日午後3時

そのお店は、山深く水のきれいな川のそば、けれど東京都内にある。国道沿いにあるけれど、行くにはどこからも遠い場所にある。

ー店長さん、スイーツはこれしかないんですか。
ーそのオレンジパイだけになります。あと今日はカレーがあります。
ーカレーじゃ違います。。。オレンジパイのセットください。
カウンターに座る看護師のカヤノは大きくため息をついた。

ー「好きな子ができたから別れてほしい」って、もう冗談じゃないですよ。やっとの休みで久しぶりに会えたのに別れ話ですよ。聞きたくない別れたくないって言って、部屋から飛び出てきちゃいました。
ー2年もつきあってきたのに、何なのもう、訳わからないですよ。どうすればいいんだろう、もう。
そこまで一気に話してから、カヤノはお冷を空けた。

オレンジパイとストレートティーを出した後しばらくしてから、口を開いたのは店主だった。
ーお付き合いはふたりでするものですから、ひとりができないと言うなら、致し方ないのではないでしょうか。
ーそんな正論聞きたいんじゃないんです。ここは来ると復縁できるって噂のお店なんでしょう。
今度はそんなことに。。。店主もため息をつきたくなった。

ーその方はどんなタイプの方ですか。
ーわからないですよ。今日聞かされたばかりだし。
ーそれなら、彼に訊いてみてはいかがですか。
ーええ?
ー男性のナイト魂に火を点けるような女性、彼が「ほっとけない」とか「彼女には俺が必要」とか仰っていたら、難しいかと思われます。
ー。。。

先ほどの慌ただしい様子は治まって、カヤノは静かにオレンジパイを食べ始めた。ストレートティーを飲み終えると、
ー言ってました。。。「彼女には俺が必要なんだ」って。。。
ー「お前はひとりでも大丈夫だけど」って。。。そんな訳ないじゃないですか。。。
そう言い終えると、カヤノはポロポロと涙をこぼした。

温かいおしぼりの用意をしながら、
ーただの喫茶店なんだけどなあ。。。
と口に出さずにつぶやく店主だった。

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うみかめ

恋愛茶屋

小説です。
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