前庭覚?固有覚? 子どもの発達の理解に欠かせない感覚統合の話

みなさんは「感覚統合」をご存知でしょうか? 聞いたことがない方も多いのではと思います。

僕は児童福祉の業界にきて初めて耳にしたんですが、内容を聞けば聞くほど納得感があり、児童福祉のプロが子どもの発達についてどんなふうに考えて見立てを立てているのか、その背景となる知識部分に触れることができます。僕自身、いま6ヶ月の乳幼児を育てている父親でもあるので、さらに興味を持っている分野です。

例えば「この子はどうして、みそ汁をこぼさずに持てないんだろう?」といった、子供のちょっとした「あれ?」に対して、ちゃんとこぼさずに持ちなさい!と叱る以外の選択肢を与えてくれます。
児童福祉のプロは、そういった知識をベースにした観察から、その子がどこに・何に躓きがあるのかを読み取り、その子どもにどんなふうに向き合ったらいいか、その躓きにはどんな遊びでアプローチしたらいいか、といったことをを考えていきます。

現場でプロの仕事を隣で見ながら、「あの子はこういうところがあるからこういうふうに接してるんだよ」と教えてもらえる環境にあるので、もっと学んで現場を観察すれば、また自分にも気が付けることも増えるのかな、というワクワクもあります。

※ちなみに僕は直接子どもの支援はおこないませんが、事業運営の側として、いつも障害児通所支援の事業所にいます。気になった方はこちら。

もちろん必要な知識はこれだけでないし、児童福祉の専門性で言えば他にも色々あるんですが、聞けばシンプルで面白い話だったので、下記の参考図書をもとに、少しまとめてみたいと思います。

まだまだ初学者なので語弊・誤解などあるかもわかりませんが、「感覚統合」がどんなものが少しでも興味を持ってもらえればと。

参考図書はこちら↓


脳に流れ込んでくるいろんな感覚情報を「交通整理」する働き

そもそも、感覚統合とは何なのでしょうか?

感覚統合とは、「脳の中に流れ込んでくるさまざまな感覚情報を『交通整理』する働き」といえます。(p13)
実際の道路には、信号機があり、道路標識や歩道などによって、車や歩行者など、さまざまな交通の流れを整理しています。それによって渋滞は緩和され、交通事故を未然に防ぐことができているのですが、これと同じ状態が、我々の脳の中でも絶えず行われているのです。(p13)

僕らは当たり前のように、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、そして詳しくは後述する平衡感覚(前庭覚)、固有覚といった感覚から得た情報を脳内に取り込み、いま視界のどれに集中すべきなのか、どの音が雑音なのか、どの感覚を優先すべきなのか、いろんな情報が行き交う脳内で交通整理をしています。

例えば教室で先生の授業を聞いているとき、校庭から聞こえる体育の笛の音や、学校近くを走る救急車の音、古いエアコンが立てる鈍い音などが聞こえるなか、いま必要な情報である「先生の声」のインプットだけに青信号を灯すことができるのは「感覚統合」のおかげです。教室内の音声をICレコーダーで録音していたら、色んな音が混じっているのがわかるだろうと、著者は例を出して述べています。

この感覚統合がうまくいっていないと、いろんな適応力のつまずきを起こします。この適応力は、4つのスキルのつまずきとして大別できるようです。

診断名だけなら、耳にしたこともあるのではないでしょうか。誰もが知る発明王トーマス・エジソンがADHDだったり、ハリウッドスター俳優トム・クルーズがLDを抱えていたりと、有名人の逸話とともに話題にあがる機会も少なくないかと思います。

この図から、小さな頃の感覚統合のつまずきが、どんな影響として現れるのか、多少イメージが湧いたのではないでしょうか。次は、感覚そのものの話にうつります。


感覚統合の視点で大切な3つの感覚

感覚と聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか? 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。いわゆる五感を思い浮かべた人も多いのではないでしょうか。

「触覚」「前庭覚」「固有覚」

感覚統合では、この3つの感覚が特に重要だと言われます。触覚以外の2つは聞き慣れない名前ですよね。僕もそれまで全く知らなかったのですが、知れば知るほどに、この2つの感覚の重要性を実感しました。

先ほど紹介した本にはそれぞれの感覚の詳細と、それらの統合に躓くとどんな影響があるのか、イラスト付きでわかりやすく書かれています。ただ今回の僕の記事では、単純に3つの感覚の概要を説明するに留めます。気になった方はぜひ調べてみてくださいね☆


