生姜焼き定食ひとつ、練りからしつけてください

玉川学園駅近くで仕事があり、午前中のお昼のご飯を探していると良い定食屋を見つけた。ここで食事を済ませる。

古いビルの二階にある、ベタな例えだが孤独のグルメごっこをしたくなるお店。階段の蹴上の模様のはげ具合が、それだけ人の通った形跡として古さを物語っている。店内に上がって渋いタープと渋い階段で出迎えられたわりに、とてもきれいな店内。

ランチタイムは主にカツ定食が4種、カレー、生姜焼き定食のみで選びやすい。

その中でも640円という魅力的な数字が刺さり、最も安い生姜焼き定食・並にする。


あとで見たが、外にとんかつ屋と書いてあった。この店やけにトンカツ推しだなと思ったけれど、そりゃ当たり前。


テーブルに間も無く生姜焼き定食が置かれた。

小皿に漬物などが盛られているでもない、簡素な生姜焼き。

私はそこであまり目にしないものが添えられているの見つけた。

ねりからしである。

はて、このような食べ方はひとまず親に教わったことはない。

日本人にはおなじみの調味料なはずなのに、生姜焼きの隣に置くものとしては未知の調味料であった。



しかし百聞は一見に如かず。

恐る恐るからしをのせて食べてみた。なかなかいい。

ごめん、嘘ついた。

めちゃくちゃいい。


生姜の味も前半にちゃんとしながら、締めに辛みでとてつもなく最果てへ私を引きずり出すような。その最果てがとても心地よい。

醤油と生姜の味付けに対して同じ和風の調味料だから、調和が取れるのだろうか?

困ったなあ、手が止まらない。これほどのものが現代にあろうか。

気づいた頃にはお皿は空っぽで、間も無くお昼が終わり、仕事に戻った。ほんとに「ペロリ」。

そのあとは午後もまあまあヘビーな仕事内容だったがルンルンで終わらせた。うまかったからしんどいのなど気にならない。



それからというもの、すっかり最果てに引きずり込まれてしまったのか、定食屋では「生姜焼き定食・カラシ付き」と頼むようになってしまった。もう帰ってこられない気がする。

時々、かなり年季の入った定食屋で働くお母ちゃんにすら「からしっていうのは、マスタード?ふつうの練りからしってこと?」とわざわざ聞かれることもあるほどに、縁がないと食べることもそうそうないツウのレシピを見つけてしまったのかもしれない、と勝手に盛り上がり今日も私はどこかの定食屋で言っているだろう。

「生姜焼き定食ひとつ、練りからしつけてください」



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