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【おもしろいの正体:25】おもしろい人は自分をおもしろいとは思っていない。

右脳と左脳

仕事で行うクリエイティブの場合、
人に評価されることで初めて
おもしろいが完結します。

そこがアートとの違い。
芸術は感覚で全てが成り立っている、
よく言われる右脳の働きですね。

一方で、
計算して組み上げるのは大切ですが
左脳だけで作ったものはつまらない。

右脳でつかんだ空気を
左脳で組み立てて右脳で
感覚的に表現する。

というすごく複雑な作業が必要です。
そこがおもしろいところだったりするんですが
バランスがむずかしいな~と思います。

この理屈と感情の両立みたいなのが
おもしろさの本質だと思います。

僕らはともすれば
感覚だけで走ろうとするし、
ビジネスでは理屈だけで
押し切ろうとすることが多い。
最近特に多い…。

今の時代ってもう一度その両立を
考えるべき時期なのかもしれない、
と思います。

計算と天然

と、ここまでが表向き。
教科書に書いてあるような話です。

しかし結局のところ、どこまで行っても
計算は天然には敵わない。
必ずその壁にぶち当たります。

以下は僕の経験談です。

小学生の頃、妙に小器用なタイプだった。
それなりに賢かったんだと思う。
与えられた課題とか、
その場の状況なんかを上手に見極めて、
それなりの選択をし、それなりの行動を取る。

学級会で「いいことを言う」のが得意だった。
みんながああでもない、こうでもない、
と議論している時、
あ、ここだな。というタイミングでひとこと言う。
それで話がまとまる。それが快感だった。
いつもそのタイミングを測っていた。

タイミングは光って見えた。
それはまるでランプが点くみたいだった。
格闘ゲームで敵の弱点がわかるような感覚だ。
そのランプが光ると突っ込まずにはいられない。
先生に「あなたは人が一番言われたくないことを
言う」と叱られた。

読書感想文が得意だった。
大概は本を読まずに書いた。
正確には、巻末の解説だけ読んで、
自分なりにアレンジして作文にした。
それなりに評価されて賞ももらった。佳作だった。

初夏の頃、写生大会があった。
遠足を兼ねて、近くの山に行った。
風景画は簡単である。
うまく見えるためにはコツがあるのだ。
まずは遠近感。
近くにあるものと遠くにあるものを共存させる。
例えば手前に大きな木があって、
その枝越しに風景が見える構図。

次は色だ。
下手なやつは色を使えない。
木の幹は茶色に塗るし、葉っぱは緑に塗る。
しかし、よく見ると
葉っぱの緑色の中にもいろんな色がある。
緑という色は幅が広いのだ。
青っぽい緑、黄色っぽい緑、
茶色っぽい緑だってある。

それを塗り分ける。
実際に見えているよりも多くの色を使う。
絵が緻密に、複雑に見える。

サラサラと描きあげてしまい、時間が余ったので、
画板を持ったまま、
描いているクラスメイトの絵を覗きながら
その辺をうろつく。
こいつもたいしたことない。そう思って安心する。

そんな中、茶畑(ちゃばた)君の後ろ姿が見えた。
クラスの中でも地味なタイプの子だ。
彼は一人地面にあぐらをかいて、
画板に向かっていた。
目の前には古びた山門。その先にはお寺がある。
彼はその門を描いているようだ。

これはまた地味なものを、と後ろから近づき、
何とはなしに覗き込む。
そこにあったのは画用紙から溢れてる、
すごい迫力の山門だった。

ど正面。遠近感などどこにもない。
工夫もない。
しかしただただ大きくこちらに迫ってくる。
色は赤みがかった茶色。
元の朱色から経過した時間が
重さになって伝わってくる。
そしてその中に、
僕の得意な緑色は、どこにも使われていなかった。

僕は声をかけることもできずに、
その絵を見つめていた。
しばらくして振り返った茶畑くんが
「今日は暑いなあ」と言った。

出典:Tokyo Copywriters' Street

おもしろい人ってどんな人。

結局、左脳が小賢しく作り上げるものは、
天然の強さには敵わない。

茶畑君は人に伝えるための工夫は一切なしで
それでも人の気持ちを動かしたわけで、
本当におもしろいものは、何もしなくても
伝わるし、機能するってことです。

第一回で、親戚のおじさんの
素朴なスピーチの話をしましたが、
感動させようとしなくてもするものにはするし、
それは技術を超えた力を持っている。

似た例で、
「不器用な父親の手紙」というのもあるね。

おもしろいは日常のどこにでも隠れているし、
それらはいきなり目の前にあらわれる。

そんな無自覚なものがいちばん強い
僕らはそんな強敵に負けないものを
意識的に作んなきゃいけないので、
そりゃまあ大変なわけです。

そこが楽しいわけでもあります。

ということで初回の話に戻って
図らずも伏線回収みたいになったので、
このシリーズも一区切り、
ってことにしたいと思います。

おもしろさを作るテクニックみたいなことも
別の機会でお話しできたらなと思っています。
ありがとうございました♪

次からどうするかな…。

いつも「おもしろい」を探してるクリエイターへ



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