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1/100を作ろう


10年くらい前から、若い人たちにいつも伝えていることがあります。

それは「 1/100(100分の1)をいくつか作るといいよ 」ということ。

ほとんど同じようなことを藤原和博さんも言っていて(たぶんボクと同じころに言い出されたと思う)、その後それを受けてキンコンの西野亮廣さんも言及し話題になりました。

ボクはこの考え方をとても大事にして生きてきたんです。

特にこの「変化の激しい時代」においては、「1/100を作ること」は重要だと思います。必須のアプローチだとすら思っています。

いまより変化の少なかった昭和時代とか平成時代初期とかなら、別にそんなアプローチをしなくても良かったと思うんですね。

よく言われるような「与えられた場所で一流になりなさい」でいいし、「置かれた場所で咲きなさい」でいい。

いや、これらの言葉を糧に生きている方には申し訳ないです。
別にそういう生き方を否定したいわけではなくて。

ただ、今はあまりに変化が激しすぎて、「与えられた場所」も「置かれた場所」も、その場所自体がなくなってしまう可能性がありますよね。

というか、たった10年前くらいからツイッターとかフェイスブックとか普及し始めたわけだし、グーグル・ジャパンやアマゾン・ジャパンも、出来てまだ20年程度だし。

つまり、たった10年20年で世界はガラリと変わったわけで。

「ある分野で一流になる」とか「ある領域でトップになる」とか「ある企業のNo.1になる」とか、ちょっとリスクがあると思うんですよね。こういう変化が激しい時代においては。

「ある分野で一流になる」とかって、たとえば1万人の中の1番になる(=1/10000になる)みたいな考え方なんだけど、それは、「今現在」にはそぐわないのではないかな、と思うのです。


ボクの話をちょっとだけすると。

ボクは、最初、電通という広告会社に入りました。
で、クリエイティブ局に配属されて、いきなり「自分は超凡庸だ」と痛いほど思い知ったわけです。

広告クリエイティブの世界で一流になるとかスターになるとか、ほとんど無理ゲーだぞ、と実感したんです。

じゃ、どうするか。。。

その答えなんか全くわからず、暗中模索しつつ頑張っていたんですね。

で、頑張っているうちに、「一流」とか「スター」は無理かもしれないけど、「そこそこ」にはなった。

テレビ広告とかグラフィック広告とかではイマイチだったけど、コミュニケーション・デザインという、平たく言えば「伝えたい人に伝えるためのゼロからのコミュニケーション構築」みたいなプランニングはわりと得意になった。

つまり、後付けで考えると、業界トップとか電通でトップとかには到底なれないけど(1/10000にはなれないけど)、100人の中での1番くらいにはなれたんですね。

そう、ボクの場合、広告で1万人に1人の存在になるのは、難しいと思った。
でも100人に1人にはなれた


そして、ここからが重要なんだけど、ボクはそのころまだ出始めだったインターネットでの個人サイトを、当時としては先駆けでやっていたんですね。

まだ日本に個人サイト(当時の言い方だと個人ホームページ)が100くらいしかないころ。1995年のインターネット創生期。

そんな頃、www.さとなお.com (当時の名前は「さとなおの極私的おいしいページ」)を始めていたんです。

まだインターネット自体が「村」みたいな頃です。
テーマを食と書評に絞って毎日発信しつづけることで、わりとすぐに人気サイトになりました。

電通でも、個人サイトをやっている人は皆無だったし、広告業界を見渡しても、ほぼいないに等しかった。ネットはとてもマイナーな分野だったのです。そんな頃だったこともあり、ネット業界では、当時、ボクは余裕で1/100だったと思います。

そうすると、急に仕事が来だすわけです。
なんでかって言うと、

1/100(広告) × 1/100(ネット) = 1/10000


だからです。

広告がそこそこできて、ネットがそこそこできる人材は、1995年当時いなかったんですね(いまではもちろんたくさんいますよ)。

つまり、急に1万人にひとりの存在になったのです。


その後、ボクは「食」の世界でも1/100になりました。

個人サイトでレストランレビューを(当時)2000軒くらいアップしていたし、「ジバラン」という自腹覆面レストランガイドもネット上で主宰していました。
また、「うまひゃひゃさぬきうどん」とか「沖縄やぎ地獄」とか、食の本も次々と出していきました。

