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ブレーキの音

自転車のブレーキをかけると「キキュッー」と鳴ることがある。「制動で生じる摩擦音」というと仰々しいけど、ようするに「自転車のブレーキ音」のこと。

ブレーキグリップを握り込むと、ワイヤーが引っ張られ両側から車輪をつまむようにブレーキパッドを動かす。リムを挟み込むことで生じる摩擦で、車輪に制動がかかる仕組みだ。

前輪と後輪ではブレーキ機構がことなる自転車もある。前輪がリムを挟み込むのに対して、後輪は車輪の芯にあたる部分に巻き付いたパッドでブレーキをかける。ワイヤーの動きで帯状のパットを引き締め、強い摩擦を生じさせることで制動をかけてくれる。

気まずいブレーキ音

長い急な坂道で、ブレーキをかけ続けなくちゃいけないときがある。周りに人がいると、耳障りなブレーキ音で少々気まずい思いをしたりする。そういうときに限って、
「ギュギューーッ」「キュルッキュルッ」
とかいう、変な音が出てしまう。大抵の場合、音を抑えようとすればするほど、妙な音がでて気まずさは増していく。

ベル代わりのブレーキ音

耳障りで迷惑なブレーキ音だけど、役に立つこともある。それは、前方に超安全速度のおばちゃんが現れたときだ。自転車のハンドルについているベルのかわりに、警告音として働いてくれるのだ。「あら、ブレーキ音きこえちゃった?退いてと言うつもりではなかったのよ」と内心の言い訳も成立させてくれる。

そうはいっても僕の場合、普段は急ぐ用事もないのでのんびりと後ろをついていく。人生のんびりいこうよ、なのである。

緊急事態の発生

ただ、長い人生には、いろいろな事態がおきるもの。

一昨年、ある日の午後。

僕のお腹は自転車走行中にいきなり、緊急事態宣言を発令したのだった。

…まずい。

ウン悪く眼の前には、超安全速度で運転中のおばちゃん。
ここは普通の幅の歩道。どう切り抜ける?

力を抜いたらなにかが「終わってしまう」気がする。もちろん立ち漕ぎしかできない。下半身の力を緩めるわけには行かない。額の脂汗は、ペダルを踏む疲労からくるものでは決してなかった。

神様…。

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前回祈ったのはいつのことだったか。ごめんなさい、これからは毎日祈ります。この祈りが届けば、家のまではなんとか届くはず(なにが)!そんなことを考えながら、おばちゃんの背中をにらみつける。

これまでの人生で最高レベルの集中力を発揮しつつ、おばちゃんの後について小さく蛇行運転を続ける。ベルを鳴らす勇気がない、自らのメンタルの弱さを呪った。

そうだ!ブレーキがある。
汗で湿る手でグリップを握る!

「キキッ」

気配に気づいたおばちゃんが、よろよろと脇へ避ける。

おお神よ。

その時、一筋の光が差し込んだ…いや、すでに差し込んでいた。なんて話はさておき、とにかく道が開けたのだった。
ブレーキ音に救われた瞬間だった。
耳障りだとか気まずいとかいってごめん。


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こうして、僕の願いは聞き届けられ、成人としての尊厳を損なう事態は回避したのだった。自転車ブレーキへの恩は一生忘れないだろう。。。

ところで

喉元すぎれば熱さをなんとやら。昨年ずいぶん古くなった自転車を買い替えた。量販店で12000円、ごく普通の自転車だ。乗り始めてから結構たつが、どういうわけかブレーキの音が未だにほとんどしないのだ。

走行中、お腹が痛くなったらどうしよう。
今のうちに祈っておこうかな

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