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ライターさとゆみの日記

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こぼれ話とか
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映画「怪物」を観て1ヶ月考えた。世界を誰の目で見るのか。

映画「怪物」を観て1ヶ月考えた。世界を誰の目で見るのか。

大きな声を出しにくくなる映画だな。
エンドロールが流れたあと、そう思った。
物理的に喉がからからだったのもある。でもそれ以上に、自分が大きな声を出すこと、自分の言葉を語ることに恐れを抱くような映画だった。

そういう気持ちになったのは、私だけじゃなかったと思う。
映画が始まる前は、ばりっばりと響く音でポップコーンを食べながら会社の同僚の噂話をしていた隣の2人組は、映画が始まったら、まるで手も口も動

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ライターとエッセイスト(コラムニスト)。筆力が必要なのは、どちら?

ライターとエッセイスト(コラムニスト)。筆力が必要なのは、どちら?

今から書くことは、ひょっとしたら、物書き業界では自明のことなのかもしれない。おいおい、さとゆみ、今さらそんな話? ってことかもしれない。でも、私が昨年いっちばん驚いたことだったので、書き残しておいていいですか。

拙著、『書く仕事がしたい』にも書いた話だけれど、私はそれほど筆力が高い(つまり原稿が上手い)書き手ではないと思っている。これは謙遜ではなくて、周りの同業者を見渡して、わりとフラットにそう

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死ぬことが怖くなくなった、は言い過ぎだけど

死ぬことが怖くなくなった、は言い過ぎだけど

最初のきっかけは、ロシア好きの講座卒業生だった。

彼女はかつて仕事の都合でロシアに住んでいたことがあり、ロシアが大好きで、私のライター講座でどんな原稿課題を出してもロシアに絡めて打ち返してくる生徒さんだった。

近くて遠い国、ロシアの魅力を伝えられる人になりたいと語る彼女。「ウラジオストクは、日本から一番短時間で行けるヨーロッパなんです!」が口癖で、何度も何度もロシアについて原稿を書いてくるもの

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原稿の「赤字」をお金で買わなきゃならない時代に

原稿の「赤字」をお金で買わなきゃならない時代に

今まで一度も赤字を入れられたことがない

『書く仕事がしたい』にも書いたけれど、私は「編集者さんからの赤字は、ラブレター」だと思っていて、原稿に修正が入ると「ああ、人様のお力で、今日も私の原稿がもっと良くなってしまう。ありがたやー」と、赤字を拝んでいます。

とくに、雑誌の原稿では、いろんな人の赤字が入る。
少なくとも、担当編集者/デスク/編集長/校閲の4人が、それぞれの立場で疑問を書き出してくだ

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【対談・さとゆみ×シャープさん】 「書くこと」は、本当は選べたはずの可能性を殺していくこと。それでも、書き続ける理由 

【対談・さとゆみ×シャープさん】 「書くこと」は、本当は選べたはずの可能性を殺していくこと。それでも、書き続ける理由 

他人の言葉を捻じ曲げる罪悪感が今でも強く残っている

さとゆみ:
シャープさんはSHARP公式Twitterの中の人であるとともに、ご自身で文章を書くことも長くやってきていますよね。そんなシャープさんが今書くこととどう向き合っているのかなって、すごく興味があって聞いてみたかったんですよね。

シャープさん:
僕はまず、言葉を扱うことに対して人よりも少し敏感になっているかなと思います。特に言葉を削る

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【対談】地方で書いて稼ぐ。仲間と仕事を分け合う。家族との時間を優先する。これからのライターの働き方。

【対談】地方で書いて稼ぐ。仲間と仕事を分け合う。家族との時間を優先する。これからのライターの働き方。

地方で書いて生きていくこと──ライターはライバルのいない仕事

さとゆみ:
江角さんは大学からずっと京都にお住まいで、広告代理店や出版事業も手がける会社 で働かれたのち、29歳でフリーライターになったと聞きました。地方に住んで書くことの魅力、メリットはどういうところですか?

