見出し画像

私たちは消費税を負担していないかもしれないという話

前回、消費税は直接税かそれとも間接税かということについて考えました。

直接税とは税金を負担する人(担税者)と納税手続きをする人(納税者)が一致している税金のことで、所得税、法人税、相続税、固定資産税などが該当します。

間接税とは担税者と納税者が一致していない税金のことで、消費税、酒税、たばこ税、揮発油税(ガソリン税)、入湯税、ゴルフ場利用税などがあります。担税者から税金相当のお金を預かった納税者が納税手続きをしているということです。

消費税は間接税であると説明されることが多いのですが、消費税法の条文を読む限り、国内取引で発生する消費税は事業者が負担する直接税であると解釈できます。でも、多くの人は

実質的に消費者が負担しているんだから、間接税でしょ!

と思っているはずです。
今日はそのあたりのことを説明します。

日本人は毎日、消費税のことを考える

私はよくタリーズコーヒーに行くのですが、いつも店員さんに同じ質問をされます。

「店内でお過ごしですか?」

コーヒーの代金に軽減税率を適用してもよいのかを確認するために必ず聞かれるのです。店内でコーヒーを飲むなら8%の軽減税率が適用されますが、テイクアウトの場合は10%が適用されます。

また、仕事帰りに立ち寄ったコンビニで買い物をする時には、なるべくお釣りがキリの良い金額になるように支払いをします。多くの人は1円玉を使って「1の位(くらい)」を合わせます。例えば、

支払いが704円の場合に1004円出して、お釣りが300円

みたいな感じです。私の場合はさらに進んでいて、1円玉が財布の中にない場合も諦めずに、10の位や100の位を合わせに行きます。例えばこんな感じです。

支払いが704円の時に、810円を出してお釣りが106円
支払いが345円の時に、555円を出してお釣りが210円

と言った感じです。受け取るお釣りの硬貨の枚数だけではなく、自分が出す硬貨の枚数にも着目して、最終的に財布の中の硬貨が最も少なくなる支払い方法を考えて、支払うのです。どういうことかというと、

345円の代金に505円を支払うとお釣りは160円で、硬貨は3枚です。ここであえて555円払うことでお釣りは210円になります。同じく硬貨3枚ですが、50円玉が財布から消えるので、その分、より財布の中がよりスッキリします

たまに計算間違いで、ジャラジャラとたくさんお釣りを受け取ることがあります。・・・めっちゃ恥ずかしいです 笑。
そんな面倒なことしないでPayPayとか使えよ!って思いますよね 笑

レジで計算力を高めましょう

そんなわけで、私たちは毎日毎日、消費税のこと意識しながら生活をしています。それはなぜかと言えば、

レシートに消費税の金額が記載されているから

です。1100円支払ったら、消費税は100円と書いてあるので私たちは100円が消費税なんだと信じ込んでいます。

・・・ということは、消費税は100円ではないということでしょうか?
少し奥の深い話なので、順を追って理解していきましょう。

商売の仕組み、価格が決まるプロセス

消費者に商品を売っているお店を想像して下さい。コンビニエンスストアやスーパー、家電量販店、ユニクロ、スターバックス、何でも結構です。以下の説明において、いったん消費税のことを忘れて下さい。純粋に商売の原理について考えてみましょう。

彼らは消費者に対して販売する商品を用意するために、仕入れを行っています。原材料費や運送費などを支払うことでやっと商品をお店に陳列することができるのです。そして、売上の金額から仕入れの金額を差し引くことで、

粗利益(=売上-仕入)

が生まれます。これが商売を続けていくための原資になります。
この段階でいきなり赤字だったら商売を続けることはできません。

商売をやっている人は粗利益をなるべく大きくしたいと考えます。そのためには方法が2つあって

  • 売上金額を大きくする

  • 仕入金額を小さくする

という2つの方法があります。当たり前のことですね。

まず、売上について考えてみましょう。売上の金額を上げるためにはどうしたらいいでしょうか。これにも方法が2つあって、

  • なるべく高い値段で売る

  • なるべく多くの個数を売る

という2つの方法があります。では、売上金額を上げようと考えて値段を高く設定するとどのようなことが起きるでしょうか?

(ケース1)
あなたは1個1万円の商品を100個仕入れました。仕入金額は100万円ですね。それを1個2万円で販売して100個全部売れた場合の粗利益は、

2万円/個×100個-100万円=100万円

となります。

(ケース2)
同じく1個1万円で100個の商品を仕入れました。あなたは粗利益を上げたいと思い、1個4万円で売ることにしました。すると100個仕入れたうち40個しか売れませんでした

4万円/個×40個-100万円=60万円

1個1万円で売った時よりも粗利益は下がってしまいました。

(ケース3)
次に、価格を1個3万円にします。すると、80個売れました。粗利益は、

3万円/個×80個-100万円=140万円

やった!1個2万円で売ったときよりも粗利益が上がりました

この事例からどのようなことが分かるでしょうか。

あなたにはいくらで売るかを決定する権利があります。でも、あまり高値で売ろうとしても、買ってくれる人が減ってしまい、結果的に粗利益が下がってしまうこともあるわけです。

