見出し画像

「ファミリーナ」1場

舞台のトレイラーはこちらです。

<登場人物>
山田一徹(50)/山田春奈(28没47)/山田美奈子(28)
加藤タカオ(30)/織部おさむ(39)/仙道祥太郎(35)
坂本茂春(30)/凡木平助(32)/健一(29)/安西真由美(20)
マキ(27)/備瀬(30)/早戸(30)/御麿師匠(不詳)

<舞台設定>
山田荘(2013年ごろ)
昔懐かしい風情の下宿スタイルの食堂兼リビングのような空間。
舞台中央に食事用のちゃぶ台。座椅子や変な椅子など。
舞台下手に流し台がある。
舞台上手は各部屋に通じる階段が見え、手前にはガラリの玄関。
舞台中央奥は大家の部屋の入口になっている。

#1 山田荘の土曜日午後1時

一徹と美奈子、そして正装したタカオ。通過する春奈、台所へ行く。コンビニ帰りの備瀬、階段を上っていく。机の上に冷めたお茶。タカオの沈黙が続いた後

タカオ 「…。小学校の頃はプロ野球選手になりたいって思ってました。で   
     も中学に入って見たらみんなすごく上手くて僕がそんなものにな 
     れるはずないって…だからすぐに諦めました。でも野球が好きだ
     から、今もずっと野球をやっています…」
一徹  「だからなんだ?」
タカオ 「僕が何になりたいかじゃなくて、社会が僕をどう必要としてくれ
     るかが大切なんじゃないかなと思っています。自分がすごいこと
     ができるなんて考えたこともありません。それで…市役所に就職
     したんです」
一徹  「これからでもいい。君はやり遂げたいと思える夢は何かないの
     か?」
タカオ 「歌手になりたい、俳優になりたい、プロ野球選手になりたいっ
     て…言うのは簡単です。でもそんなものになれるはずありませ
     ん。なれもしないものになりたいなんて…僕には言えません」
一徹  「そうか」
タカオ 「僕は、ささやかでもいいから確実な幸せを掴みたいんです。」
一徹  「…帰ってくれ」
美奈子 「お父さん!!」
一徹  「結婚は許さん。夢も語れないような男に娘はやらん!」
タカオ 「ですから…」
一徹  「絶対反対だ!反対だったら反対だ!!帰れ!!」
タカオ 「お父さん…」
一徹  「君にお父さん呼ばわりされる覚えはない!私は忙しいんだ。とっ
     とと帰れ!!」
タカオ 「帰りません!!結婚を許してもらうまでは、帰るわけにはいきま
     せん」
一徹  「―――――美奈子!塩撒いとけ!!」

     席を立つ一徹。中央部屋に入る

美奈子 「おとうさん!!もう…」

     しばしの沈黙後

美奈子 「ごめんね…」
タカオ 「いや…・・。ごめん」
美奈子 「え?」
タカオ 「うまく言えなかった」
美奈子 「仕方ないよ。結婚するって言った途端に、あの剣幕だもん。まず
     は、私達のこと理解してもらうことが先決だよ」

     間

タカオ 「淋しいんだろうな」
美奈子 「でもさ、娘が産まれた時点でそんな日が来ることはわかってたん
     だから」
タカオ 「ごめん」
美奈子 「だからタカくんのせいじゃないって」
タカオ 「僕、許してもらうまで、何度でも来るよ。分かってもらえるま
     で、何度でも」
美奈子 「うん…ありがとう」
タカオ 「美奈ちゃん…」