原始系と識別系のバランスがもたらす「触覚」防衛反応

本著では、触覚についてこう説明しています。

触覚は、そのセンサーが全身の皮膚や粘膜に張り巡らせれており、「表在感覚」ともいわれます。そしてこの触覚のセンサーは、痛み(痛覚)、温度(冷覚・温覚)、圧力(触圧覚)など、受け取る情報の種類によって役割分担されています。(p21)

触覚は聞き慣れているので、特に疑問なくスッと入っていけるのではと思います。

感覚には「原始系」「識別系」と2つの系統があるのですが、実は、この特徴が強く表れるのが触覚です。

2つの系統がある、だなんて言うと小難しく感じるかもしれませんが、その理解は案外簡単です。要は、感覚には「本能的な原始系の働き」と「認知的な識別系の働き」があるということです。

本能と知性の対立的なイメージは、誰でも思い浮かぶのではないでしょうか。

原始系というのは、太古の昔から本能的に体に残っている感覚の働きのこと。例えば生後2ヶ月の僕の娘は、唇まわりに触れたものに吸い付くように反応しますが、これは新生児期の吸てつ反射と言って、原始系の触覚反応の一つだそうです。

原始系は動物すべてが持っている感覚の働きですが、高度に知的に進化した人類には、識別系という、知的な情報処理をする触覚機能が備わっています。識別系については以下のように述べられています。

これは例えば、いろいろな物が入っているポケットの中からコインだけを取り出すというように、目で確認することなく、触れた物の素材や形、大きさ、位置などを「弁別」したり、自分の体のどの位置に触れているかを「感知」したりするときに用いています。(p22)

子どもが成長するに連れて、識別系が育ってくるので、外からの刺激に対して原始系が働くのにブレーキをかけるようになります。先ほど述べた新生児の吸てつ反射も、成長して識別系が育つことで見られなくなります。

このように、成長に伴って識別系が優位に働くようになり、原始系にブレーキをかけることで感覚情報に対して適切な対応ができるようになるのです。

勘のいい方はお気づきかもしれませんが、この識別系がうまく育たず、原始系の働きが強いままだと、本能的な行動が多くなってしまいます。特に「触覚」において、原始系の反応が強く出てしまうことを「触覚防衛反応」といいます。

例えば身につけるものへの強い執着やこだわりがあったり、歯磨きや耳掃除をどうしても嫌がったり、ベトベトした粘り気のある粘土やのりを触るのに強い抵抗があったり。生後6ヶ月〜3歳くらいでそういった触覚防衛反応を示す子どももいるようです。


平衡感覚=バランス感覚だけではない?

前庭覚は聞き慣れないかもしれませんが、いわゆる平衡感覚のことです。

平衡感覚は前庭覚ともいい、揺れや回転、地球の引力といった加速度情報を感知する感覚で、主に姿勢のコントロールに関わっています。(p31)

例えば、わかりやすい体験として、目を閉じた状態で椅子に座ってみてください。誰か近くの人に協力してもらいましょう。左右どちらかに傾けるように、座ったままの体を横から押してもらいます。

そのとき、あなたの頭はどうなっているでしょうか? 

多くの人は、体を傾けながらも、頭を垂直方向に起こそうとするでしょう。この動きは無意識で、なぜそうしたかと問われても明確に答えられないものなのです。

少し詳しく説明すると、まず、体が傾けられた瞬間に平衡感覚のセンサー(耳石器)が地球の引力(重力加速度)のズレを感じ取ります。そしてこの情報が、平衡感覚を受け止める回路に届く。ここまでがインプット(入力)です。(p33)
そして次に、アウトプット(出力)側の回路に情報がバトンタッチされます。送り先は姿勢調節の回路(運動回路)。これにより、傾きとは反対側の首の筋緊張を上げ、頭を垂直に保ったというわけです。(p33)

いま説明したような、無意識の筋緊張によって姿勢を調節するのは、脊髄系の前庭覚の一例です。実は前庭覚は、インプットされた感覚のアウトプットにょって、3つの回路に識別されます。

◾️眼球運動の回路 動眼系の前庭覚
◾️姿勢調節の回路 脊髄系の前庭覚 ←さっき説明した例
◾️自律神経系の回路 自律神経系の前庭覚

例えば眼球運動の回路。動眼系の前庭覚の統合ができていないと、眼球運動に影響が出て、眼振が出ない、出にくいことがあります。眼振とは、その場で10回転ほどしたときに目が回って眼球の揺れがあらわれること。これは、目の前のものを注視したり、動いているものを追ったりする眼球運動として自然なことなのですが、ときに、眼振が出ない場合があるのです。

