能登半島地震とピアノフレーム、ピアノ製造について

初めまして、noteアカウントを作成してみました。佐藤と申します。

私は2022年からピアノ調律に携わる仕事をしてきました。詳しくは言えませんが現在はピアノの開発に携わっています。

今年に入って直ぐ能登半島で大規模な地震が起き、沢山の方が被害に遭われました。自宅が崩壊し今もなお、避難所で生活されている方が多い中で、私にできる事は被災地への少ない募金と自分自身毎日を懸命に生きることしか出来ません。

石川県とピアノフレームの関係

石川県、ピアノといえば、ピアノのフレームを製造している「カワイキャスティング」があると、私の頭をよぎりました。
カワイキャスティングは、石川県羽咋市にある鋳造部品を取り扱う会社です。大きな被害は無かったそうですが、今回の地震によって断水や停電が起こったそうです。
実は私は昨年度、こちらの工場へ見学に行きました。鉄鉱石やコークスが外に分別されて置かれ、溶解炉に鉄鉱石が溶かされ、沢山のフレーム型に入れられていきます。
出来上がったものは割とすぐに(100分ぐらい?)取り出されて、フレームのバリ取りと、NC機械による穴開け、そして最後に下塗りの塗装がされます。

フレームについてどれだけ知っているのか?

ピアノのフレームが実際に製造されているところを見たことがある人はいると思いますが、多くはないと思われます。今回私が言いたいのはこのことです。
私も胸を張って言えるほど詳しくはないのですが、ピアノ調律師はフレームに関して知識が疎い傾向にあると思います。あくまで傾向です。
例えばフレームの素材についてです。一般的にフレームにはFC材(ネズミ鋳鉄)と呼ばれる材を使っているのですが、他社のメーカーによっても、同じメーカーの年代によっても組織配列だったり成分が違います。これによって音の響きが大きく変わります。フレームをNCで加工する際どんな刃を使ってどれぐらいの精度で加工されるかによっても変わります。
この「製造、部品に関して詳しく説明できない」というのはかなり致命的だと私は思っています。
(↑全く人のこと言えないですが、事実です。)

ピアノの作り方を本当に知っているのか?

話が逸れますが私が話したい本題です。そもそも昔を遡ると、チェンバロやフォルテピアノは、今のピアノのように大人数で1つのものを作ったりしません。製作者が図面を引き、素材を自分で選び加工、塗装し、弦を張り部品を取付調整してタッチや音を作っていきます。多くを自分で判断するので、自分が作りたい音をイメージしながら作ることができます。
ヴァイオリンもチェロも同じです。製作者が図面を引き、自分で加工し塗装します。もちろん塗料についても詳しく知っていることでしょう。
しかしピアノはどうでしょうか?大きな工場で大人数で沢山のピアノを作ります。作業が細分化され過ぎて、作業者が担当する仕事はほんの少しの範囲。その仕事を何十台とこなします。従ってピアノの工場の現場作業者に何かピアノの製造過程について質問しても、自分の仕事のことしか答えられないのです。
更に、現地の調律師さんは、そのピアノがどういった工程で誰が作ったのか知りません。つまり皆んなが、誰が何の作業をしたのかを知ることができず、ピアノに何か製造上の欠陥におけるトラブルがあったとしても原因追究出来ないのです。
「良い音を作りたい」「世界一のピアノを作りたい」なんて企業は言ってますが、こんな現状で世界一のピアノが生まれるのでしょうか?ピアノを大量に生産し、その中から上手くできたもの、出来なかったものがランダムに製造されて、その中から半分偶発的に生まれた良いピアノだけを指差しているのは個人的には許せません。なぜかと言うと、ピアノの音作りの文化の継承が出来ないからです。

音作りはバックの制作から始まってる

ピアノは調律師がどれだけ優秀でも、本体(響板や側板などのバック部分)が上手く作られなければ、良い音も出ないし楽器としての機能を果たせません。ハンマーフェルトに針を刺したりアクションを調整したりすることを「音作り」なんて言ってますが、そもそも支柱の組み方やフレーム、響板の厚み、クラウンの大きさなどのバック部分の制作から音作りは始まっているのです。これは楽器作りにおいて当然のことだと思います。
これだけ生産規模が大きくなってしまうと、全てを知っている現場作業者がいずれは居なくなってしまいます。
ピアノの工場見学をしたことのあるお客さんは、工場が若い人が増えて技術継承が出来ている、と思っているかもしれませんが、実際は細分化されたほんの一部の仕事を引き継いでいるに過ぎないのです。

不特定多数の人によって作られたピアノはたくさん

とはいえ、人類は充分すぎるぐらいにピアノを大量に作ってしまいました。ピアノは需要も少なく、かつ人件費がとても掛かってしまいます。沢山作ることによってピアノの生産コストを下げていくしかないので、仕方がないのかもしれません。そもそも会社の維持費の大半がピアノを売った収益だと言うことが異常です。これだけ目の詰まった木を沢山使ったんですから、人類は後々痛い目に合うでしょう。というか合うべきです。調律師や修理工房の方は、「今あるピアノをどうやって良いものにするか」を考えるしかありません。

私がやりたいこと

と、ここまで偉そうに長々と話してきました。社会人なりたての小僧が本当にすみません。私がこのピアノ業界でやりたい事は、「ピアノ作りの技術、文化の継承」です。楽器が沢山作られ、目の詰まったスプルースが多く取れなくなった今、新しく生み出される楽器は、ちゃんとしたコンセプトで考え込まれて作られた、より価値のある楽器であるべきです。ピアノの作り方を全て知っている人が激減した中で、良いものが作れるとは思いません。
私はピアノ作りを1から全て知りたいと思っています。簡単なことではないのは承知です。需要が無いものを作るのにはお金がかかります。
今まで色んな人に「お前にピアノは作れない」「死ぬまでに作れるかね?」などなど馬鹿にされてきました。私は頭が悪く、ピアノを作るのに相応しい人間ではないかもしれませんが、1人で全部作りたいと言う人は、日本国内では少ないと思います。文化を繋ぐ人が少ないからこそ、少しでもやる気のある人間が立ち上がるべきだと思います。

そして、ここに書かれていることを、ピアノ業界の人に言うと、大体は叩かれるか、不思議な顔をされます。そしてピアノ作りにおける技術を教えてくれなくなります。自分の仕事や市場を荒らされなくないからです。しかし、それが若い芽を摘むことになってるのです。本当にこんな陰湿な業界でいいんでしょうか?私はこのままではいけないと思ってます。少しでも技術文化の継承のために私は力を振り絞るので、私に関わる機会が有れば、申し訳ないですが力を貸してください。みなさんが「こいつに力を貸して良かった」と思われるような活動をしていきたいと思っております。
今後ともよろしくお願いします。🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️

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