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シングルズウィークエンド

(2018年11月に投稿した記事)
半年に一回、私はベルギー、ワロン地方(フランス語圏)アルデンヌの小さな村にやってくる。この田園地帯の農園ホステルを借り切って、友達のペトラが開催するシングルズウィークエンドのお手伝い要員(クルー)として。シングルズウィークエンドとは、文字通りシングルの男女が集まり、ハイキングやマウンテンバイクといったアクティビティをして、金曜から日曜日の2泊3日の週末をすごすイベントだ。ペトラが数年前に副業で始めた。近所に住むペトラは私の数少ないベルギー人の友達で、TOMEETO /トメート (シングルズウィークエンドのイベント名)で日本食のワークショップをやってくれないかと頼まれたのがきっかけだった。料理は好きだけど人に教えるような経験がなかった私だが、面白そうと引き受けた。ハイキング、マウンテンバイクのレギュラーなプログラムに加えて日本食のワークショップはなかなか人気があり、以来5年以上がたつ。私にとっては、仕事とも子どもとも関係ないベルギー人に会う貴重な機会となっている。

今回の日本食ワークショップは3回。巻きずし、揚げ出し豆腐とだし巻き卵、いなり寿司と味噌汁というのが今回私の計画しているメニューだ。かつてはもう少しややこしいメニューもやってみたが、ここに来る人は真剣に料理の腕を上げようとは思っているのではなく、楽しむのが目的なので趣を変えた。日本のテイストが楽しめて、ハウスパーティーで自分で作ってみようと思えるもの、プレゼンテーションがきれいで簡単なメニューに落ち着いた。

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参加者の料理の技術も日本食の知識もさまざまである。「SUSHIが大好き」でそれ以外は何も知らないし食べたこともない、が最大公約数だ。ベルギーも他国に負けずSUSHIが大人気でレストランが数年で急増した。船盛用の大きな船に刺身ではなく様々に工夫を凝らした巻き寿司や握りを盛り合わせてみんなでワイワイ食べるというのがすごくウケている。TEPPANYAKIをショーとして見せる店も人気があるようだ。家庭では、たいていの人は米を炊いたことがない。家では袋のままゆでるだけのバスマティ米を使えばいい方だ。プロが使うような包丁を持参する人がいる一方で、ほとんど料理をしない人もいる。一番びっくりしたのは、生卵をボールに割るようにお願いしたら、卵がボールから飛び出た。彼女が気を取り直してもう一つ卵を割ったらそれも飛び出てしまった。もしや卵割ったことなかった?どうやったらボールの外に卵を落とせるのか絶句してもいられないので、気のいい講師は彼女を傷つけないように「この卵生きてるのかな」なんて言いながら無駄になった卵をさっと片づける。

クルーは主にペトラの友達たち。アクティビティの講師の他に荷物や飲み物類の搬入・搬出、食事の食器の準備や片付け、朝ごはんの準備、コーヒー、掃除はぜーんぶクルーでこなす。夜になればバーテンダーやDJとなり、カクテルを作りながら、自分もしたたかに飲む。場を盛り上げるためにダンスフロア―で率先して踊ったりもする。金曜日は有給を取って、週末をまるっと費やし、月曜日はへとへとだ。経費プラス心ばかりの謝礼をもらうだけのほぼボランティアだがどうしてここまでやるのかと言えば、ひとえにペトラがやっているから。彼女の人柄がクルーを引き付ける。

TOMEETOは交際相手を見つけたり、カップルを誕生させることを主目的としていない。時にはTOMEETOをきっかけに付き合い始める人もいるようだが、それは個人の自由で、あくまでも週末をグループで楽しく過ごすのが目的。ペトラ自身、突然の離婚を経験してシングルになり、つらい時期を経てシングルズウィークエンドの企画を思いついた。当時、彼女は特許系の第三セクターで手堅い仕事をしておりTOMEETOはサイドビジネスだった。今では本職を辞め、起業してTOMEETOが彼女のライフワークとなった。アルデンヌ地方のウイークエンドの他、イタリアのスキーウィーク、オランダのヨットウィークエンド、ピレニー地方ハイキング、リスボン旅行、シングルペアレンツ夏休み農場ステイなど企画は広がり、忙しい日々を送っている。
TOMEETOの参加者の半分以上は離婚経験者で子どもがいる人も多い。これを書きながら、調べたら小国ベルギーは離婚率世界一だと知った。実に69%のカップルが離婚するという。この分だとペトラのTOMETTOは今後も発展を続けるだろう。現在のペトラのマーケティングはほぼ100%がフラマン地方(オランダ語圏)のベルギー人30代から50代だが、私はTOMEETOの市場はもっと拡大する可能性を秘めてると思う。TOMEETO 60歳プラス、エクスパット(国外駐在者向け英語版)、同性愛者編、複数愛主義者対象なんてどうかと、私は勝手気ままに何の責任もなくペトラに提案している。

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