江角:
私自身は京都でライターになってよかったと早い段階で思いました。というのも、京都は全国紙で必ず年に何度か特集が組ま

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【対談】20年書き続けるには何をすべき?——これからのライターの「生き残る力」

【対談】20年書き続けるには何をすべき?——これからのライターの「生き残る力」

『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)の発売を記念して、「書く仕事」にまつわるテーマについて、さまざまな方と対談させていただいています。今回のお相手は、編集者で、コンテンツ・メーカー、ノオト代表の宮脇淳さん。全国各地で「#ライター交流会」やライター向けの講座を開催したり、コワーキングスペースの運営を行ったりと、「全国規模でライターとつながりのある編集者」とも言える宮脇さんとお話しをさせていた

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長老との対話

長老との対話

長老は、出版社で長年児童文学を編集していた方。業界の大先輩でもあり、大切な友人でもある。

これは、『書く仕事がしたい』を書いていた時の、長老とのメッセンジャーでの対話です。


作家という存在、書くという行為について。

長老は「僕の意見はさとゆみと逆だ。でも、説得しようとは思わない。異なる意見のまま会話を続けよう」と言ってくれた。

_____

長老:さとゆみは平易な文章が書ける人だって

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余命宣告と、ひとつの質問

余命宣告と、ひとつの質問

「ライターになって一番良かったと思ったのはいつでしたか?」と、聞かれたことがある。
これに関しては明確に答えられるのだけれど、2019年9月11日、です。その日、私は札幌のがんセンターにいた。

・・・・・・・・・・

母から、「お父さんがスキルス胃がんになった」という電話がかかってきた。
父は「まだ、ゆみには言うな」と言ったらしいけれど、来週詳しい検査結果が出て今後の方針を相談するから、その

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【対談】編集者に萎縮して思考停止したらもったいない。病まずに書き続けるために――『書く仕事がしたい』が生まれるまで(後編)

【対談】編集者に萎縮して思考停止したらもったいない。病まずに書き続けるために――『書く仕事がしたい』が生まれるまで(後編)

10月30日発売の『書く仕事がしたい』。この本について担当編集者の田中里枝さん(通称・りり子さん)とさとゆみが対談しました。前編に引き続き、後編では「書き続けられる人とそうでない人は何が違うのか?」といった質問に二人で答えています。

見つけてもらうのを待つより、すでにある「書く仕事」を取りに行こう――『書く仕事がしたい』には、書くことを仕事にするためにまず何から始めるか、企画の売り込み方など、「

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【対談】「文章が上手くなってから書こう」ではデビューできない!――『書く仕事がしたい』が生まれるまで(前編)

【対談】「文章が上手くなってから書こう」ではデビューできない!――『書く仕事がしたい』が生まれるまで(前編)

病まずに健やかに、ちゃんと生計を立てながら「書く」仕事を続けていくことについて考えた書籍、『書く仕事がしたい』が本日、発売になりました。この本がどのようにして生まれたのか、担当編集者の田中里枝さん(通称・りり子さん)と私、著者の佐藤友美(さとゆみ)が対談しました。聞き手は、一足早く本を読んでくれたライター仲間のちえみです。

大事なのは「てにをは」だけじゃない。「disコメントとどう向き合う?」―

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「ライターさとゆみの深夜のラブレター」 第1話〜第50話

「ライターさとゆみの深夜のラブレター」 第1話〜第50話

ライターのさとゆみです。
書くことや表現することについて、毎晩23時にRadiotalkさんで話をしている『深夜のラブレター』ですが、「音声ではなく、テキストで読みたい」という声をよくいただいていました。
私自身も、ポッドキャストとかラジオとかが全然聴けないタイプで、テキストで読むほうが楽なので、すごくよく、気持ちわかります。

そこで、テープ起こししてもらって整えた内容を、50話ずつnote で

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アシスタント時代に、やっておけばよかったこと

アシスタント時代に、やっておけばよかったこと

最近立て続けに、自分が文章を書いているときの頭の中の動きを、公開することが続いた。

先日はラジオトークさんのオフ会で、私のエッセイやコラムの書き方(フレームワーク)を公開し、
昨夜は宣伝会議さんで、私が「文章の書き方を教える」ことをどう捉えているかについて、話をさせてもらった。

私が、こんなふうに考えて文章を書いている、書くことをこう捉えていると、図解し見える化して伝えると、驚かれるこ

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メタ認知はもうやめる。来年食えてなくても、悔いはない

メタ認知はもうやめる。来年食えてなくても、悔いはない

先日、家に若いライターさんが遊びにきた。

私を含め、多くの業界関係者が彼女のことをライター業界の宝だと思っている。ものすごく精度の高い原稿を書かれる誠実なライターさんだ。
ちょうど、ひとまわり歳下なのだけれど、ときどき会っては「書くこと」や「書いて生きていくこと」について意見を交換しあっている。

その彼女にこんなことを聞かれた。

「さとゆみさんは、自分の強みは何だと考えていますか?」
たとえ

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