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「売れるときは本の力。売れないときはデザインのせい」。井上新八さんと小口翔平さん(tobufune)の書籍デザインの仕事の裏側

金曜の夜、いま、もっとも売れっ子でいらっしゃるブックデザイナー、井上新八さんと小口翔平さんのトークイベントを、BOOK LAB TOKYOで拝聴してきました。

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ちょっとだけ内容をtweetしたら、「行きたかったー!」「どんな話をされてた?」「今度詳しく内容教えて」という友人の編集さんたちからの連絡を何本ももらいました。会場もぎっしりで立ち見だったし、いま、誰もが注目しているデザイナーさんのお仕事なんだなーと感じた次第です。

私自身も、出席して今年一番面白かったトークイベントだったので、記憶がしっかりしているうちに、内容をまとめたいとおもい、いま、記憶をたどりながら書いています(スクリーンの画像を見逃したくなくて、メモをとっていなかったのを後悔)

お二人とも、オフレコ部分以外は書いて大丈夫だよ的空気があったのですが、もしも、ここNGでしょう的なことや、私の認識違いがありましたら、ご参加された皆様、ぜひご指摘ください。

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話は、お二人がどんなふうにキャリアをスタートさせたのか、からスタートしました。おふたりのターニングポイントとなった書籍ははこちらだそう。井上さんは、サンクチュアリ出版の夜回り先生。

当時はサンクチュアリの仕事がメイン。サンクチュアリの編集さんたちが、いろんな編集さんを紹介してくれて、飲み会で仲良くなっては仕事が増えていくという不思議な状況だった。この書籍がヒットして突然仕事が増えた。(井上さん)

小口さんは、「ここ冷め」

自分も、最初は飲み会で知り合った同世代の編集さんから仕事の依頼を受けることが多かったが、この本以降、指名が増えた。この本はありえない長さの書籍タイトルが特徴。いろんな有名な本やデザインを参考にしようと提案され、このダビデ像も、編集さんからの案を生かしながらデザインした。(小口さん)

ここで、井上さんが、
「tobufuneさんが出てきたとき、やばい。自分がやってきた仕事、全部tobufuneさんに取られると危機感を感じた」とご発言。
それを受けて小口さんが
「井上さんといえば、書籍デザインにいろんな発明をした人。例えば、外国の子供の写真に、ものすごく大量のテキストを帯に入れるデザインを発明したのは、井上さん」と。

これ以降、子どもの写真を使って作って下さいと言われることが増えたし、カバーに入れるテキストの量がどんどん増えていって、中にはA4の用紙1枚にテキストが入っていたことも。
また、最近売れている本に関して、「あの子供の写真の本、井上さんのデザインですよね? すっごく売れていますよねー!」と、別のデザイナーさんの本について言われることもよくある。(小口さんも勘違いされていたことが判明)
最近は「あの感じで」と言われると複雑な気持ちもある。もちろんその案も出すけれど、それ以外の案も出す。(井上さん)

一方のtobufuneさんでは、斜めに入れたタイトルが話題になって以降、「あれ風で」と言われることが多くなったのだとか。

ただ、この手法は小さめの発明なので、やはり、バリエーションに限界がある。「斜めの感じで」と言われると、毎回違った案を出していくのにも限界があった。(小口さん)

話は、ベストセラーのデザインに関しての言及も。

GRITは、もともとなじみの薄い英語タイトルを押す予定はなかったのだとか。

「最初は『やり抜く力』が大きく目立つようにというオファーだった。ただ、何案か作っているうちに、GRITって強い言葉だなあと思うようになって、最終案に近い形を提案。これは箔であったこともあいまって、インパクトが出た。その後「GRITみたいな感じで」と言われることもあるけれど、箔じゃないと雰囲気は変わると思う(井上さん)

tobufuneさんからは、『ファクトフルネス』について。(以前、この書籍に関してはコラム書かせていただきました

いろんな案があった中で、この案だけがクラフト感のある紙の案だった。こういう異質な案があると、採用される可能性が高い気がする。
その前に『1分で話せ』というベストセラー本があって(※こちらもtobufuneさんデザイン)、それもクラフト感があるグレーの表紙だったのだけれど、あれが書店でものすごく目立っていたという記憶もあった。
ただ、このFACT FULNESSの場合、同じクラフト案でも、タイトルに青バージョンと赤バージョンがあって、青の方が選ばれたのは意外だった(小口さん)

話題にあがった1分で話せはこちら。(以前この本の制作秘話を取材させていただいたことがあります。こちら

ちなみに、tobufune さんは、複数のスタッフさんでデザイン案を出すそうで、1人あたり2案まで出してよいことになっているそうです。これは、小口さんが1人でデザインをしている時、3案目からは辛くなってくるという経験を経たからだそう。誰かが最初にデザインをしたら、その後の人は、その案の方向性を避けてデザインするのだとか。

一方の井上さんは「そんなtobufuneさんに対抗するにはどうすればいいかと考えて……(笑)」と前置きされながら、打ち合わせしたら、1週間以内にラフを作ることにしているのだけれど、打ち合わせ次の日に1案、2日あけてまた別案、そして提出前にまた別案と、日を分けてデザインされているのだとか。すでに案はあるからと思って気楽に臨む最終案が採用されることもままあるそう。

そして、ここから話は、最近の仕事に。

小口さんがお話しくださったのは、是枝裕和監督の映画『真実』の撮影の裏側をまとめた『こんな雨の日に』。(以前私もこの本のコラムを書かせていただきました)映画のノベライズでもなく、カトリーヌ・ドヌーブらの写真は帯にしか使えないという諸条件、そして是枝監督の作品を観るに盛り込みすぎるのはお好きじゃないだろう、ご自身の名前が大きすぎることもあまり好まれないだろう、という予想をしながらデザインをしていたのだとか)

