#母吹 を全部書いたって話

2022/10/01、所沢ミューズアークホールで開催された『Mother's day Wind Orchestra Concert!!』、アレンジャーやっておりました。

公式Twitterから拝借


書いたコンサートの感想ってまとめて書かずにTwitterに垂れ流すことが多いんですけどこの分量(後述します)を一人で書くと思い入れも一味ちがい、まとめておこうかと思った次第です。
お客様の感想はTwitterで #母吹 で検索すると出てきますのでそちらに譲るとして、自分がやってたことと見えてた物事を書いてみようかなと思います。
そんじゃいってみよう。


前日譚

ある日オーダーが来た

2021年の9月くらいだったと思うんですけど「吹奏楽でMotherの演奏会やりたいんですけど編曲お願いできませんか?」と主宰のみのるんから連絡いただきまして、やると即答した記憶があります。
そもそもMother2はリアルタイムでこってりやったので、いよいよこのチャンスがきたぜというふうで、詳細を聞く前にやるって言ったかもしれん(曖昧な記憶
その後詳細を伺うと「Motherシリーズを1~3すべてやる。コンサート1本まるごと1人で書け」という話で、こいつぁ大変なことになったなぁと思ったものです。

一人で書くメリット・デメリット

当然一長一短です。
デメリットを先に挙げます。

■デメリット
1.マンパワーが1人分しかない
当然っちゃ当然です。が、いろいろなところに利いてくるキツい制約です。
これはどうにもならないので受け入れるしかないです。

2.不測の事態にめちゃくちゃ弱い。
書き手になにかあったら作業が止まるしかないわけですからね。

3.全体が似たようなサウンドになりがち
長時間公演では聴衆を飽きさせやすい、致命的なデメリットです。
が、アレンジャーの腕次第でなんとかなります(怖

4.ダブルチェックが基本的に不可能
楽譜のミスがめっちゃ増えます。
なんで自分のミスって自分で気づけないんですかねぇ(絶望

こんなところですかね。
これだけ見ると「ちょっと危なくねぇか・・・?」と思われる方もいるでしょう。安心してください、そのとおりです(
多くのプロフェッショナルなアレンジメントが複数人で取り組まれる大きな理由です。”仕事”としてはおっかなすぎますからね。
それでもコレを乗り越えれば得られるメリットがあります。

■メリット
1.圧倒的な統一感
デメリット3.の裏返しなんですが、一人の人間が書いている以上どんな技法を使ってもその人らしさがどこかに残ります。つまり、なにやってもヨシ!(程々にしましょうね
もしアレンジャーが充分な種類の技法を習得していれば、このデメリットは圧倒的な統一感という特大のメリットに化けるというわけです。
通常複数人で書くとアレンジャーが変わるとサウンドの質感が変わってコンサートの流れがデコボコするものなんですが、それがなくなるわけですね。

2.労務管理ができる
複数人のアレンジャーが書くと、いわゆる”シブい”書き方をしてしまうと地味と捉えられることも少なくなく、結果すべてのアレンジャーすべての楽曲が少し厚めにゴージャスめに傾いてしまいます。
そうするとプレイヤーさんたちは音を出している時間が長くなってしまってスタミナを不毛に消費してしまう、比較的音量の小さい楽器たちに不毛な戦いを強いてしまうということがしばしば起きるわけです。
多くの公演がそうである以上多くのプレイヤーさんもそれに慣れているわけですが、せっかく一人で書いているわけですからどこまで楽になるのか(簡単にするとは言ってない)、どこまでサウンドがスッキリするのか、体験してもらえたらいいなぁなどと思った次第です。

そんなかんじでメリット・デメリットを考えつつ、2021年内はなんとなく覚悟を決めておく期間でしたとさ。

年明け、作業開始から納品まで

あけましておめでとうございます。
毎年年末年始は決まりの仕事があるので年明けしばらくしてから作業開始です。
書き始める前に運営と相談して色々決めとかなきゃいけません。

編成を決めよう

なんにしてもコレ。
タイトル的に普通にやったら基本アメリカンポップかアンビエント系でまとまることになるのでギター・ベース・ドラム・シンセサイザーを使うのがまともなアレンジャーの判断なんですけど、なにを血迷ったか「他所様を否定する気持ちは毛頭ないが、どうも最近特殊楽器を使うことが普通になりつつないだろうか。電源はヴィブラフォンのハネのみ、ピアノもギターもベースもつかわない、管楽器には一切持ち替えを指示しない、管楽器は吹奏楽コンクールの課題曲の編成にあるものしか使わない、そういう骨太な編成でよりにもよってMotherシリーズをやる。面白いと思うのだけれど」と運営さんにご提案したところご快諾いただきましてそういう運びになりました。完全なる縛りプレイです。
この時点でどの楽器に何人くらい配置するかもあれこれ相談させてもらいました。といっても「通常どおりにしましょ、ラッパは残機を鑑み最大倍管でもいい」くらいの内容だったと思うけど。
そんなこんなで以下の通りになりました。

