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人定質問は大事という話(成人と偽った少年)

裁判の流れで最初に被告人に人定質問があり『氏名、生年月日、本籍、住所、職業』などが質問されコロナ禍ではマスクを取って顔を見せるケースもあるのが一連の流れとなっているが、これは刑事訴訟規則196条に定められていること。
被告人の情報として傍聴人には大事な儀式のようなものだが、昔~の昭和時代には替え玉を使ったり偽名や年齢を偽り前科を隠し服役する者が結構いた。その中には死刑囚などもいて、「いい加減なもんだな~」と昔の資料を見ていて思ったが、そんな中でもレアなケースを紹介したい。
昭和24年1月に施行された刑事訴訟規則には人定質問に関する条文は見当たらない。上記問題により後に改正されたと思われる。

事件と裁判

昭和23年9月6日、墨田区向島のYさん方に若い三人組の強盗が侵入し留守番していた義母に「金を出せ」と脅し、断られると紐で首を絞めて殺害。衣類や写真機を盗み逃走したが、まもなく近くで帝銀事件を捜査中の刑事に三人とも捕まった。
若者はそれぞれ20~21歳と供述し、強盗殺人の罪で起訴され昭和24年2月24日に懲役15年が言い渡され、検察控訴の同年6月16日に原判決破棄の無期懲役が言い渡され確定し千葉刑務所に収監された。
~のだが、そのうちの一人が後に「実は名前も年齢も嘘でした」とカミングアウトしたからさぁ大変となった。

偽名を使い年齢を偽った少年

確定から15年後の昭和39年4月、法務大臣に恩赦出願があった。出したのは三人のうちの一人の少年Aで「義兄に迷惑がかかるので偽名を使った。当時少年法を知らなかったから成人と偽った」という内容で犯行時は実は17歳4ヶ月で昭和24年1月から施行になった新少年法では無期懲役相当の場合は10~15年の定期刑にしなければならないという決まりがあった。
それを受けて法務省が調査した所、Aの申し立てには間違いがなく出願提出の同年7月に刑期が満了している事になり恩赦が決まり、晴れて一般社会に復帰したというものだった。

以上が無知なゆえに十数年で済む刑罰が無期懲役になってしまったという珍しい話。強盗殺人1でも死刑もありえたし、このような話があるので年齢不詳の斉藤和一のようなケースも判断がつかないので困ったもんだなぁと思った。

引用元
【昭和23年9月7日読売新聞、昭和39年9月22日読売新聞夕刊】

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