     二階から備瀬カップ麺片手に降りてくる。それに気付き

美奈子 「時間大丈夫?」
タカオ 「お、もう一時半か…そろそろ行かないと…」
美奈子 「ごめんね選挙前で忙しいのに」
タカオ 「また夜来てみるよ。今日は結婚式だっけ」
美奈子 「うん。最近友達の結婚式ばっかり行ってる気がする。皮肉よね」
タカオ 「遅くなるよね」
美奈子 「ううん。すぐ帰ってくるよ。人の幸せ祝ってる場合じゃないし。
     行こう」
タカオ 「いいよここで」
美奈子 「私も髪やりに行かなくちゃいけないから」
タカオ 「じゃ駅まで」
春奈  「気をつけてね」     
備瀬  「(誰に言うわけでもなく)いってらっしゃーい」
美奈子 「いってきまーす」
春奈  「いってらっしゃい」

     二人は玄関から出て行く。織部が難しい顔で上手からやってく
     る。手にはレトルト食品。春奈は椅子に座る

春奈  「またカレー?そんなのばかり食べてちゃダメよ」
備瀬  「どうも、すぐ空きますから」
織部  「…」

     織部、順番待ちのために春奈の座ってる椅子の前に座る

備瀬  「まともな物食わないといいもの書けませんよ」
春奈  「うん。確かに」
織部  「ん?」
備瀬  「いえなんでも」
織部  「できたのか?」
備瀬  「待ってくださいよ、もう少しですから」
織部  「そうじゃなくて、ネタだよ」
備瀬  「あ、今あいつが書いてます。お蔭様で参考になりました」
織部  「そうかそれは良かった」
備瀬  「お待たせしました。はいどうぞ」
織部  「ああ」

     織部は立ち上がり台所へ。カップ麺を持ち備瀬、二階へ行こうと
     する。二階から健一、マキ降りてくる

健一  「何言ってんだよ、マキ、こないだバイト代入ったばっかだろ?」
マキ  「そうだけど、わかった、じゃあ今日は特別よ」
健一  「よう、貧乏人またそんなの食ってんのかよ」
備瀬  「ほっといてくれよ」

     健一、織部を一瞥し、玄関のほうへ向かう

健一  「(刺々しく)あんなんなっちゃうぞ」
備瀬  「どこ行くの」
マキ  「オーディションの前祝い」
健一  「そう言うこと、じゃあね。カルビカルビー!!」
備瀬  「焼肉…いいなぁ…」
織部  「――――――――――――」

織部、春奈の前に座り食べる。備瀬が階段を上がって行く

春奈  「織部さんってほんとにカレーが好きだよね」
真由美 「すいませーん」
春奈  「はーい」

     段ボール箱を抱えて入って来る真由美。織部を見て

真由美 「あ、大家さんですか?、今日からここにお世話になる安西です。 
     宜しくお願いします」
春奈  「ああ、今日から入居の」
真由美 「前の道、車大丈夫ですか。よいしょっと…」
織部  「――――――」
真由美 「土曜日って案外道路空いてるんですね、向こう一時に出たんです
     けどナント!一時間で着いちゃいました…荷物って運んじゃって
     いいですか」
織部  「ああ、どうぞ」
真由美 「え?あ、はい」
織部  「(立ち上がり台所へ片付ける)」
真由美 「運ばせてもらいます…(と、段ボールを置いて外に出て行く)」

     一徹の部屋のドアが開き

一徹  「おい!美奈子!美奈子!」

     御麿、一徹を呼びに来る

御麿  「一徹はん!(以下アドリブで面白くなってしまう)」
一徹  「カレー臭いぞ!(と出て行く)」
織部  「(いつもの事らしく)ああ」
春奈  「いってらっしゃい」

     春奈、しばらく見送っていて下手退場。真由美、二つ目のダンボ
     ールを運んでくる

真由美 「あれ?大家さん…何だよあいつ…手伝わねえのかよ・・・」

     段ボールを下ろそうとして、時計に引っ掛けて落としてしまう
     割れた時計を手にして

真由美 「あ!」

     春奈、下手から出て来て。
     暗転

この記事が参加している募集

私の作品紹介

よろしければサポートお願いします! いただいたサポートは劇団活動費などに使わせていただきます!