こっちからみた「赤ずきん」

これは昔々のお話。

「たまげたねぇ!俺は自分の目を疑ったよ」

少々おお振りな動きを交えて彼は語る。

彼の後ろには大きめの暖炉。
見るからに新しく建て直した家の中には、昔から使っていたであろう古い木製のテーブルと料理の皿。
これでもかと壁に掛けられた写真には彼と"彼の獲った獲物"が飾られている。

「アンタもほどほどにしといておくれよ」
「うるせぇ!テメぇは黙ってろ!」
彼の奥方は、どうしようも無いねと軽く手振りをすると奥の部屋へ入っていった。

「すまねぇ。アイツは何にも分かってねぇんだ」

そう言うと彼はグラスに入った酒を一息に飲み干した。

「…で、どこまで話した?」

彼は興奮を抑えるように、記憶を辿るように改めて語り始めた。

「いいか?四本足の獲物が二本足で歩く姿、その驚きが分かるか?」

彼は山の中を、その日の夕食になりそうな獲物を探しながら、あわよくば町で売れる毛皮の獲れる獲物に出会えれば、などと考えながら木々の中を潜り抜けて歩いていた。

「俺は長年この山で猟師をやってるがガキの頃、しばらく港町で暮らしてた事があってな。その時、東洋から来た船乗りに聞いたんだ。数百年生きた獣は人間と同じように話すってな…」

そこまで言うとグラスに酒を注ぎ、また一気に飲んだ。

「俺は奴を追って…あぁ、もちろん風下から気配を消しながらだぜ。俺は一流の猟師だからな」
言いながらニヤリと笑う彼。

「すると、どうだ?いきなり奴は草むらから人間の服を取り出して着始めたじゃねぇか!慣れた様子で服を着てるのを見て思わず声が出そうになっちまったよ。でも、本当に驚いたのは、そこから先だ…」

自分の話す言葉に怯えるように彼は前屈みになると酒臭い息を静かに吐きながら

「いいか?驚くなよ…不意に小さな女の子が木の隙間からいきなり現れたんだ!俺は今度こそ声が出そうになった。奴は普通にその女の子に声を掛けて会話しやがったんだぞ?」

彼の興奮がこちらに伝わってくる。

「もちろん助けてやりたかったがアレは俺の知ってる獣じゃねぇ。それに奴は女の子と話すと草むらの中に消えたんだ!」

一息つくと、またグラスに酒を注ぎ、次は、ゆっくりと呑み干した。
すると彼の背後から
「まだ喋ってんのかい?!いい加減にしなよ!」
「うるせぇ!此処からが良いんだ!」
「あぁ、そうかい!」
そう吐き捨てると食器を奥方は無言で片付け始めた。

「…馬鹿野郎が。すまんね、アイツは何にも分かってねぇんだ」

奥方が食器を持ち奥に消えると
「さて、ここからよ。話しの本番は…」

そう言うとあたりをキョロキョロと見回し
「俺は探したんだ。何って?奴だよ、二本足で立つ化け物だ。何処に居たと思う?」

そう聞く彼に当然、知ってる事柄を伝えた。

「そう!一人暮らしの婆さんの家にいやがったんだよ!…だがなぁ、俺が見つけた時にはもう半分以上は奴が飲み込んでやがった…そらぁ恐ろしかったぜ」

遂に彼はグラスではなく瓶ごと酒を呑み始めた。

「そこからは有名だろ?小さな女の子も丸呑みしやがって…で、俺は思わず銃をぶっ放して奴の頭にバーンと一発よ。まぁ…色々話しが…」

そこから彼は延々と有名になり、取材を受け、町で英雄扱いされた事を話し続けた。

既に出来上がった酔っ払いに最後にどうして気付かれずに撃てたかを聴くと
彼は
「あぁ?んなもん、狼が婆さんの眼鏡してりゃ目は効かねぇし、腹は婆さんと子供でいっぱいで動けねぇんだ。楽勝だったぜ…要は俺にはツキがあったってことよ…」

そう言うと彼は、そのまま椅子に凭れ掛かり静かに寝息をたて始めた。

私も静かに席を立って立ち去ろうとすると彼の奥方が姿を現し
「…はい。帰る前に」
スッと右手を差し出してくる
握手かと思いこちらも手を出すと
「冗談かい?ほら、払うもん払って帰りな」
そう言うと奥方はニヤリと笑った。

彼の家を後にし、これなら小さな新聞社の自分が取材しなくても、そこらの絵本を読めば良かったとしっかり身に刻まされたとさ。

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こっちからみたお話シリーズ

昔話や童謡をこっち?そっち?からの視点で書いた物語
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