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秋天

ブランコに乗って、秋の読書をしていると

トンボも一緒に集まってくる

一羽二羽三羽四羽

ズボンや靴に止まるもの

本や上着に止まるもの

僕はさながら読書する止まり木のよう

トンボはトンボ

僕からの祝福を喜んでもくれるかのよう

トンボの、もしいるとすれば、トンボを遣わした霊の

幸いを、幸せを祈る

生ける霊であれ、死せる霊であれ

トンボと共にある幸い祈る

そうこうしているうちに、沢山増えたトンボ

「ごめんね」と云い僕はブランコを漕ぎふりはらう

だって本が読めない

本は宮沢賢治の旧字の詩集

彼と共にある二千二十三年の秋を

トンボと共にある僕の秋を

彼もきっと言祝ぐ、言祝いでくれるだろう

爽やかな祈りと秋晴れの下

トンボも僕を称えて空を見上げ

空も僕らを見る

或いは光り或いは翳り

魂と心の交流

僕らは共に互いを祈り

ブランコと秋空に別れを告げる

左様なら、このひと時よ

孤独に満ちた、この生活を

輝やかに潤すトンボの群よ

君らの羽の輝きは心の中に入ると耿々として冥みを照らす

りを慈しみに変じたトンボ

我らの秋をどうか天に言祝いでおくれ

幾照らす日月遥か巡り給う千年ちとせ早古るトンボと共に

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