見出し画像

僕がプロレスにハマるまで(終)[IWGP王座争奪戦編]

順調にプロレス坂を転がり始めた僕を奈落に導くかのように、新日本プロレスでは年始にして最大のお祭り、平成最後のイッテンヨン(1月4日)の話題で持ちきりになっていきます。
そのメインイベントてオオトリを飾るのはIWGPヘビーのベルトを防衛中のケニーオメガと挑戦者の棚橋弘至です。

棚橋弘至という選手はプロレス以外のメディア露出も頑張っているので、プロレスにあまり馴染みのない人でも名前くらいなら聞いたことがある人は多いんじゃないでしょうか。

今回はこの2人でまさかの闘争に発展していきます。

イデオロギー闘争

これは大小様々なのですが特にベルトに絡む試合の前には対戦相手同士の因縁が描かれます。

例えば、
試合を邪魔したからとか、
ライバル同士だからとか、
ユニット間の抗争とか、
中にはプライベートで本当に仲が悪いってのもありハラハラすることもあります。

こういうバックボーンを楽しむのもプロレスの醍醐味なのですが、ぶっちゃけ普段はバックステージで相手を挑発しあって試合で決着つけようぜ!程度のものが多いです。
しかし2019年イッテンヨンは少し違いました。

棚橋弘至「お前の下品なプロレスが嫌いだ」
ケニーオメガ 「タナハシのプロレスは時代遅れだ」

と、お互いのプロレス観、レスリングスタイルを否定し、やがてそれは当人同士だけではなくプロレス団体やファンを巻き込む大きな渦となって行きます。

プ女子A「ケニーの発言は旧来のファンをバカにしてる!」
プ女子B「そもそも棚橋動けてないじゃん」
プ女子Cは逃げ出した!
プ女子Dは起き上がり仲間になりたそうにこちらをみてる

このように僕の周りのごくごく小さいコミュニティでも棚橋派とケニー派に分かれていました。

さて僕はというと、木戸修が引退したあたりからプロレスを見なくなったわけですから暗黒期の棚橋の功績を知るはずもなく、再び見るようになったきっかけがゴールデンラヴァーズなのですから、形式的にはケニー派でした。

でしたが、
古き良き時代のストロングスタイルを知ってるがゆえに…
新しいプロレススタイルを知ってしまったがゆえに…
完全に片方の考えに傾倒することができず揺れ動いていました。
2人とも喧嘩しないで状態です。

着地点が「俺の勝ちね!」で終わればいいのですが、イッテンヨンが近づくにつれてイデオロギー闘争はどんどんキナ臭くなっていき、ついには新日本プロレスがケニーオメガを追い出そうとしている、というところまで来てしまいます。

しかも、ケニーはイッテンヨン後に新日本プロレスを退団し、新しくアメリカで発足するプロレス団体に行くのではないのか、というガチっぽい噂もあるではありませんか。

ん?

ちょっと待って、

ケニーがアメリカ帰ったら、

ゴールデンラヴァーズ見れなくなるじゃん!!!

平成最後のイッテンヨン

画像1

イッテンヨンの会場は東京ドームです。
今なら遠征することも考えられますが、ハマり始めたのが半年くらいの関西在住のニワカにとって、チケット代や宿代だけで数万円飛んでいくのは考えられませんでした。
ちなみにプ女子は何人か遠征してました。
こういう時の女性の推しへの行動力が羨ましい。

そんな折、偶然知った関西のプロレスバーでイッテンヨンを観戦できることがわかり、ニワカ3人で肩身を寄せ合い震えながら大人の社交場に向かいました。

満員の店内に案内され8人掛けのテーブルに座ると猛者そうな男性がどっち派ですか?とみんなに声を掛けてきました。
その時までは僕も薄っすらそうなんじゃないかなぁ程度にしか考えてなかったのですが、現実とは非情です。
我々以外全員棚橋派でした。

突然のピンチを迎え、猛獣に囲まれたカピバラになった我々でしたが、気を使ってか隣の男性が声を掛けてきました。
「一応棚橋派ですけど、ケニーも好きですよ」
ん〜なんて優しい世界!

この年のイッテンヨンは第一試合からさっそく荒れました。
おそらくメイン試合でケニーのセコンドに着いたであろう飯伏幸太が1回戦でのダメージが大きく脳挫傷で担架で運ばれるというアクシデントにみまわれ、ケニーは盟友飯伏がいない状態でメイン試合を戦うことになります。

そして伝説へ

メインイベントのゴングと同時にいつも通り序盤からフルスロットルで攻めるケニーオメガ 。
机や道具を使うケニーのプロレスを下品だと罵っていた棚橋がケニーに机攻撃を仕掛けて自爆。
必殺技を出しきった棚橋に対して片翼の天使を温存しているケニーオメガ。

この時、もしかしてケニー勝つんじゃ!?と淡い期待をしたことを覚えています。
我々のテーブルでもあーだこーだ言い合って盛り上がっていました。

しかし、最後には棚橋が2連続のハイフライフローからの3カウント。
ケニーは敗者としてリングを去り、平成最後のイッテンヨンは平成の新日本プロレスを支えた男、棚橋弘至の締めで幕を閉じました。

プロレスバーは大盛り上がり。
気がつくと同じテーブルの猛者の人が静かに涙を流してて、こりゃ勝てんわ(ニワカの僕が)と思ったもんです。

そして沼へ

その日の夜はずっとイッテンヨンのことを考えていました。
イデオロギー闘争の結末はどうなるんだろう。
棚橋が勝ったからケニーのプロレスが間違っていたってこと?
新日本にとって新しい形を排除するのは正解なの?
(…いや、これはケニーが勝っていても逆のことを考えたと思います)
新日本プロレスの未来には二人とも必要だけどケニーは居なくなっちゃうの?
どこまでがプロレスでどこまでがプロレスではないのか…

スポーツやドキュメンタリーを見て心が熱くなったことはあっても、
映画や演劇を見て心が踊ったことはあっても、
悲しみ、喜び、不安、愛しさ、憎しみ、感動…
エンターテイメントに触れて全ての感情が同時に熱く踊ったのは人生でこのときが始めてでした。
以前ハマったnWoの時のそれ以上の高揚感を得てしまったのです。

…以上が僕がプロレス沼に完全にハマった経緯です。
自分自身、趣味は相当多彩な方で、後世は経た趣味を消化していき「最高のもの」を繰り返し吟味していくことに喜びすら感じていたのですが、まさか人生の折り返し地点でまた新たな「最高のもの」を見つけてしまうとは思ってもいませんでした。

以前、物語の作り方を学んでいたときに「成功の前段階には挫折がある」と教えられたことがあります。
結局ゴールデンラヴァーズにお目にかかる夢?は今でもおあずけとなっていますが、きっとこれはこの先にあるカタルシスを味わうための我慢に他ならないということに違いありません。
(ちなみにその後、この夢は半分叶うことになるのですがそれはまた別の機会に)

では、ゴールデンラヴァーズに生で会うその時まで、また今週のプロレスを消化する作業に入りますか。

サポートで猫を飼いたい