食の世界には、いろいろなプレイヤーがいます。
それでも、たぶん、当時ボクは、食で100人に1人くらいな存在にはなっていたと思います。

そうなると、こうなるわけです。

1/100(広告) × 1/100(ネット) × 1/100(食) = 1/1000000


つまり、100万人にひとりの存在です。

広告がそこそこできて、ネットが得意で、食にも相当くわしい、という人材は日本に100万人にひとりくらいしかいないわけです(当時ですよ)。

そうなると、会社でも仕事が指名でどんどん来ます。
食品メーカーからも、IT企業からも指名で来ます。
そして、ネット業界の有名人や、食分野の有名人などから、個人的にお誘いがバンバン来るようになりました。

社外の人脈が一気に広がったのがこの頃ですね。
いまでもつきあっている社外の友人は、この時期に知り合った方がとても多いです。
そして、会社に所属しながら二足のわらじ的・個人商店的に、会社外でいろんなプロジェクトが始まったのも、このおかげです。

そのあと、ソーシャルメディアが出てきます。

ソーシャルメディアが出てきた当時、先行者有利もあって、ボクは一気に7万人くらいのフォロワーを得て(ツイッターですが)、ソーシャルメディアの世界でも、なんとか100人に1人くらいな存在にはなったと思います(当時)。

そうなるとですね、こうなります。

1/100(広告) × 1/100(ネット) × 1/100(食)× 1/100(SNS) = 1/100000000


1億分の1ですね。
計算上は、日本でひとりの存在。

広告がそこそこできて、ネットにくわしくて、SNSでフォロワー多くて、食やレストランにも相当くわしい、という存在が日本に(当時!)他にいなかったわけです。

くりかえしますが、当時の話です。2008年とか2009年とかのころですよ(いまではプレイヤーが増えたので無理でしょう)。

当然、仕事もばんばん来ました。
自分の得意分野の仕事ばかり来ました。

そうして「自分の得意分野の仕事」をこなしているうちに、もともとの「広告」分野が、いつの間にか100人に1人から、1000人の1人くらいに化けていきました(だって得意な仕事をばんばんこなすわけだから目立つよね)。

いい循環が起こりだしたわけです。


で。

象徴的な出来事として言うんですが、1億分の1以上になったらいきなり首相から声がかかりました。

広告ができて、ネットにくわしくて、SNSのフォロワー多くて、おいしい店もよく知っている人? へー、ちょっとご飯でもたべたいね、と。

リアルな話です。
そして当時全盛だった鳩山首相と居酒屋に行くわけですが、それはまた別のお話。そのうちまたnoteに書きたいと思います。


すいません、自分のことがやけに長くなりました。

つまり、イイタイコトは何かというと、100分の1をいくつか持ってみるといいよ、ということです。

この変化が激しい時代、自分が得意な分野や専門分野でがんばるのもありではあるけど、その分野は消滅したりピボットしたり、いろいろ変化していってしまう。

それよりも、「そこそこ」を複数もつ。
1/1000とか1/10000を目指して同じ領域で何十年もがんばるのではなく、1/100を複数もつことを目指してみる。

そういう生き方、わりといいよ、ということです。


100人って、高校で言えばだいたい2クラス分くらい。

その中で1番になるのは、数学でなるのは大変、英語でなるのも大変。
でも、たとえば自分が得意なサッカーとか卓球とか、自分が得意なイラストとか楽器とか、いや、もっと特殊なところを狙って手芸とかけん玉とかなら、いけるのではないか。

そういう分野を探して(もちろんある程度好きな分野じゃないと続かないけど)、1/100になるくらいちゃんとやってみる。

そうすると、人生が意外な方向に転がって、一気に広がったりしますよ、ということです。


ボクの周りでも、たとえば、WEBプロデューサーをしていて(1/100)、その後「落語を1/100にしよう」と決めて、1年で千席以上聴きに行った人がいますが(あっという間に1/100になりました)、もうそれだけで、「ウェブの仕事のプロで、かつ落語にとてもくわしい1/10000な存在」なわけです。

