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バーテンダー

久しぶりに一人反省会で、以前にふらっと立ち寄ったバーに向かう。数か月ぶりだなあと思いながら、地下に降りて行き重い扉を開けて中へ。

前回ふらふらと吸い込まれるように入ってしまったお店、なかなか居心地がよかったところ。

サード・プレイスと分人主義について|SatoSato|note

週末とは言え意外とすいていて、前回と同じカウンターの一番奥の席に案内されました。

以前お会いした若手の凛々しい感じのバーテンダーの第一声が、
「ご無沙汰しております。お元気でしたか。以前もこのお席に座られて、ラガヴーリン飲まれましたよね。。」

確かそんな銘柄だったかな、、と、こちらが忘れかけていたくらいなのに、バーテンダーは、さりげなく爽やかな笑顔。数か月前に初めて来たのにちゃんと覚えてもらえているんだなあと、ちょっと嬉しく、そしてバーテンダーのプロ意識の一端を垣間見れたようした。

というこで、またスコッチウィスキーのおすすめを頂く。

アードベック10年 アイラモルトウイスキー
独特のスモーキーさがいい感じ。

他のお客様とのさりげない会話を交わしつつ、たまのお客の顔も覚えていてオーダーに応じて手早くお酒をつくるバーテンダーの所作は、なんか格好いい。

そんなバーテンダーは、どんな意識で仕事をしているのだろうか、、と思って買い求めた本が「バーテンダーの流儀」(城アラキ:集英社新書)

バーにまつわるお話が満載。
バーテンダーの「こだわり」がいろいろと書かれています。

この本の中に、「記憶という仕事」(p120)、「バーテンダーの記憶術」(p121)という章があります。

客にとっての記憶はただ懐かしい思い出だが、サービス業にとって、記憶は仕事の一部だ。例えば、客の名前を覚えることはすべてのサービス業の基本になる。なぜなら、名前は他者と自分を分けることを意味するからだ。名前を呼ばれるだけで、客は少し特別扱いされた気分になる。

(同書p120)

バーテンダーはどうか、一人前のバーテンダーなら1週間に二度以上きたお客様の顔やオーダーは5年先でも覚えていると、色々なバーテンダーに言われた。逆もある。何年か前のオーダーの記憶を見ると、それがどんな人だったかを思い出せる。名刺を出す客や名前を名乗っていればともかく、黙々を飲んで帰る客をどう覚えるのか。

(同書p120)

そういえば、このバーの凛々しいバーテンダーには自分の名前を名乗っていなかったなあと思い、お勧めをもう一杯。

カリラ12年 
こちらもアイラモルトウィスキー
アードベックよりはマイルドな感じ、、?
(だんだん酔いが回り味わいの記憶が定かでなくなってきて。。)

そして、「バーテンダーの記憶術」ではこんな記載が。

バーテンダーの脳も(映画「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクター教授のように頭の中に広大な記憶の宮殿を持っていて、そこから過去の記憶を想起するように)、同じような作業をしているのではあるまいか。
ただし、こちらは空の部屋だ。まず誰もいないカウンターが浮かび、そこに座る客の顔が浮かび、グラスを持つ手が顔に繋がり、会話まで思い出していく。バーテンダーにとって店とカウンターは、自分の体の延長にさえ思えるテリトリーである。ここに座る客は、あるときには異物として印象に残り、ある時は店の風景の一部のように同化したものとして記憶される。

(同署p122)

ということは、凛々しいバーテンダーは(そういえば、お名前聞いていなかった)、ふらりと来た客は、ちょっと見たことあるけど、引っ掛かりがあり、前回と同じ席に座らせて記憶の部屋から引っ張り出そうとしたのだろうか。

「お客様当然覚えていますよ、ちゃんと認識していますよ」と始めにフィードバックをして頂きつつ、一人反省会をしている時(単にぼーっとしている時)は、他のお客様の相手をして遠目で見つつ、ちょうど飲み終わったあたりで、「次何かお飲みになりますか?」と凛々しく、さわやかにいつの間にかカウンター越しの正面で笑顔で立っている。

そりゃ、当然もう一杯。

オクトモア13.1
こちらもアイラモルトウィスキー
アルコール度数59.2%。また別のスモーキーさがいい感じ

最後の1杯は美味しいもののアルコール度数高めのお酒で酔いが回り、結局、自分の名前を名乗らずにバーテンダーと軽くお話してお店を後にしました。バーテンダーのお名前のお聞きすることなく。
お互い、そんな関係の中で新しいお酒を飲み、産地の話を聞きつつ、味わいの感想を話す。

それも楽しの夜でした。



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