そういった子は、目つきが悪く見えたり、読書がしづらかったり(知的レベルは十分でも文字を追えない)、キャッチボールが苦手だったり、カルタ遊びのときに全体の札を見渡すのが難しかったりすることがあるようです。

長くなるので自律神経系の前庭覚については割愛しますが、前庭覚が影響を及ぼすのは単なるバランス感覚の話だけではなく、さまざまな動作の根本の部分として前庭覚の統合が重要、ということがわかるかと思います。


力の入れ加減がわかる固有覚

筋肉や腱、関節の中にある感覚のセンサーを総称で「固有覚」と呼びます。具体的には、3つの情報を脳に送る働きがあるようです。

1. 関節の角度
2. 筋肉の収縮の程度・力の入れ具合
3. 筋肉や関節の運動状態(どこで、どういう運動が生じているか)

前庭覚と同様に、固有覚も体感できる簡単な方法があります。目を閉じて、片手のひらを上に向けて出してみてください。誰かに協力してもらって、その手のひらの上に本を1冊ずつ乗せていってもらいます。目を閉じていても、本が増えていったことは誰でもわかると思います。

どうしてわかったのでしょうか? 多くの人は「重さの違いがわかったから」と答えますよね。では、重さの違いはどうしてわかったのでしょうか? なかなか答えられませんよね。

実際は、手のひらに置かれた本を支えるために、肩や腕、手首の筋肉の収縮程度を上げて、力の入れ加減を調整しています。無意識に自然とやってしまうこの力の入れ加減がわかるのは、固有覚があるからなのです。

この記事の冒頭で、僕はこんな例を上げました。

例えば「この子はどうして、みそ汁をこぼさずに持てないんだろう?」といった、子供のちょっとした「あれ?」に対して、ちゃんとこぼさずに持ちなさい!と叱る以外の選択肢を与えてくれます。

まさにこの例が固有覚のつまずきです。みそ汁をうまくよそえない子どもがいて、よくよく確認してみると、固有覚の統合のつまずきによって力の入れ具合がわからない状態だった、ということがあり得るのです。

他にも、鉛筆の芯をすぐに折ってしまうなど、固有覚の統合の遅れが不器用さとして表れることがあります。こういうとき、周囲の大人が固有覚の統合について理解を持っていないと、もっと丁寧にしなさい、ちゃんとやりなさいといった的外れな声かけをして、その子を傷つけてしまったり、自信を持てなくしてしまったりするかもしれません。固有覚はパッとわかりづらい感覚ですが、子どもの発達においてとても大切な感覚なのです。


その子をより深く理解するために

以上、感覚統合について、触覚、前庭覚、固有覚を中心とした簡単な紹介でいた。

まとめます。

・触覚の識別系が発達が遅いと原始系の反応が多くなり、触覚防衛反応として、触覚への強いこだわりなどが表れることがある。

・前庭覚とは平衡感覚のことで、単なるバランス感覚だけでなく、眼球運動や自律神経系など、さまざまな動作の基本となる感覚。

・固有覚への理解をまわりの大人が持っていることで、力の入れ加減がわからず不器用な子どもがいたとき、その子に寄り添った声かけができるはず。

ここで紹介したのはほんの一部で、まだまだ他にも、感覚統合の話は広く深く、おもしろい内容がたくさんあります。保育や児童福祉の現場で働く方々はもちろん、子育て中のママパパの方も、感覚統合の視点を持って子どもと接することで、我が子の発達についてもっと理解できるんじゃないかと思うのでぜひ読んでみてほしいです。

児童福祉の現場でたまに子どもたちと関わることがあり、あるいは家庭で我が子の世話をする時間も増えましたが、そういうときによく「これでいいんだろうか?」というなんとなくな不安感を覚えることがあります。でもそのほとんどは、よくよく振り返ると、子どもの発達やその子の状態を知らないことが原因のことが多いなとも思うのです。もちろん知識があればうまくいくわけでもないし、知識や経験があってもうまくいかないこともたくさんあるわけですが、その子をより深く理解するためにも、もっと感覚統合について知見が広まればいいなと思います。

僕もまだまだ日々勉強。今までまったく学んでこなかった分野なだけに新鮮でおもしろいです^^

Photo by li tzuni on Unsplash



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子育て・教育・児童福祉の話

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