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「ファミリーナ」7場

#7 山田荘の月曜日(祝)午後1時

     席に着いている一徹、美奈子、春奈。周囲に坂本、健一、マキ、
     平助、真由美、横山、早戸。人待ちの風情。沈黙

平助  「今、何時?」
備瀬  「もう30分も過ぎてますよ」
春奈  「…遅いわね」
平助  「…もしかして来ないんじゃないか?」
真由美 「え?でも…」
坂本  「大家さんを敵に回すと怖いですからね、ほんと」
早戸  「ただの腰抜けだったってことか」
備瀬  「しっ!」

     織部、状況を知らずに入ってきて。

坂本  「来たくない彼の気持ち、わかるなあ」
平助  「ん?健ちゃん何見てんの?フロムエー」
健一  「(フロムエー読みながら)別に織部さんに言われたからじゃない
     からな」
早戸  「何故さん付け?」
坂本  「好きだからですよ。階段から見てました」
早戸  「(蹴りいれる)」
美奈子 「……」
春奈  「(ため息)」
一徹  「美奈子」
美奈子 「…はい」
一徹  「お前、振られたんじゃないのか?」
美奈子 「え?大丈夫。絶対来るよ」
一徹  「時間に正確な男なんだろう?」
美奈子 「うん…まあ…だけど絶対来るから」
一徹  「(立とうとする)」
美奈子 「待って!あと5分。あと5分待って」
春奈  「お父さん!!」
一徹  「……(座って)」
一同  「(素直に座る一徹を見て感心する)」
一徹  「おい。お前ら、何を見てるんだ?見世物じゃねえぞ」
平助  「いやあ、だって気になるじゃないですか」

     ボロボロになったタカオ入って来る

美奈子 「タカくん!!大丈夫?」
タカオ 「…すいません。遅れちゃいました」
一徹  「タオル!冷やしたタオル持って来い!!」
マキ  「はい!!(と行く)」
坂本  「血、血出てる!血!血!」
タカオ 「大丈夫です…お父さん座って下さい。美奈ちゃんも」
一徹  「まず、私の事をお父さんと呼ぶな」
タカオ 「すいません…お座りください…」

     マキ、冷やしたタオル持って来る

マキ  「はい」
タカオ 「ありがとう(座る)もう大丈夫ですから…」

     一徹、春奈、座る

美奈子 「タカくん、何があったの?」
タカオ 「いや…」
一徹  「君は遅刻したんだ。理由をちゃんといいなさい」
タカオ 「すいません」
一徹  「すいませんじゃないだろう」
タカオ 「あの…昨日お邪魔して…どうしても分からなくて、それで…」
一徹  「何を言ってるんだ?」
タカオ 「あの…坂本さん」
坂本  「え?僕?なに?」
タカオ 「坂本さんはどうして司法試験に受かると信じているんですか?」
坂本  「え?信じなかったら絶対に受からないからですよ。昨日言ったで
     しょ?」
早戸  「信じてるだけでも受からないけどな」
坂本  「だから努力してるじゃないですか」
タカオ 「横山さんもそう。でも僕はなんで坂本さんや横山さんがそんな無
     茶な夢を思い続けられるのかどうしても分からなかったんです」
備瀬  「無茶って・・・」
一徹  「分からないことないだろう」
タカオ 「……僕…高校の三年間、ずっといじめられっ子だったんです」
美奈子 「タカくん…」
タカオ 「学校に行くのが怖くてただ、毎日が何事もなく過ぎてくれるだけ
     で良かった…市役所も毎日が淡々と過ぎていくと思ってました。
     だから職場に決めたんです。そう思ってました」
一徹  「……」
タカオ 「でも美奈子さんは僕の夢が好きだって言ってくれました…そのた
     めに市役所で働いているんだって…」
一徹  「おい。鼻血を拭け」
坂本  「血、血、血が出てる!血が出てる!ティッシュ!ティッシュ!」

