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紀行文を書いてみた! 八丈島編

編集学校で「紀行文を書く(600~700字)」という課題が出された。5年ほどライターをしているが、紀行文ははじめての挑戦。ドキドキしながら臨むと、これが楽しい。楽しい。当稽古の本質は、鳥の目、虫の目、心の目などフォーカスの切り替えを意識的に行っていくこと。視線を切り替えることで、文章が立体的で奥行きがあるものとなる。いい経験ができた。紀行文、これからどんどん書いていきたいなぁ。

羽田空港から50分のフライトでたどり着く離島、八丈島。品川ナンバーの自動車が走るものの、多くの都民が足を運んだことがない。
近くて遠い場所、それが八丈島なのかもしれない。

八丈島は江戸時代から「流人の島」だった。そう聞くと、どんな荒くれ者が集った島なのだろうと思うかもしれないが、そうでもない。八丈島は伊豆七島の中で、本島から最も遠い。そのため、当時の政治を揺るがす思想犯が流された島だったのだ。体制に反旗を翻すような流人の中には、広い知見を持ち、深い思想を抱いている者も少なくなかった。
そのため、八丈島の人々は流人を敬い、暖かく迎え入れた。

暖かいのは人だけではない。
八丈島は温泉が豊富に出る。その中でも、私が気に入ったのが森の中に湧き出した、水着で入る混浴湯だ。苔がはりつく古びた階段をそろりそろりと下る。20段ほどおりたところに、川を堰き止めてつくられた温泉が見えてくる。先客は地元のおばあさんが一人。取り囲む木々が湯だまりに迫る。森が隠すように、この湯を守ってきたみたい。

そそくさと水着に着替えて、湯に浸かる。おばあさんと私。ふやふやと立ち上る湯気に包まれる。掛け流しの湯は、一度私たちの周りで渦を巻き、川へと流れ出す。数十センチ先までかろうじて湯気を残し、すっと熱は消えてゆく。

お湯を掬い上げてみる。
ほんのりとした硫黄の香りが鼻に運ばれた。透明だが、とろみがある。思わず自分の肌へ刷り込んで、手の甲を眺める。きっと白くきめ細かくなったに違いない。
温まった体は眠気を運び、その夜のベッドでの微睡みは格別なものだった。

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