かといって、あまり弱気な値段に設定しても利益を上げることはできない。つまり、

粗利益を最大にするための最適な価格がある

ということが分かると思います。価格を最大にするのではなく、売上個数を最大にするのでもない。

「価格×実際に売れる個数」を最大化する

ということです。下の図で表現される色を付けた部分の面積を最大化するために価格を設定するのです。

価格×個数の面積を最大化するゲームです

最適な価格は様々な要因で決まります。

  • 商品の競争力

  • 需要と供給のバランス

といったもので決まるのです。具体例で言うと、

味に自信があれば多少値段が高くてもラーメンは売れます。
でも、ラーメン店が密集している地域では、少し値段を下げたほうがたくさん売れて、粗利益が高くなるはずです。

また、仕入れの値段にも同じような競争原理、需給の原理が働いています。例えば、

例1.トヨタ自動車のような大手企業は、自動車の部品を納入する下請業者に競争をさせてコストを安くすることができます。

例2.日向坂46をCMに起用したい企業はたくさんあります。1業種1社しかCMには出られないという暗黙のルールもあるので、企業間の競争になり、CM単価は高くなります。

というわけで、ビジネスとは売上から仕入を引いた粗利益を最大化するというゲームだと言えます。

粗利益を稼ぐための涙ぐましい努力

自社の競争力が高ければ強気の価格で売ることもできますし、仕入先に対して値下げを要求することで粗利益を上げることができるでしょう。

でも、多くの企業はそこまで高い競争力はないので、売上を維持するために買ってもらいやすい価格に抑えますし、仕入先との関係を維持するためにも強く値下げの要求をしたりはしません。

しかし、企業には少しでも粗利益を上げないと困るという事情があります。粗利益としてかき集めた現金(預金)から

  • 社員の給料

  • オフィスが入居しているビルの賃料

  • 銀行から借りたお金の返済

  • 電気代

  • 税金

  • 配当金

こういったすべての支払いを行っていく必要があるからです。
では、企業は粗利益を少しでも上げるためにどのような工夫をしているでしょうか?

(その1)消費税還元セール

よくある手口(笑)として、消費税分をおまけします、という価格の見せ方があります。それで消費者にお得感を感じてもらい、買ってもらおうという作戦です。ただし、この手段はあからさまにやることは禁止されています

「消費税転嫁対策特別措置法」(令和3年3月31日失効済)に基づいて、とで以下のように例示されていました。

【禁止されている表現】
「消費税は転嫁しません」
「消費税率上昇分値引きします。」
「消費税相当分、次回の購入に利用できるポイントを付与します。」

【容認されいている表現】
「春の生活応援セール」
「3%値下げ」

消費税分を負けてもらったという感覚が購買意欲を刺激して、粗利益を伸ばすことにつながるのです。

(その2)絶妙な価格設定で錯覚を起こす

価格によって、安く感じたり、購買意欲が増すことがあります。例えば、

  • 10,000円で売るより、9,800円で売る方が粗利益も大きくなる。

これは日常的に経験することだと思います。やはり、桁数が変わるとだいぶ印象が変わりますよね。以下のような感じで、粗利益が増えます。

  • 1個10,000円で売ると、10個売れて売上は100,000円

  • 1個9,800円で売ると、12個売れて売上は117,600円


また、消費税込みの金額をあえてキリのいい金額にすることで何となく得した感じを出すという方法もあります。具体的には、

  • 本体価格 18181円、消費税1819円、税込み価格20000円

といった感じで、税込み価格を2万円というキリの良い数字にすることで、消費者は『値下げをしてもらった』ような錯覚を起こします。

本当は本体価格15000円が妥当な価格なのかもしれないのに、です。
通販で服を買う時にこのパターンの価格設定を見かけます。

(その3)ステルス値上げ

これは消費税が10%になった2019年以降に食料品でよくみられる手法です。特にお菓子などでよくみられるのですが、値段は据え置きで中身の量を減らすというものです。

コンビニの弁当も弁当の底が引き上げられて、量が減らされるということがよくありますね。コンビニ弁当は添加物も多いので、あまり食べない方がいいでしょうね。

この手法のことを「ステルス値上げ」と言います。経済学の世界でも名前が付けられていて、「シュリンクフレーション」と呼ぶそうです。

ステルス値上げをすることで売上はそのまま、仕入の金額が減るので結果的に粗利益を増やすことができる、ということです。

まとめ

今回の記事では、いったん消費税のことは忘れて物の値段がどのように決まるかということを詳しく見ていきました。

事業者側は粗利益を最大化するために、時には価格を上げたり、時には値下げをしてたくさん売ろうとしたり、と様々な工夫をしています。でも、あなたはこう思ったかもしれません。

いろいろ悩んで決めた価格に最後10%上乗せして売っているんでしょう?

実は、そうとは言い切れないんです。なぜかというと、

価格に10%上乗せしなくてはいけないという法律はないからです。

何と言ったって、消費税法には「消費者」という文言は一度も出てきません。正確に言うと、事業者は消費者から消費税を受け取る権利も義務もないのです。

これまで見てきたように、企業は存続をかけて粗利益を最大にしようと日々頑張っているわけです。価格に10%上乗せすると売れなさそうだな、と思ったら、もう少し値段を下げるだけのことです

ただし、レシートには「総額表示」といって消費税込みの金額を書く必要があります。これはこういうことです。

お客さんから受け取ったお金のうち、10/110を消費税として表示している

価格が決まった後に、税金を上乗せしているのではなくて、最大の粗利益が出るであろう水準の販売価格をはじきだして、その金額のうち10/110を消費税として表示しているにすぎません。順番が違うんです。

このあたりの話は、消費税やインボイス制度に関する議論の中で出てくる

  • 消費税は預り金か

  • 益税はあるかないか

というテーマにつながっていきます。

長くなったので、また次回お話します。

よろしければサポートをお願いします。 経済の記事を書くための資料購入する際に使わせていただきます。