Piccolo
Flute 2
Oboe 2
Bassoon 2
E♭ Clarinet
B♭ Clarinet3
Bass Clarinet
Alto Sax2
Tenor Sax
Baritone Sax
Horn4
Trumpet3
Tenor Trombone2
Bass Trombone
Euphonium2
Tuba
Contrabass
Timpani
Drums
Percussion4

メドレーの曲数を確認して締め切りを決めよう

ながはな「リストみたら141曲あるんだが・・・?www」
運営「すいません・・・w」

こんなやりとりがありました。
全曲聞いてチェックするのはあまりにも時間がかかるのでまずはサンプルの再生時間を確認してソレベースでタスク量を推定、19メドレー141曲(後に増えます)を全曲耳コピの上編曲せよということで作業日数を5日/メドレーとして95日、3ヶ月前後で完成させるつもりで組もうかなというとこでした。
通常運転の自分のスキルなら普通にこなせる、実際のところはもう少し巻けるかなとも思っていたのですが、別件の飛び込みもあるでしょうし風邪ひくかもしれませんから、大目に見ておきましょう。
1月中旬からのスタートなので4月中旬くらいに上がるかな、という試算です。
運営さんも「GW前後あたりでいただければ」という感じだったので、なにかあって後ろに倒れても事故にはならないですね。
このあたりを慎重にやればデメリット1.と2.はかなり軽減できますからね。ちゃんとやっとくと未来の自分が喜ぶことでしょう。

作業開始~先行して2曲

演奏会に向けた練習に先んじて「とりあえず音出ししてみようぜ、それから参加するか考えてくれたら嬉しいな」会が3月のアタマにありまして、そこにM1_1、M3_1(1部1曲目、3部1曲目の意/以降これで統一します)を間に合わせてほしいというオーダーだったのでまずこれを制作。
どんなことでもやってみなきゃわからんですからね、この2曲の制作で今の自分の力量やストレス耐性を計りました。
ここまで大きなタスクになると自分自身の消耗をプランに計上しておかないと簡単に瓦解します。その後の立て直しなんてキツいか超キツいかタヒにたいしかないですから、絶対やりたくありません。ここはこの上なく慎重かつ厳格にやらなきゃいけません。自分マジ信用ならん。
前述のプランに無理がないか、どの程度小さいタスクに分割して取り組むのが良いか、そんなところを見るわけですね。
多少の修正はあれど概ね見積もり通りのプランで行けそうだったので、実行することとしました。

もりもり書いていく

基本的に「そのメドレーに必要な曲を耳コピ→メドレーを組み立てる」というルーチンを19回(もう2曲できてるので残り17回)回すだけ、というシンプルなプランでやっていきました。全部耳コピしてから全部書く、は多分心の健康に良くないです。
この辺で耳コピはまだにしても全曲一通り聴いているので全体で3時間弱(休憩とMC込で3時間は余裕で超える)とわかっています。
このあたりで概ねどのあたりでごついtuttiサウンドを配置するかを決める材料が揃っています。
今回は1部の最後と3部の最後の2箇所が特大で、他は大きく聴こえさせても隙間(リズム的音域的問わず)を多めに作りましょうね、と大まかに当たりをつけました。
またこれは個人的な好みの問題ですが、コンサート全体を通して各楽器のポテンシャルを使い切ることも努力目標として設定しています。
それはすべての楽器に繊細な表現を要求するということとほぼ同義で、そのためには音量の小さい場面をかなり多く作る必要があります。
踏まえて全体を想像してみると、一つの声部に複数の楽器を重ねることが常である吹奏楽としてはありえないくらい薄いライティングが今回に限っては適していると判断でき、そのとおりにしました。
余談ですが客席に来てくれていた後輩が「心臓が強くないと吹けない」と漏らす程度には吹奏楽離れした薄いスタイルになってました。

ジャンルの横断

クラシック系は今風のものが多いかと思いきやいきなりガチ古典を引用、ロックはロックンロールからドコスカやるメタル、ジャズもオールドからモダン、サルサやマンボみたいなキューバンミュージック、ブリティッシュ感じる素朴な曲もあればインド~中国的なものやエジプト的なエキゾチックなものまで、それはそれは腕の問われるバラエティの豊かさでした(大変だった~
真面目な話、それぞれに適した和声法対位法楽器法(総称してエクリチュールなどといいます/音楽の分野ではソルフェージュと対を為す概念です)があって、なるべく本物になるようイタコのようにそれらを踏まえた書き方をしてました。
ぶっちゃけこんなことせずいわゆる出版譜みたいな無難でビギナーに優しい書き方をしても良いっちゃ良いんですけど、後悔が残りそうだったのでやりませんでした。
つまりビギナーに優しくない仕上がりです。その分かっこよくなります。
プレイヤーさんたちには付き合って頂いていやはやなんとお礼申し上げるべきか・・・
久しぶりに本領のジャズ系テクニックちゃんと使ったので楽しかったです(小並感

