小説「モモコ」第5章〜2日目:誘拐後〜 【19話】
『モモコ、よく覚えておきなさい』
『うん、何だって覚えてしまうから大丈夫よ』
『もちろんそうだろうね。いいかい、いつかきっと、UFD技術の存在を嗅ぎつけた連中が、モモコや僕に接触してくるだろう』
パパはしばらく間を置いて言った。
『そのときは全力で逃げるんだよ』
『私なら平気よ、パパ。どんな人たちが来たって、負ける気がしないもの』
『いや、まず戦ってはいけないんだ』
パパは心配そうな顔をしていた。
『たしかにモモコの能力なら、そのへんの組織の一つや二つにやり返すことくらい、いや、むしろ潰すことだって難しくはないかもしれないね。でも、だからこそダメなんだ』
パパな悲しそうな目で、語気を強めて言った。
『モモコ、自分の能力を目立たせてはいけないよ』
父親はいつもモモコのことを心配していた。モモコの存在が目立てば目立つほど、碧玉会のような輩が次から次へと群がってくると、わかっていたのだ。
その言葉通り、今まで、モモコは自分の能力をみだりに発揮しないようにしてきた。
モモコは、息を吸い直すと、もう一度尋ねた。
「坂田さん、もう一度聞くわ。あなた、どこまで知っているの?」
「さあ、どうだろうね。私はただ、特別な存在である君を、ある人に紹介してほしいと頼まれているんだ。そのあと、ゆくゆくは、君を仲間に迎え入れたいと思っている」
坂田は悲しそうな表情を浮かべてみせた。
「わたしはね、君をこんなふうに連れてきてしまって申し訳ないと思っているんだ。本来ならもっと友好的な出会い方をしたかった。だから、一度ちゃんと語り合いたいと思ってね」
「欠片も思っていないようなことを軽々しく口にしないほうがいいと思うわ」
「なんだって?」
モモコが即座に返した一言に、坂田は驚いた声をあげた。
「あなたがいまその位置にいられるのはなぜかしら? 坂田さん、あなた、エセ宗教家が一番気をつけるべきものへの注意を疎かにしているわ。あのセミナーに参加して、わたしにはわかってしまったの」
坂田の表情からは先ほどまでの笑みが失せていった。
「全ては言葉、言葉なの。あなたの言葉が、よくもわるくも、あの場にいた400人の心を動かしている」
坂田が何か言おうとしたが、モモコはそれを遮るように続けた。
「あなたみたいな詐欺まがいの宗教家が一番に気をつけるべきこと。それは、相手によって真実と嘘を使い分けることよ。誰に、真実にどれくらいの嘘を混ぜて話すのか。それがあなたたちの生命線。わたしを相手に嘘で機嫌をとるなんてあなたらしくもない。本質だけ話しましょう。それ以外は時間のムダよ」
坂田は再び笑みを作ると、そうか、と一言漏らした。部屋の隅にいたボディガードの男を呼び寄せると、耳元に話しかけ、何か指示を出したようだった。
「大人の真似がしたい年頃だというのはわかるが、それにしても、少しばかりおしゃべりが過ぎたようだね」
導師の声は少し苛立っていた。
「あら、やっと軟禁する気になったのね。もう少し早いかと思ったのだけど」
モモコはふふふと笑ってみせた。予想よりも堪忍袋は小さかったようだ。
〜つづく〜
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