     美奈子がティッシュをタカオに渡す

タカオ 「……ここに来る途中で僕、駅のロータリーで中学生がいじめをし
     ているところに出くわしてしまったんです。昨日までなら僕はそ
     のまま通り過ぎてたと思います。約束の時間もありましたか
     ら…」
一徹  「……」
タカオ 「でも今日見過ごしたらきっと後悔すると思って…自分を変えなく
     ちゃって思って…思い切って弱い者いじめはいけないって注意し
     たんです」
一徹  「……」
タカオ 「でも全然ダメでした…逆に中学生にボコボコに殴られちゃって。
     もうカッコ悪くて恥ずかしくて…」
美奈子 「そうだったの…それで…」
タカオ 「でも、僕が一番悲しかったことは、たくさんの人たちの前で殴ら
     れているのに、みんな見て見ぬふりだったんです」
一徹  「だから今から強くなりたい。そういうことか?」
タカオ 「はい。強くなりたいって思いました」
一徹  「……」
タカオ 「勇気がない、思いやりがない、人の気持ちを考えない、そういう
     ことが当たり前の世界で生きて行かなくちゃならないんです」
一徹  「……(向き)」
タカオ 「僕は、もっと自分の正しいと思うことに正直に行動できる男にな
     りたいです」
春奈  「……」
美奈子 「……」
一徹  「……」
タカオ 「そしてできれば町の人たちがみんな良いことを良いと言えるよう
     な町を作りたいです。みんなが弱い人たちを守ろうと思える町を
     作っていきたいです。市役所の職員としてそれができれば僕
     は…」
美奈子 「タカくん…」
一徹  「……」
織部  「…強くなりたいと言ってますよ、親父さん」

     一同、一徹に注目する

坂本  「あのさ、もしかしてそれって政治家になりたいってこと?」
平助  「おいおい」
健一  「ブルーハーツが歌ってたろ。弱い者たちは自分たちよりもっと弱
     い者をいじめるもんだってよ」
美奈子 「お父さん…」
一徹  「……」
織部  「それが君の夢か」
タカオ 「いえ、僕の夢は・・・美奈子さんを幸せにすることです」

     一同、ずっこける

美奈子 「タカくん!!お父さん、違うの」
一徹  「黙ってろ!……せいぜい幸せにしてやれ」
タカオ 「え?」
美奈子 「お父さん!!」
一徹  「ただし、美奈子を泣かせたら本気でお前を殺す。いいな」
タカオ 「あ、はい」
春奈  「…」
織部  「おめでとう、美奈子ちゃん」
みんな「おめでとう、美奈子ちゃん(口々に)」
美奈子 「ありがとうございます」
タカオ 「あいたたた。でもお父さんどうして許してくれたんでしょう?」
平助  「美奈子ちゃんが心配だよ俺は…でもまあ人それぞれってことか」
織部  「美奈子ちゃんは男を見る目があるってことだよ」
平助  「ま、そうだよな。こんなヘナチョコを見つけたんだもんな」
タカオ 「あ、まあこれからですよ。これから」
坂本  「頑張ってくださいね」
早戸  「しゃしゃり出てきてるんじゃね-よ」
坂本  「(早戸をぶっとばし)バカーーーーー!!!」

     何故か抱き合って泣く坂本とタカオ

平助  「俺、パチンコやめてカリスマ美容師になる」
真由美 「カリスマじゃなくてもいいですよ」
平助  「うーん…とにかく働くことにするわ」
真由美 「私、応援します」
平助  「しかし美奈子ちゃんが結婚すると大家さん、これから一人暮らし
     ってわけか」
健一  「ああ、そういえばそうだな」
美奈子 「大丈夫。私たちがここに住めばいいんだから!ねぇ!」
真由美 「でもここ、今、部屋空いてないですよね」
美奈子 「そうじゃなくて、実はここ仙道さんがマンションに建て替えてく
     れるって言ってるの」
坂本  「そんなことしなくても、僕が司法試験に合格してここからオサラ
     バするっていうのが一番リアリティがありますね」
一同  「それはない(笑う)」
早戸  「あるよあるよ!君なら出来るよお!」

     暗転

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