ちょっと意地の悪い書き方も

イタコのような書き方ばかりしていてもこれだけ長いとそれはそれでマンネリ化します。
ので、たとえばM3_2 Venus Liveがそうなんですが「スウィングワルツのくせにジャズで使われる楽器たちが軒並み休んでてダブルリード主体で構築されている」みたいなところをちらほら作って意外性を与えています。
「木五的な音なのにホルンがサックスに差し替わってる(当然普通の木五もどこかでやってる」とか「サックスとバリチューかぶせてファンファーレオルケストみたいになってる」みたいな、楽器法的にマニアックな、ある意味意地の悪い書き方がチラホラ出てきました。
和声法的にマニアックな書法も結構使ったんですけど、アレの説明をしだすとトンデモなく難解になるので割愛します(

とはいえなかなか大変で

上記のような一般的な書法のみで作られた楽曲がお題であれば多くて大変だけどいうてビビるほどではないという量なわけですが、そうでもなくてですね(苦笑
EDM(Electronic Dance Music)とかアンビエントの領域の話になってくるんですけど、LFO(Low Frequency Oscillator)がずっとうねうねしてる曲がちらほらあるんですよ。しかも結構サイケデリックな音してるのもありましてね。
これを表現するためにピッチであればクラリネットやサックスには微分音を書きホルンにはハーフストップの音程変化を補正せずそのまま欲しいと要求し、フィルターであればパーカッションにあの手この手で倍音操作を要求し、楽器の組み合わせを時間変化に合わせて周期的に変化させて、直管金管はミュート芸の嵐、みたいなことをずっとやってました。うーん現代音楽かな・・・(現代音楽です
知らないと書けない、知っててもテクが要る、試されました。

納品

2022/04/17付けでアンコールまで全19メドレー142曲(※いつの間にか増えてます)を納品が完了しました。
1月の中旬からスタートしているので概ね予定通りの進捗です。
案の定途中で別件の飛び込みもあったので、計画通り(画像略)というところですね。
この後ちょっとした修正はあるのですが、99%以上の音符はこの段階のまま客席にお届けすることになりました。
また、運営にはデメリット4.を説明した上で「チェックを手伝って欲しい」とお願いして快諾いただいておりました。心強い。
なによりやはりちゃんと準備すると仕上がりが良い・・・

※増えた曲
まさかのM3_2サターンバレーのテーマがリストから抜けてたんですよ。ぽえ~ん
運営に「えっやるでしょ???」と直談判して増えました
ちなみに抜けてた理由はなにかの事故で、運営的にはやるつもりだったそうです。ヨカッタヨカッタ

リハーサルスタート~本番まで

やるべきこと

・仕掛けがちゃんと動いてるか確認する
・コンダクターやプレイヤーからの細かい質問に答える
・コミュニケーションの機会そのものが貴重なので楽しむ
だいたいこんな感じです。
特に特殊な指示を書いた箇所は要チェックです。
パーカッションにはだいぶ無茶を書いていますからよく相談しなければいけません。
今回はありがたいことに全部機能しました。

特にドラマーとの相談は密に

ドラムの楽譜って省略されてたり書けなかったりする情報が多いので、口頭での正確な指示がモノを言います。
特にPAを用いないコンサートホールでの公演の場合キックやスネアの口径がオーケストラ/バンド全体のボリュームを決めてしまうので、低いボリュームレンジのアレンジを多用した今回は特にしっかりやらなくてはいけません。
今回はラッキーなことに腕のたつドラマーだったので、小口径キックの導入などずいぶんわがままを聞いていただきました。
お陰でアクリル板立てずにすみました。
あれ、シンバルだけ目立つし客席への到達時間は伸びるしで可能であれば避けたかったんです。

もう一曲増える

M3_1.5、天才写真家のシーンです
リハーサルが半分くらい進んで全体の流れが見えたところであの演出を思いついたそうで「あと一曲お願いできますか・・・?」と相談を頂きました。
どう考えても面白いので「まかせとけぇ!!!!」って即答した記憶があります

本番

コンダクターとプレイヤーを信頼して、あとはお祈りタイムです。
祈祷力が試されます。
結末やいかに?Twitterで #母吹 を検索だ!

THE END ?

かくして、のべ143曲20メドレーの特大タスクは無事完遂されるに至りました。
完走した感想ですが、楽しんでもらえてよかったなぁと思います(小並感
普段作ってる合唱作品の方もそうなんですが、作編曲の技法ってこんなに色々あるんやでってのを奏者にもお客様にも面白がっていただくのがコンセプトになっています。
そういう意味でもMotherシリーズは取り組み甲斐のあるタイトルでした。
また、自分の力量を正確に把握するいい機会だったと思いますし、それを事故なく完遂できたことはこれからの自信に繋がります。
とはいえ我々アレンジャーが作るものはコンダクター、プレイヤー、スタッフ皆様の尽力がなければただの紙の束、そしてお客様がなければ芸術としては完成しないので、ここにはとびきり大きな感謝をせねばなりません。

本当はまだまだ書きたいことがたくさんあるんですが、この辺で。
約6432文字、約46ツイート分も書いてしまった。
以上!皆様おつっした!


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