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世界最高齢プログラマー若宮正子さん(86歳)に聞く「人生100年時代の子育て②ITとのつきあい方、子どもとの向き合い方

Hanakoママwebリニューアルにともない、私が取材・執筆した記事を、関係者の許諾を得て、こちらに転載しています。

2021.11.13by 岡本 聡子

1935年生まれの若宮正子さん。58歳でパソコンを購入。自宅でお母さまの介護を行うにあたり、外部とのつながりが薄くなるのではと危惧し、本格的にパソコンを使い始めました。面白さにのめりこみ、ついに81歳でiPhoneアプリを開発。シニアにパソコンを教えながら、エクセルと手芸を組み合わせた「エクセルアート」を考案し、それをプリントした生地でドレスを作り、天皇皇后主催の園遊会にも出席しました。
米アップル社CEOに「最高齢プログラマー」と称賛され、国連で英語スピーチを行うなど80歳を過ぎてからの活躍には目を見張るものがあります。
今回は、ママ達からの質問にお答えいただきます。

第1回「AI・変化に負けない子育て」はこちら

【若宮さんに聞きたい! ITとのつきあい方】

――情報化社会を生き抜くために、こころがけることは?
まずは、主体性を持つことです。特に情報の管理。自分の情報を管理するのは自分自身です。日本人は、個人情報をとにかく隠したがるけど、隠すだけでは意味がないです。使うべきときに使ってこそ。

例えば、健康・体質・病歴・治療歴・投薬歴などは、積極的に使うべき情報です。いざという時、自分を救うのは自分。プライベートな情報を有効利用するために、お母さん方も主体的にね、そしてお子さんにもどうすれば良いかを教えてあげてください。

――子どものプログラミング教育は、どのように考えればよいのでしょうか?
早いうちからプログラミングを習うお子さんもいらっしゃるようだけど、あんまり意味ないんじゃないかしら?  もちろん、コンセプトを理解するのはいいと思いますよ。というのは、やりたいこと、作りたいものがあればこそのプログラミングだから。教養としてのプログラミングは、不要です。

プログラミング言語やプロセス自体が簡単になってきていますし、技術変化も早いので、その時に必要なことをやってみれば十分だと思います。プログラミングのフローチャート(設計図)が作れたら、誰かにコーディングしてもらえばいいんですから。

――スマホやゲームの扱いで悩む保護者も多いです。子育てにおける、デジタルとアナログのバランスは?
時と場合に応じてですね。自分は歌が下手だから、ちゃんとした音程で子守唄を聴かせたいとYouTubeをお使いになる方もいるけど、下手でもお母さんの声がいい時もあるんだから、組み合わせたらいいわよね。

電車の中で泣いているお子さんをスマホアプリでなだめるのも、良いアイディアだと思います。

要は、アナログ・デジタル両方知っている、両方を使い分けられるということです。ゲームだって、飽きるまでやらせてみるのも一案。

そんなにゲームが好きなら、『毎日必ず3時間ゲームすること、お母さんも毎日1時間すること、その日のゲームの内容をお母さんに全部話すこと』ってやってみるとか?漫画ばかり読むお子さんにこれを試した方がいましたが、1週間でお子さんはギブアップしたそうです。

勉強が遅れる?数週間の遅れなんて、本気になれば追い付けますから大丈夫。学校イコール人生ではありません。学校が生活のすべてだという子は、学校に居づらくなると弱いです。将棋やゲームでもいいです、何か自分の世界をひとつ持っていると、学校でつらいことがあっても、折り合いをつけて切り抜けられるのではないでしょうか?

【若宮さんに聞きたい! 子どもとの向き合い方】

――子どもの好奇心を引き出すコツは?
お子さんの話をなさるけど、お母さん方も好奇心をもちましょうよ。ね? 自分のやりたいことをみつけて、面白がっているお母さんをみたら、子どもだってワクワクします。『一緒にやってみよう』ってなりますよね。

子どもはお母さんの背中を見ていると思いますよ。親の柔軟性が、子どもの好奇心を引き出します。やりたいことが、きっとみつかるはずです。

――でも、失敗が怖くて一歩が踏み出せないという人も多いようです。どんな一言をかけますか?
とにかくなんでもやってみること。やってみて、思うような結果が出なくても、それは挫折や失敗ではありません。確実に進んだのですから。世の中やってみて悪かった、やらなければよかったという事柄はめったに存在しませんよ。

例えば、バイオリンのコンクールで2位になったとしましょう。よくやったね、と手放しで努力をほめてあげるか、どうして1位じゃないの?  と責めるか。ご両親のとらえ方次第です。そして、自分で考えて決めることに、親子共にもっと慣れましょうよ。

お子さんを含め、各人まったく違う価値観のもとで決定し、行動することをもう少し尊重してあげたらどうかしら?

――若宮さんが81歳でiPhone向けアプリ「hinadan」を開発された時、「よくそれだけの勇気を持って、決断できましたね」と周囲に言われたそうですが、実際にかなり悩まれましたか?
いえいえ。何かに取り組むとき、勇気と決断なんて、本当はいらないんですよ。やりたい気持ちだけでOK。それにね、私がプログラミングしたところで誰も死なないし、狭いアパートでくさや(干物)を焼いてご近所に迷惑かけるようなことでもないし、嫌になればやめればいいわけでしょう?
やめたって、やってみたこと自体が進歩だから、挫折にもならないし。ね、挫折なんてないんです、世の中には。

――一方、せっかく新しいことに取り組んでも、すぐやめたがる子どももいます。親はどんな態度で接したらよいでしょうか?
お子さんが習い事をやめたがる? やめてもいいじゃないですか、一度経験したってことが大切です。後から、もう一度やる時にすんなりなじめられます。コロナ禍で、音楽を再開する大人が増えたといいます。これは昔やってみて、やめたからこそ。いろいろやってみて、どんなことでもいいので、自信のあることをひとつ身につけて世の中へ出ると心強いんじゃないかしら?

若宮さん「超ポジティブに生きてますよ(笑)」

――今日も笑顔が絶えませんが、もしかして、若宮さんは幼い頃から楽観主義なのでしょうか?
そうです、ずっと超ポジティブですよ、私(笑)。でもね、戦争中は自分の人生や意志など存在しないし、親にもあまりかまってもらえませんでした。学校教育だって、軍事教練などに充てられてしまいました。毎日、死や恐怖と隣り合わせでしたが、その経験により、生き抜く知恵や全力で生きる強さを身につけられました。

とにかくどんどん経験してみると、自然とポジティブになるんじゃないかしら。生きていくって楽しい、やりたいことがたくさんある、って思えるようになりますよ。

取材・文:岡本聡子

1回目記事はこちら

若宮正子さんの現在:

東京都生まれ。デジタルクリエーター、ICTエバンジェリストとして活躍。シニア向け交流サイト「メロウ倶楽部」副会長。NPO法人ブロードバンドスクール協会理事。熱中小学校教諭。デジタル庁「デジタル社会構想会議」構成員。著書多数。

岡本 聡子ライター・経営学修士・防災士

戦略系経営コンサルティング会社を経て、上海にMBA(経営学修士)留学。その経験をもとに『中国のビジネスリーダーの価値観を探る』(『上海のMBAで出会った中国の若きエリートたちの素顔』を加筆・改題)を株式会社アルクより出版。幼稚園児の母。分析・事業開発支援、NPO運営なども行う。 facebook.com/okamotosatokochina

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