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SSIR・バーナード・ハチドリ

SSIR (Stanford Social Innovation Review)の日本版がこの冬に創刊されるのに先立ち、「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー_ベストセレクション10」の論文集が最近出版されています。

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すでに2003年からソーシャルイノベーションの専門メディアとしてスタンフォード大学から出版されているそうで、今回収録の10選は大変なかなか読み応えのあるものです。

「ソーシャルイノベーション」とは何か、「社会価値」とは何か、改めてその定義、考え方が論じられており(論文01「ソーシャルイノベーションの再発見」)頭の整理になりました。

「ソーシャルイノベーション」10例というのもリストアップされていて具体的イメージとそのインパクトの大きさ、影響度の広範囲さ等を再認識することができました。
その10例は以下通り。
①チャータースクール、②コミュニティ中心の計画、③排出権取引、④フェアトレード、⑤生息地保全計画、⑥個人開発口座、⑦国際労働基準、⑧マイクロファイナンス、⑨社会的責任投資、⑩支援つき雇用。(同書P19)

論文07の「社会を動かすカーブカット効果」という論文も印象的。1970年当初、車椅子の移動は簡単ではなかった。カリフォルニア州バークレーのとある歩道の縁石に車椅子で乗り付け、セメントを流し込んで簡単なスロープをつくると夜の闇に消え去る活動をしていたという。

このゲリラ的な行動は障害者の移動環境の向上のための政治活動でもあったようですが、この「カーブカット(段差解消)・スロープ」が徐々に認められた中で予想外のことが起き始めた。ベビーカーを押す親たちやスーツケースを引く出張中のビジネスマン等も利用しだしたという。

マイノリティへの小さなな解決策は全体の利益を損なうものではなく、むしろ、その解決策が社会と経済の両方に思わぬ波及効果を及ぼすことが具体的事例とともに論じられています。

また、論文10では個別の努力を超えて新しい未来を作り出す「コレクティブ・インパクト」という方法論が語られていています。

複雑な問題の解決に向けて、個別の活動をそれぞれ追及するものではなく、あるいは全員が同じ集団的な行動をとるものではなく、お互いの違いを活かしながら、共通の目標に向かって集合的なインパクトを生み出す5つの原則が議論されている。

①共通のアジェンダ
②共通の測定システム
③相互に補強しあう取組み
④継続的なコミュニケーション
⑤活動をサポートするバックボーン組織

これらの要素を読んでいるうちに、いわゆる「組織の3要素」をふと思い出しました。「組織の3要素」とはアメリカの経営学者のチェスター・バーナードが提唱した組織が成立するための3つの条件で、経営学の古典の部類にはいるもの。

組織を「意識的に調整された2人またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム」ととらえ、その成立の条件として具体的には①「共通の目標」があること、②「協働の意欲」があること、③「コミュニケーション」が良いことの3つを挙げており、それらのどれもが組織には一定水準必要とされている。

ただ集まっている烏合の衆では組織とは言い難く、意思を持ってお互いに協調するのが組織ということかと思います。
バーナードの組織論はいろいろと議論はあるようでうが、この3要素はシンプルで組織を有効に、効果的に運営していくための考える要素としては大変意義深いものではないかと感じています。

コレクティブ・インパクトで論じる、ソーシャルイノベーションを起こす集合体は、「セクターを横断する優れた連携」であるとともに、ひとつのバーナードの視点から「大きく・ゆるやかで柔らかい『組織』」と見ることができるのではないかと思いました。

その「組織の3要素」をさらに発展させ、今日的な集合体の運営を行うべく「測定システム」や「バックボーン組織の組成」等を作っているようにも思え、新しい組織・連携法が語らている感じがしました。その意味では、もう古典となってしまったバーナードの組織論というもの参考になるのではと思ったり。

そして、各論文もさることながら、最後の「Insight Talk:日本の『社会の変え方』をどう変えていくか」も面白かったです。

早稲田大教授の入山氏とエール㈱取締役の篠田氏との対談。各論文の内容、論点を分かりやすく解説とともに、SSIRの取り組みがSSIR-Japanとして日本にどう展開していくのか、楽しい対話を通じて色々なヒントが散りばめられている感じがします。

そして最後の章が「ムーブメントは「自分が楽しむこと」から」

「最初のお客さんは自分で、自分が面白くてニヤニヤしちゃうようなことをやろうよ」というメッセージがとても印象出来でした。

なにか、「ソーシャルイノベーション」、「社会価値」などと言うと大上段に構えてマジメに取組むイメージが個人的にはありますが(それも大事かと思いますが)、みんなでちょっとしたことでもいいので面白いことやろうよーと雑談からはじめことかとも思いました。

そう思うと、「ハチドリのひとしずく」に出てくるクリキンディが言う「私は、私のできることをしているだけ」という言葉がまた違った感じの印象を持ち始めました。

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物語は山火事でほかの動物たちが逃げ出す中、ハチドリのクリキンディがくちばしで水のしずくを一滴ずつ火の上に落として行く場面。

シーンとしては山火事の深刻な事態ではありますが、自分でもできることを探してみることの象徴であり、それに置かれた環境は厳しいものがあってもそれを直視し、「みんなで」「楽しく」が加わると加速するのではないかと思いました。

そして逃げ出す動物は決して意気地なしで卑怯でもないのではという本の監修者のあとがき。

大きくて力持ちのクマは、しかし、幼い子グマたちを守るために避難したのかもしれません。脚の速いジャガーは、しかし、うしろ足で火に土をかけることに気がつかなかっただけかもしれません。雨を呼ぶことができる”雨ふり鳥”たちは、しかし、水で火を消せるということを知らなかっただけかもしれません。(同書P20)

そして、この山火事をどうやったら消し止めることができるのか、ハチドリだけではなく、クマやジャガーや雨降り鳥とともに一緒に山火事を消し止めるには、、この南米アンデス地方の先住民に伝わる物語とSSIRはいろいろとつながっているような気がしました。



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