すぐ落語界隈で評判になって、落語家さんたちの仕事を受けたりなんだりと人生が変わっていっています。(その人はラテン音楽プレイヤーでも1/100くらいなので、もう日本でも超ユニークな存在になっています)

「カレーを1/100にしよう」とか「餃子の1/100になろう」とか、毎日食べ続けて1000日くらいになる友人もいますが、いまではそっちが仕事みたいになって、超楽しそうな人生を送っていたりします(うらやましいくらい)。

そういう「好きは好きだけど、そんなことでいいの?」って思うようなことでも全然いいと思います。

ちょっとしたことを突き詰めて、とりあえず1/100になるまでやってみる。

そうすると、自分の現在の仕事分野とかとかけ算が起こって、人生が展開し始めます。
それは、同じ領域で何十年も粘って1万人にひとりになるより、ずっと楽しいし、リスクも少ないよ、ということです。


ちなみに、1/100を目指すと、人と比べることが少なくなります

「自分は100分の1には入ってるだろう」くらいのところで勝負しているのでわりと満足するし、1/100×1/100という「違う分野のかけ算」で勝負しているので、すぐユニークな存在になります。Only One的な。

なので、人と比べて自分を評価する、ということが少なくなりますね。
まぁ余談ですが。


ボクはその後、「災害支援」とか「花火師」とか、いくつか「1/100」を持ちました。「読書」「オーディオ」とか「ジャズ」とかもまぁ1/100に近い時期があったと思うけど、とりあえずわりと「1/100」を持っています(100人に1人くらいなのでそんなにハードル高くないのです)。

あ、「アニサキス・アレルギー」という成人食物アレルギーも、ある意味「1/100」かもしれないなw
突然もらった持病みたいなものなんだけど、でも、それもボクの特徴ですね。そして、この持病の希少性を考えると、これだけですでに「1/10000」くらいかもしれない。

そうなると、たとえば、広告ができて、ネットやSNSにくわしくて、食にもくわしくて、成人食物アレルギーがある、というだけで「日本にひとり」な存在なので、アレルギー業界(?)から声がかかったりするわけです(リアルな話)。


ちなみに、このアレルギーをきっかけに「1000日チャレンジ」というのを始めましたが、それも、ボクの中では「1/100」を増やすやり方です。

「アート」とか「ランニング」とかを1/100として自分に取り入れて、また化学反応を起こしたいと思っています。(ぬか漬けで1/100になってどうするの?って思う人がいるかもだけど、こういうのが意外な展開を生むのです)


みなさんも、いかがでしょう?

英会話とか料理とかの「すでに得意な人がたくさんいる分野」を選んだら、1/100になるのはなかなか厳しいですよ。

そうじゃなくて、まだ人がそんなにやっていないことの中で、「自分が好き」で「続きそうなこと」。

それをしばし考えて、明日からたった1年間でもいいから本気で取り組んでみる。

そうすると、「100人に1人」にきっとなれます。

そして、人生のかけ算が起こって、Only Oneに近づきます。

そう考えると、楽しくないですか?


ひとつのものを追求するスペシャリスト・タイプではなく、広くて浅いジェネラリスト・タイプの人ほど、このアプローチはオススメです。

人生は意外と長いので、1/100を意識してひとつずつゆっくり増やしていくと、後半生とても楽しいし、思ってもいない自分になれたりします。

そして、1/100を多くもてばもつほど、「広くて浅いのに、Only One」という不思議な存在になれたりもします。


そういう人生が楽しいのは、人体実験済み。

あなたも、是非、ごいっしょに。



ちなみに、藤原和博さんとかキンコン西野さんとかも同じようなことを語られていますが、ボクもだいぶ古くからこのことを言っていまして、別にパクったわけではないのであしからず。まぁでも以前からある考え方なのだと思います。

ちなみのちなみに、この後に「1/100の作り方について」という記事も書きました。
良かったら参考にしてみてください。


古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。