第4回:最適な選択よりも、最適をはみ出したカオスな選択を

実はWIREDファンでして、毎号WIREDを買うのを楽しみにしてるのですが(毎月ではなく2ヵ月に一度くらい発刊)、今号の11ページ、Editor ‘s Letterが非常に心揺さぶるものだったので少し書いておきたいと筆ならぬスマホを持ちました。
(初めてスマホでブログ書いてみてます」

タイトルは「最適化されてはいけない」

昨今、色んなところでデータから最適解を出す手法が増えてます。例えばAmazonを使っていると出る「この本を買った人はこんな本も読んでます」のレコメンドも、自分に合った最適解を提案してくれるもの。他にも、ニュースのキュレーションアプリのおかげで関心のないニュースはシャットアウトとして自分に重要なニュースに集中できます。

これらはまだWebの話ですが、センサーなどのインプット装置が発達・普及し、そこで集めた膨大なデータから適切な解を人工知能が判断できるようになれば、実生活に関わる様々な場面で「データをもとに演算された最適な選択肢」を提案されるようになるでしょう。

先日スタートトゥデイ社から発表されたZOZOSUITもまさにそれですよね。ユーザーの服のサイズ情報を集めて膨大なデータとして持つだけでその価値は計り知れません。


さて、僕なんかもIT界隈の人間ですので、データを集めて最適な解を選択するのは合理的だし良いこととして感じる性格なのですが、このコラムにて著者は面白い問いを出しています。

足は遅いけれど力の強い子がいたとして、その子をサッカーや野球ではなく、子どもの頃から重量挙げの選手として育てることはたしかに効率がいい
向いてない競技で補欠に甘んじるよりも、得意なことで試合に出られたほうが幸せだろう

この後半の一文、まともなビジネスマンであればそうそう簡単に否定できない論理と思います。
何故ならこれは比較優位の話。ロングテールで一番なれ、という戦略として理に適った手法だからです。

でも、これを読んでいるあなたもきっと違和感を持つはずで、本人がサッカーをやりたいのならサッカーをさせればいいし、本人の意思を尊重すべきだ、と、そう思いませんか?

Amazonの購入データからオススメされた本を買うことと、健康データからオススメされたスポーツを選ぶことと、そこに違いはあるでしょうか。ないように思います。

このように、最適な解だけを合理的に選ぶことは必ずしも「善」とは限らないと、著者は展開します。

問題となるのは、自分の最適化された選択環境のなかでしか選択が与えられなくなることで、自分の志向や指向が一定方向へと狭められ。そこから抜け出せなくなることだ。


この視点はとても大切なことに思うのです。というか、WIRED日本版の副編集長がテクノクラート調ではない哲学的コラムを書いているのに僕は惚れ直すわけですね。

人生は選択の連続であって、そのくせ人間は決断するのが本来嫌いな生き物のようなので、歴史的にも選択の拠り所を外部に求めてきました。それが近代前は宗教中心であり、近代以降は市場主義中心であり、そして今後はデータを元にした人工知能の判断になっていくのでは?という考察は、以前のTalk Logでも書いたところです。

ここで宗教と人工知能を同列に並べられるところが感慨深いですね。最適化された解を最善だと信じすぎることは、信心深い宗教徒になるのと、選択の拠り所という側面では同じになってしまうのです。

コラムでは、最終的に著者は、最適化の弊害を「未来が奪われること」だと締めています。

最適化という言葉には、現状をひたすら肯定し、ただ補強していくような響きがある。
未来の価値が現在の差分に宿るというのが本当なのであれば、「演算された未来」というフィルターバブルのなかには、薄まり先細っていく「現在」しかない。

つまり、最適化の根拠になっている「データ」は過去から現在に依拠するものであり、それを元に出した解は現在を超えることはできないのです。

新しい価値は、今までの「最適」からはみ出すことによって生まれるもの。全ての選択を現在のデータから演算して決めてしまうと、飛躍も驚きもなく、それは「未来が奪われること」と同義だと言えます。

Amazonでオススメされた似たような本を買うよりも、書店でいつも読まないような本をジャケ買いしたときのほうが、自分の幅に広がりが持てるのは共感できる例じゃないかなと。

ITに関わらず、今後人工知能の判断が僕らに有用な情報を提供してくれる時代になるとは思いますが、あえてその情報を遮断する生き方も素敵なものかもしれません。直感に基づいたカオスな決断こそ、人生を面白くするポイントのように思います。

漫画「宇宙兄弟」で、シャロンがムッタに言っていたこの言葉を思い出したコラムでした。

迷ったときは、正しいほうではなくて、楽しいほうを選びなさい。

ここまで読んでいただいて本当にありがとうございます! 少しでも楽しんでいただけましたら、ぜひスキをお願いします!