愛についての思想

「交配する野生動物達の放つ、あの愛こそが、生命の語れる真実の愛そのものの姿だと、常から私は思っている。それが、アダムとイブが楽園を去ってから、我々人類に長らく欠けている愛の本質だ。
まるで、大きな過ちだよ。」
いつだったか、遠くを見据えて教授はそう語った。
二十歳目前にして、未練も成熟した恋も、純情も口外できないような恋愛も、秩序も混沌とした性も体験してきた私には、教授の理想とするその愛への見解は到底理解できなかった。
男も女も性別もなく交わってきた私は、動物の交尾する姿は種の保存を目的としたただの生殖行動にしか思えない。寧ろ進化を経ていく度に野生の本能を失い、自分達を大きな一繋がりの動物種の末端だと忘れかけている人間の方が、人類の存亡を無視して好き勝手に生きている分生命の愛の本質を剥き出している気さえした。
そんな思考を持った人間が、あの時傍らで何食わぬ顔をしてあなたの思想の吐露を純朴そうに肯定していたことも、日々あなたが教壇に立つ姿を脳の裏側でうっとりと観察して講義を受けていることも、きっと今でも教授は何も知らない。考えたことだってないだろう。
本当の私は、教授の目指す愛の世界の対岸にすら居られない、儚い死者だ。
十年も前に若くして亡くなった奥さんを今でも一途に想い続ける教授に向かって、「人間の性行為こそが愛の本質では。」とは、あの日、私は口が裂けても反論出来なかった。そして、教授の愛についての認識からは破綻した回路を持った私が、「あなたを心から愛している」とは、これから先、死んでも言葉に出来ないのだ。
私のこの不毛な愛こそが「人間の最たる純粋性なのだ」と、黒板を叩く教授の幻が諭している気がした。

ありがとう(*Ü*)ﻌﻌﻌ♥

旧)メオ

ばらんばら。

断片的小説やショートショート類の完成品集。
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