最初にタイトルや是枝監督の名前が大きく配置された案があり、でもそれはきっと監督が選ばないだろうと感じて、それとは別方向で作られた文芸書のようなシンプルな案があった。案の定、監督は後者の案を気に入ってらしたのだけれど……(小口さん)

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↑いったんは候補から外れた盛りだくさん案
でも、「シンプルな案で本当にいいんだろうか」「書店で売りに繋げられるのだろうか」と考えていたとき、シャワーを浴びていたら急に「あ! 間違っていた!とおもって、直前でこの案を追加した。(小口さん)
最終的に選ばれた案は、映画のタイトルである「真実」(しかし書籍のタイトルではない)が、一番大きくなっている。書店で勝負できるインパクトもありつつ、映画のタイトルが一番大きくなるということであれば、是枝監督もOKしてくれるのではないかという予想があった。これは(この思考過程も含めて)、自分でもいい感じに作ることができたと思えたデザインだった。(小口さん)

井上さんは、最近発売になったばかりの、ディスカヴァー・トゥエンティワンの干場社長の書籍を紹介。この本も、仮タイトルの時点から、(井上さんいわく)”勝手に”デザインをはじめていたのだそう。素材が揃っていないうちから勝手にデザインすることはよくあるとのことで、その発言に小口さんが驚かれる。

(干場さんのこの書籍に関しては、私も、ここで書かせていただきました

結果的には、仮タイトルだった『楽しくなければ仕事じゃない』がそのまま本タイトルになった。英語の「No Work, No Fun」は、最初にまだ素材がないころ、僕が英語もいいかもといってデザインしていたものが、最後まで残った。ただ、文言は、「No Work, No Fun」ではなかったのですが。
最後、これで本決まりかなという段階になって、帯の文言が一気に増えた。表4にあったほうのコピーを表1に持ってきたほうがいいのではとなって。なので、縦組みしていたデザインを横にして、なんとか大量のテキストをおさめた。(井上さん)

ここで、話は、編集さんとどんな打ち合わせをしているかという話になります。

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「読者ターゲットが30代から40代の男性のビジネス書だけど女性も手に取りやすく、でも20代や50代も取り込みたい」というような内容は、みんなが言うことなので、あまり気にして聞いていないと小口さん。

それよりは、蔦屋書店じゃなくて未来屋で売れるような本にしたいんですと言われたら、イメージがつきやすい。
僕はよく書店にいってお客さんのあとをずーっとついていって、どんな本を買っているのかなあと観察したりするんですよね。
たとえば、新宿紀伊國屋であれば1階の新刊コーナーで買うお客さんは1冊買いの人が多いし、上の階に行く人は複数冊買う人が多い。本を作るときには、1階新刊棚なのか3階で買う読者なのかというようなイメージを持って作る(小口さん)

このお話、とても面白かったです。というのも、ベストセラー本を連発される編集さんも、やはり同じようなことをおっしゃる方が多いから。

お二人とも「編集さんと共通言語を持っていることは大事。あの本みたいにと言われたときに、ああ、あの本ですね、とわかると話が早い」と口を揃えます。

そのうえで、その本が棚でどんな本と並び、どんな時間を超えていくかも想像すると、デザインの発想になると小口さん。

たとえば、『服を買うなら捨てなさい』をデザインした時は、この本の隣に必ず並ぶであろう本が最初からイメージでいていた。それが、『フランス人は10着しか服を持たない』。(小口さん)
だから、この本と並んで、ずっと長く時間を過ごせていれば、おのずと売れていくだろうと考え、この本と並んで映えるデザイン……と考えた。(小口さん)

たしかに、この2冊が書店さんで、ずっと並んでいた様子を覚えています。


尊敬するデザイナーさん、気になるデザイナーさんは? の質問に、小口さんは「寄藤さん(寄藤文平さん)にとても影響を受けた。寄藤さんのデザインは何回もトレースした」と。井上さんは「祖父江さん(祖父江慎さん)」と回答。

そして、両者が今いちばん気になるのは、杉山健太郎さんとのこと。

とくに、『読みたいことを書けばいい』のカバーの書体は、何の書体を使っているかわからなくて、担当の編集さんに杉山さんに聞いてもらったほど(小口さん)



この日のハイライトは、小口さんが「売れるときは本の力。売れないときはデザインのせい」とおっしゃったところで、これは会場のみんなに刺さった音が聞こえたのですが、


私はそれに加え、小口さんの「売れないと、著者さんは次の本を作れなくなるから」という言葉も刺さりまして、著者の人生をそんなふうに考えてくださってありがとうございますと、涙が出そうになりました……。(もうすぐ新著が出るので、お言葉沁みます)。

本の生命をともに生み出してくださるデザイナーさんが、そんなふうに思って作ってくださるということを知ると、著者さんは涙が出るのではないかと思います。

私は普段、著者orライターで、編集としてブックデザイナーの方とご一緒させていただく機会は年に数回しかないのですが、今回の話を聞いて、もっともっとデザイナーさんとお仕事したいから編集の仕事増やしたいなあと思ったくらいでした。とても刺激的だった……。

そして、一方で、デザイナーさんが書籍に携わっているようなスタンスで、毅然とした「プロとしての仕事」ができるライターになれたらいいなということも感じたわけです。この話は、またいつか書きたいと思います。

というわけで、興奮したので、長くなりました。

書籍を作っていらっしゃるみなさん、今年もあと2ヶ月、頑張っていい仕事してきましょう!! 私もがんばるーーー。

それでは、また。

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